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第12話※

「…おい。コウ…起きれるか?」 声が聞こえる。 髪を撫でられたような気もした。 もう朝…もうちょっと寝たいなぁ、寝たふりしちゃおうかな、いや〜…アンジュに怒られるか、…ん?あれ…? 「うええぇぇぇ、おあぁぁ!」 自分が置かれている状況にびっくりし過ぎて、ベッドから起き上がろうとしたとき、足がもつれてベッド下に転げ落ちてしまった。目が覚めたらマリカのベッドで寝ていて、そのマリカに起こされているという状況が一瞬で理解できた。 「大丈夫かよ、怖い夢見たのか?」 「ち、違う!いや、ちょっと!その…」 昨日、マリカに添い寝してそのまま寝てしまった。マリカが起きる前に、コッソリ自分の部屋に戻ろうなんて、生ぬるいことを考えて、スヤァっと眠り込む自分が許せない!マリカに起こされるなんて格好悪い。 「マ、マリカ、ごめん!」 「何、どうした?何をそんなに慌ててる」 フラットシーツに絡まりながら、もがいているコウをシーツごとマリカは抱き上げた。 「昨日、マリカを探してて…ここで寝てたのがわかったから、俺も隣で寝ちゃったんだ。朝までごめん!」 「お前、意外と寝相悪くないんだな。人のベッドでスヤァって寝てたぞ」 やっぱりスヤァって寝てたんだ…許せん、順応性が高い俺!と心の中で叫ぶ。 ベッドの上にポフッとマリカに丁寧に置かれる。絡まっていたシーツもやっと解けた。 「寝相なんか悪くねぇってば。勝手に寝ちゃって悪かったけどさ…」 「それよりお前、ドライヤーで乾かさないで寝ちゃったのか?すげぇぞ、髪」 すげぇぞと言い、マリカはコウの寝癖をピョンと引っ張った。その後、コウの頭を大きな手でゆっくりと撫で「ふっ」とマリカは笑った。コウは急に身体が熱くなるのがわかった。 昨日、添い寝をした時、寝ぼけながらコウの髪を撫でていたマリカを思いだす。撫でながら寝ぼけてコウを抱き寄せたマリカにドキドキするも、そのままコウは寝てしまった。 思い出したら今度はカァッと顔が熱くなった。最大級に赤面しているであろうということが、自分でわかる程である。しかし、何故、赤面するのかは、よくわからない。 「げっ!寝癖?ヤバっ!シャワー浴びてくる!」と、誤魔化し、自分の部屋に走るようにして戻った。 《おーい、コウ!ドライヤーするからシャワーから出たら声かけてくれ!》 《わ、わかった!》 急いでシャワールームに入る途中、テレパシーで話しかけられる。しかし、コウが急いでいる理由は寝癖なんて、そんなもんじゃない。 勃起している? 自分自身の気持ちに疑問符が付くのは、確信がないからだ。これは何?と、シャワールームに駆け込み、下半身を覗くと、やはり勃起をしている。完全にガチガチに勃起をしているのがわかる。 朝だから朝勃ちだと思いたい…しかし、違うということは自分自身でわかっている。 それはさっき、マリカに頭を撫でられた時、胸がドキッとしてそのまま勃起したからだ。 何で?どうして?と、ちょっとパニックになる。だっておかしいじゃないか、マリカに頭を撫でられるなんてよくあることだ。だけど、今まで頭を撫でられて勃起なんかしなかったのに! マリカはコウを構い倒す。王宮ではお姫様抱っこだってなんだってよくやることだ。「至れり尽くせりを許せ」とマリカは言い、一般的に恥ずかしいなぁということ全般、嬉々としてやっている。 構い倒すと本人がリラックスするというのだから、しょうがない。そんなマリカの過保護は、一種の癖のようなもんだとコウは思っている。 そんな行為に慣れているはずなのに、今日に限ってコウの身体が反応してしまった。 しかし、悩んでいても解決方法はひとつしかない。勃ってしまったものは治まるまで待つか、出すしかない。そして、今は治まる気配が、ない… コウは、シャワーを浴びながらペニスを上下に譲って手短に自慰行為を済まそうとした。ペニスからはタラタラと先走りが流れている。すぐに射精しそうだ。いつもと違う自分の身体に戸惑ってしまう。 マスターベーションなんてほとんどしない。溜まったら出すという行為だけを無心でしていた。マスターベーションなんてそんなもんだとずっと思っていた。 だけど今は無心でいられず、心が掻き乱されている。ペニスを上下に譲りながら思い出すのはマリカだった。マリカに抱きしめられたことを思い出し、先走りを多く出しているなんて、誰にも言えないことだ。 昨日、寝ぼけながらもマリカに抱きしめられた。自分より遥かに大きい肩に頭を埋め、厚い胸板と体温を感じた。引き締まって筋肉質な腕に抱きしめられるのが気持ちが良く、あの腕でもっと力強く抱きしめて欲しいと想像しながら、ペニスを扱く手が速くなる。 意外とガッシリとした手は節がしっかりと盛り上がっており、男性らしく、たくましく見えてかっこいい。マリカの手首から指先まで思い出している。 あの大きな手で、ペニスを握られるのを想像してしまう。マリカはどんな感じで愛撫をするのだろうか。過保護に扱うように優しく触れるのだろうか。それとも、冷たく突き放したように扱われるのだろうか。 そんなことを想像しながらマスターベーションをするのはおかしい、そう思ってるのにやめられない。だから、今日の勃起に戸惑う。自分じゃない感じで驚く。 「やば…うっ……はっ、は…はっ、は…」 シャワールームに小さく声が上がる。シャワーの音で上がった声はすぐにかき消されていく。トロッと白濁したものも、流れていく。 マリカを想像しながら、射精してしまった。触れられるのを、撫でられるのを想像してしまった。いけないことだと思ってる。わかっているのに想像してしまう。 それに、まだ興奮が収まらないなんて、どうしたらいいんだ。

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