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第18話

「ここまで来るのに何度も車を乗り換えて来たはずだ。その理由はわかるか?」 今まで止まらないお喋りを繰り広げ、哺乳瓶片手に、子供と遊び倒していた父が国王陛下の顔に戻った。隣にいるマリカにも緊張が走るのがわかった。 車を乗り換えて来た理由と聞かれるが、そんなことはわからない。コウは父を見つめ、無言で首を横に振った。 「それは、私が命を狙われているからだ。だから警護も含めて皆行動は慎重にしている。コウと接触するのも誰にも気が付かれないようにする必要があった。だから車を何度か乗り換えてカモフラージュをした」 「父さんが命を狙われてる?だからそんな面倒なことしたっていうの?」 水面下で、国王陛下を狙った事件が起きていたという話を聞いた。 国王が滞在していたホテルで、マスクをしボーガンを持った男が側近護衛官に反逆罪で逮捕される事件があった。犯人の男は数カ月かけ計画をし、実行に移したところ昨年のクリスマスに捕まっている。 犯人が捕まったことで事件は解決したと思ったが、先日、また国王が狙われた。そして最悪なことに狙われた国王は、意識不明の重体にまでなってしまった。 ヘーゼル国は平和な国だ。ずっとそう思って過ごしてきた。だから正直、映画の世界のような話でピンとこない。父が淡々と話しをするのもまた現実味がない。 「意識不明になるなんてさ、何があってもそんなことになるんだよ」 コウは、父の事件の内容は聞かされていなかった。何があったかは伏せられている。そばで寝ている子供たちが起きないように、なるべく小さな声で聞いた。 「郵便爆弾が届いた。それが爆発して、私は意識不明の重体となったんだ」 「爆発...?郵便?なんで、そんな…」 思いの外、父の口から生々しく恐ろしい言葉を聞くことになる。 「ジェーンの家に頼んであった新刊書が届いたと思ったんだよ。後から調査したら送り主も住所も虚偽。ただ、届いた時は何も疑わずにいた。それがその郵便爆弾だ」 父とジェーン、それに子供たちと一緒にジェーンの家にいた時に起こった事件だった。頼んであった新刊書が届いたと思ったらそれは爆弾であり、最悪なことに、爆発から火災を招いてしまったという。 火はあっという間に部屋中に回り、父は子供たちとジェーンを庇いながら逃げたが、その時、煙を吸い込んだのが原因で、意識不明の重体となってしまったらしい。 「そんなひどい事件が…あ、ジェーンさん怪我はなかった?大丈夫…?でも郵便物なんて…開けた時に爆発したの?」 「誰も郵便物を開けていないんだよ。届いた郵便を部屋に入れておいたら、少しして勝手に爆発したんだ。タイムボムだ」 郵便物に時限爆弾が仕掛けられていたとう。不幸中の幸いで、ジェーンや子供たちに怪我はなかった。ただ、父だけが負傷してしまったようだ。 「これが偶然であればいいが、偶然ではない気がする。何が言いたいかわかるか?コウ…お前も最近、火事にあっただろ?」 あった。 父は、王宮キッチンでの火災のことを言っている。コウの身近に起きた火事だ。それが事故ではないというのか? いやいや、あれは事故である。しかも、火事だ。郵便爆弾とは違う。事故からの火災だった…はず。 でも、あの時の出火原因はわからない。コウは意識を失くし病院に運ばれたので、あの時の原因は何だったとは聞いてはいない。そう考えると、急に身近に起きた火災も、事件のように思えてきてしまう。 コウの不安がわかったのか、マリカにテーブルの下で手を握られた。マリカに手を握られて安心する。だけど、自分の手は冷たいと感じる。 「コウ、よく聞いて欲しい。国王である私と息子であるコウとウルキが狙われている。ここにいる子供たちは、私のせいで巻き込まれただけだ」 父は断言した。自分だけではなく、コウとウルキも狙われている対象であるという。 「父さんと…俺とウルキ?」 「そういうことになる」 「…なんで?おかしくない?父さんは国王だから狙われてるのはわかったよ。でも俺とウルキは子供だろ?…えっ、父さんがあっちこっちに作った子供は?その子たちだって同じように狙われる対象になるだろ?ここにいる子たちだって…」 父は、恋多き国王と呼ばれ結婚離婚を何度も繰り返し、子供をあっちこっちに溢れるほど作っている。コウとウルキが狙われているのならば、他の子供たちも同じように狙うはずだ。 「私に子供は多くない。犯人もきっとそれは知っている」 「どういうこと?犯人のこと知ってる?わかってるの?」 「まだわからない...今、極秘で調査をしている。犯人は捕まえていないが、私は王として復活し、国民の前に立ち説明をする。命を狙われたことは言えないが、王としての責任は果たすつもりだ。そうなるとコウ、お前のことが心配だ。だから、」 父が話を続けていたが途中で遮ってしまった。聞いているうちに不安な気持ちと、イライラとする気持ちの両方が同時に高まっていく。 「待って!なになに!何なのそいつ、ムカついてくるんだけど。反逆者?わかんないけどさ、最終的にそいつの要求って何?ウルキなんて赤ちゃんだよ?赤ちゃんにまで危害を加えようとするなんて最悪だよ!しかも、ジェーンさんとか、関係ない人を巻き込んでるんだろ?」 父が命を狙われたとか、次はコウやウルキが狙うとか、国王とか王族には何をやってもいいというのか。それに、この前コウが気を失ったキッチンでの火災も同じだというのなら、多くの人を巻き込んでいることにもなる。 何を勝手にやってくれてるんだ!どこのどいつか知らないけど、勝手にもほどがある!と、コウは話を聞けば聞くほど、ムカムカとしてきていた。ムカついてはくるが、反してやはり不安でもある。命を狙われるなんて聞かされれば不安になるのは当然だろう。 コウの興奮と不安を抑えるように、マリカに強く手を握られる。 「身の危険があることは確かだ。だからな、コウ聞いてくれ。ここから少し離れた場所に部屋を用意してある。今からこの件が落ち着くまでそこに滞在してくれ。そしてコウにはオーウェンを付ける。オーウェンが24時間コウの警護をする」 オーウェンとはマリカの上司だ。オーウェンに警護されながら部屋から出ず、ジッと事件が解決するのを待っているようにと、国王から決定事項として言い渡された。

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