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第17話

狭いダイニングにあるテーブルにコウとマリカが座る。テーブルに椅子は2席だけ。なので他の大人はソファに座ったり、立っていたりしている。とにかく部屋中に、ぎゅうぎゅうと人が溢れている。 国王である父が話し始めると、赤ちゃんが泣き出し、大人たちは大慌てであやし始める。お茶を出してもらうと、もう一人の子供がキャッキャと笑い、コウの膝の上に乗り始める。 この狭い部屋に大人数が入ってるもんだから、誰かが動き出すといちいちモノにぶつかる。ガチャン、ドシャーンと音を鳴らし、あちこちで倒れたり壊したりと、騒がしい音がしていた。 その度に、「あらあら」「大丈夫かっ!」「キャッキャ」と、皆が喋り出すから、会話が一時中断されてしまう。 何も聞かされず、どこに連れていかれるのかもわからない中で、不安から最初は身構えていたコウとマリカであったが、元々何ごとにも順応性が高い二人である。 いつの間にか、コウは赤ちゃんを抱きかかえ寝かしつけていて、マリカは壊れたモノを片っ端から片付けまわっていた。 外の静けさに反して部屋は賑やかである。 そして、そこにいるみーんなが一斉に喋り出すので、話を聞くのは困難であったが、何とか状況は把握できた。 「コウはね、小さい頃とあまり変わらないんだ。ほら、くせ毛で可愛いんだ〜」 父である国王がお茶を片手に雑談を始めたところで、マリカとテレパシーで話し合う。赤ちゃんを寝かしつけ中のコウの隣に、片付けを終えたマリカがやっと着席してくれた。 《要はあれだろ?父さん元気になったよって言いたいんだろ?人騒がせだな》 《ああ、だけど国王が倒れて入院してたのは本当だ》 《本当かよっ。ってさ、なぁ、なぁ、あの人...父さんの新しい恋人?気になる》 《そう、あの女性は王の今の恋人でジェーン。ここはあの人の家なんだろう。子供は2人か…初めて会ったけど》 《で?手前の人は乳母だろ?王宮から来てんのかな》 《違うな。ジェーンの母親だろ。本当のおばあちゃんだな。似てるよな》 《マジかっ!言われてみれば似てる!じゃあ、あっちの兄さんは?いかつい…シークレットサービスの人?》 《あれは俺の上司。オーウェン上官だ。口癖は、俺の胃袋はセブンティーンと、上司の務めは部下を守ることだ》 《なんだよ、胃袋セブンティーンって》 《すげぇ大食いなんだよ。だから胃袋だけは自称、永遠のセブンティーンなんだと。いくらでも食べられるって》 《くぅーっ!やめろ!笑っちゃうだろ!胃袋がセブンティーンって、センス良し!よっ、セブンティーン上官!》 テレパシーで人間観察と、いつものふざけたことを言い合っても、二人はポーカーフェイスを崩さないようにしている。真面目な顔をしているセブンティーン上官を見ると、プルプル震えそうになるが堪えている。 「コウ!アルから聞いてるぞ〜、頑張ってるんだってな。父さん嬉しいぞ」 「は、え?アル?何を?」 父が嬉しそうに、コウは頑張っているんだと話をしているが、何を頑張っているのか教えて欲しい。それにアル?とは...誰のことだっていうのかも、是非教えて欲しい。父はいつも言葉が足りない。 「だーかーらー!コウは頑張って王の代わりに、政務を執り行ってるんだろ?今はキッチンのワゴン問題に力を入れてるって聞いてるよ〜。なっ!アル」 なっ!と元気よく父が振り向いた先には、国王の姉の夫がいた。まさかと思ったが、アルとは…彼のことらしい。 「アルはね、私の親友なんだ。コウの仕事っぷりを褒めてくれてたよ」 父がウィンクをして教えてくれた。ゆっくり笑顔で頷くのは、まさかの国王の姉の夫ドーナツ様である。アルとはニックネームだという。 「コウ様、アレキサンダーグリルドバーガーキングJr.レストレスドーナツクリスピーで、ございます。陛下からはアルとお呼びいただいております。お二人は、ドーナツとお呼びいただいてるようですが…まぁ、よろしいでしょう」 ひっ…っと息を吸って、コクコクと頷いた。笑顔がなんとも怖い。隣のマリカも動きを止めていた。 しかし、何故ドーナツと呼んでいるのがまたバレたのだろうか。以前も同じようなことがあったはず。まさか脳内の会話を聞かれてる?もしかしてテレパシー使えんじゃないか?いや…そんなことはないだろう。 《マ、マリカ!ドーナツ先輩が笑ってる!》 《お前、やめろって〜、ドーナツ先輩とか呼ぶなよ。せめてドーナツ様って呼べよ。それにドーナツ様だってそりゃ笑う時あるだろ?》 《びっくりした…ドーナツ先輩は敵じゃなかったんだな。父さんの親友だってよ。てっきりさ~国王の席を狙ってるって思っちゃってたよ》 《こんなに国王陛下と仲がいいのは知らなかったけど、まあ、敵じゃないな。うわっ!見ろよ、コウ!ドーナツ先輩がドーナツ食べてるぜ!》 《ちょ、やめろって!やっべぇ、笑っちゃう。うあーっ!穴があいてないタイプのドーナツ食べてる!えっ、マジ?やっぱり?そっち?》 《コウ、悪いな〜、やめろって》 相変わらずテレパシーでは言いたい放題である。国王の姉の夫には、やっぱり脳内の会話は聞かれていないようだ。こんなに言いたい放題だったら、すでに怒られてるはずだし。 「マリカ、久しぶりだな。元気だったか?」 「上官、ご無沙汰しております」 いつの間にかマリカの隣に来て話しかけているのは、セブンティーン上官…もといオーウェン上官だった。 「この後、陛下から重要なことが伝えられる。それが今日の本題だ」 「本題ですか…」 上官が、小声でそっとマリカに耳打ちしているのが聞こえてきた。小声だがハッキリとしたその言葉に、またコウの中で不安が広がり始めた。 腕の中ではさっきまで大声で泣いていた赤ちゃんがスヤスヤと寝ていた。もう一人の子供も、乳母に抱かれて、眠たそうにうとうとしている。二人共、沢山の大人を前にはしゃぎ過ぎて疲れたようだ。 赤ちゃんのお母さんであるジェーンが「ありがとうございます」と言い、コウの腕の中から寝ている赤ちゃんを引き取っていった。温もりだけが残り、何故か急に寂しさがこみあげてきてしまった。 「...では本題といこうか。コウ、マリカ、ここに呼び出した理由を伝える」 父が国王陛下の顔になり口を開いた。

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