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第13話
おかしい…おかしい!おかしい!
「もぉぉぉぉ!!!だぁぁぁーー!」
枕に顔を押し付けて絶叫している。
隣の部屋のマリカに聞こえないように絶叫するため、枕に顔を押し付けてた。
絶叫が聞こえちゃったら、そりゃもう「どうした!なんだ!何があった!」と大変なことになるとわかってるから、こうして枕に絶叫している。
あれから毎日マスターベーションをしていた。マスターベーションなんて、頻繁にすることがなかったから、今の止まらない性欲に驚いている。
マリカの隣で寝て起きた日、勃起した自分の下半身に驚くも「朝勃ちに決まってるじゃん!そうに決まってる!」と決めつけようとしていた。
だけど、朝勃ちだ…なんて緩いもんではなかった。
あれからひとりになると、すぐ勃起してしまうようになったからだ。ムクムクと下半身が動き出してしまう。夜、朝問わず、ひとりになると勃起して、マスターベーションをするようになってしまった。
それも、必ず行為中はマリカを思い浮かべてしまう。そんなのおかしい!と、わかっているが止めることが出来ないでいる。
マリカとは毎日顔を合わせなくてはいけない。顔を合わせると、自分がしている行為に恥ずかしくなったり、後ろめたさから罪悪感がズーンと出てきて、どうしたらいいのかわからなくなる。そして、たまりに溜まった感情を爆発させて絶叫している。
それを、毎日毎日繰り返していた。だけど繰り返してばかりいると日常になり、すーぐ通常運転になる。相変わらず、順応性が高い俺っ!である。
そうしているうち、マリカを思い浮かべてスルことに対して、罪悪感の陰が薄くなっていった。
だけど、射精した後だけは、特に恥ずかしさと罪悪感が最大限に膨らんでくる。なので枕に顔を埋めて「恥ずかしい!だけど何故だ!おかしい!のあああ!」という思いを吐き出す。これを人は賢者タイムとでも呼ぶのだろうか。
射精して、冷静になり思い出し、そして枕に向かって恥ずかしさを絶叫…けど、それも日常生活になりつつあった。
しかし何故、マスターベーションの時に思いだすのはマリカなんだ。今までは、無心になーんにも考えず、ただペニスをいじり、気持ちいいとだけ感じ、射精していた。それが何故…あの男を思い浮かべるのか。
賢者タイムで最終的にまた悩んでいる。
《コウ、起きたか?》
《…ハイ。オキマシタ》
テレパシーで起きたかどうか確認される。
以前は、隣の部屋から容赦なくノックをせずにコウの部屋に入ってきていたマリカだが、やってる最中に乗り込まれたら困るため、部屋に入る前はテレパシーを送ってから、とコウから提案したことであった。
なので今朝も、起きてヤッて出して、枕に向かって絶叫し、マリカからテレパシーを受けている。
「おはよう…どうした?顔が赤いな。熱か?風邪引いたか?」
内ドアからマリカが部屋に入ってきて、コウの顔を見て早々に言った。コウのおでこに手を当て、熱を測ろうとするのを止める。いや、だって、顔が赤いのはお前のせいだからっ!とは言えずにいる。
「だ、大丈夫!部屋が暑いからかも。別に熱はないよ。風邪も引いてないし」
「そうか?体調悪かったら言えよ?今日の午後から出張だから、体調悪くなったら予定変更しないといけないしな」
「はは、平気。問題ないよ」
マリカは相変わらずコウを過保護に扱う。添い寝をした日以来、もっとそれが進行していると感じる。
いつもと違い何故、長風呂?心配するだろ?心配だから一緒に風呂に入ると言い出したり、ちょっと欠伸をすれば「どうした?疲れか?眠れないのか?」と真顔で聞かれる。
答えに困ると「この前よく寝ていたじゃないか。寒いからか?そうだ、添い寝をすれば眠れるはず」と言い出し、一緒に寝ようと提案される。
お前のことを思い浮かべての性欲に悩んでいるんだ!とは言えない。
それなのに、最近のコウの態度に「何か悩みがあるのか?言えよ」とも言い出す鋭いマリカが本当に憎たらしい。
悩みも膨らむが、実際のところマリカからの扱いに慣れてしまった今は、居心地が良くてたまらないのが本音だ。マリカに構われているのが嬉しいという、謎の感情がムクムクと大きくなっていく。
そして、その次に考えることがある。
それはマリカの過保護の対象だ。過保護に接する対象が、コウから他の誰かに移ってしまったら、自分以外の誰かを心配したり、過剰に構い始めたらと考えると、決まっていつものキュぅぅぅという、身体の痛みが出てきてしまう。
マリカのコウに対する過保護は、護衛という任務を全うする延長線にあると感じる。
マリカがコウの護衛を離れ、新しい任務に就いた時、また別の対象が見つかればすぐそちらへ過保護な感情は移るだろう。
そうなったら、自分だけがこんな感情をもったまま、変化もない日々を淡々と過ごしていくことになる。
いつから離れていくとわかっているが、今はマリカを取られたくないと、わがままな思いが胸に広がる。
「お前、最近よく寝れてるのか?まだ何か考えてるだろ。俺でも解決出来ないことか?疲れが取れないのか?」
マリカは心配そうな顔をして、コウの目の下を指で撫でる。クマができているのだろうか。触れられたところが熱くなる。
「だ、大丈夫だって!何もないよ?それよりさ、早くダイニング行こうぜ。ウルキが待ってるし」
誤魔化し方は下手だという自覚はある。
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