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第20話
言ってみるもんである。
王族関係者として命を狙われているかもしれないが、今の仕事はマリカと二人で継続したい。しかも、警護はマリカにお願いしたいと必死に王である父に伝えたら「いいよ」と言ってもらえた。
但し、条件はある。
それは都度報告を入れること。
「コウ様、今日からの出張はそのまま継続としますが、宿泊先は変更し、使用する車も交換とします。また、都度行動は報告するようにしてください。マリカ、報告はお前からするように」
オーウェンからこの後の説明を受ける。コウを保護し24時間オーウェンが護衛するという計画から、マリカがコウを護衛しながら、二人で共にいつものように仕事をし続けることに落ち着いた。出張も行けるし、その他業務も通常通りとお許しが出た。
国王側の予定から変更となるが、オーウェンはさすが王の側近兼護衛である。その辺の切り返しは慣れているのだろう。あっという間に新しい計画を練り直し、必要なものを揃え、準備を終えた。さすが、マリカが慕っている上司であるって感じだ。
「わかりました。今以上に行動を共にし、都度報告いたします」
オーウェンにマリカは素直に返事をしている。二人の上下関係を盗み見ていると、お互いの信頼関係があるのがわかる。
ちょっと羨ましいと感じる。
母の腕で気持ちよく寝ていた赤ちゃんを、マリカを怒る大声で起こしてしまった。罪滅ぼしとして、コウが抱っこし、あやしている。
赤ちゃんは機嫌を直してくれたみたいだ。コウは、赤ちゃんをあやしながらマリカとオーウェンのやり取りの続きを見ていた。
「それと、マリカ…お前の車は王宮からここまでノンストップで来てるから目立ってバレてるな。だから俺の車とチェンジな」
そう言い、オーウェンは車のキーをマリカに渡す。マリカもキーを渡し、お互い交換をしている。
「げっ!マリカ~、お前やってくれちゃってんな?バレちゃったか?なんで車を乗り換えなかったんだよ。王宮からここまでずーっと同じ車を乗るなんて目立っちゃうじゃん。俺なんて途中でめちゃくちゃ乗り換えたぞ?」
と、茶々を入れるコウをマリカは無視している。
しかし、慕っている上官に指示を出されているマリカの姿は新鮮である。コウの前では余裕で飄々としているところがあるが、オーウェンには素直に頷き、ちょっと余裕はなさそうである。そんなマリカの姿を見るのも初めてであり、何となく面白い。
指示を出されている内容は、乗ってきた車の件である。マリカだって、状況がわからずにここまで来てるんだから、途中で別の車に乗り換えをするなんて難しいだろう。だけど、その辺も考えて行動するようにと言われているようだ。
王子を護衛する身として自覚を持ち…とかなんちゃら言われているようである。要は、車を乗り換えてカモフラージュ出来なく、犯人にバレてしまったらまた最悪なことになっていたかもしれない。目的地に集まってるのは、王であり王子であるからということだ。
でもまあ、マリカが車を乗り換えなかったとしても、オーウェンが慌てていないところを見ると、何らかの対策はできてたんだろう。もし犯人がこの場所を特定できたとしも、なーんも問題ないって顔をしている。
初めて会った人だけど、オーウェンは誠実な感じで、信頼ができると思った。
「上官の車でこれから出発しますが、途中ドライブスルーに寄ります。コウ様は今日のランチでは何も召し上がってませんでしたので、すぐにでも何か食べていただきたいと思っています。ドライブスルーでまた報告します」
マリカがオーウェンに報告をしている。今日ランチを食べられなかったことまで報告するのかっ!今日のランチでは、思い出したくない理由があるのに。
どんな些細なことでも伝えなくてはならないようだ。これからの都度報告ってやつが恐ろしいと、コウは思った。
「えーーっ!コウ、どうしたの?大丈夫?お腹痛い?なんで昼に食べられなかったんだ。キッチンで何かあったのか?」
「あっ!ドーナツありますよ。それか、今から作りましょうか。何がいいですか?ちょっと待っててください」
「さっき作ったキッシュロレーヌ食べますか?お腹すいたでしょう。ランチを食べないなんて…」
「コウ様、何か心配事がありましたか?これからは私に何でも申し付けください」
マリカの報告に、父を始めここにいるみんなからやたらと心配されてしまう。何があった、大丈夫か、何か食べるか、と矢継ぎ早に言われ返答に困ってしまう。
そりゃそうだ。キッチンでのランチを前に食べられなかったなんて大問題である。普通の国民がそんな話を聞いたら心配するのは当たり前だ。
確かにお腹は空いている。だけど今はここからすぐに出ていきたい。早くマリカと二人になり落ち着きたい。それが最優先事項である!
「皆さん、ありがとうございます。大丈夫です。コウ様の体調は悪くありません」
なんだか余裕のマリカに戻っている。マリカの声で心配する皆の気持ちが収まった。
マリカはコウの気持ちは察してるようだ。それにマリカもいち早くここから脱出したいと思ってるはず。親切で、明るくて、あったかいけど、面倒くさい親族の集まりのような感じがちょっとする。
「あ、そうです!体調は問題ありません!ウルキが集めてるおもちゃがオマケに付くドライブスルーがあるんです。そこに行きたいので、父さん寄らせてください。それから皆さん、突然の訪問に快く招き入れていただきありがとうございました。じゃあ、父さん行くね。すぐに連絡するから」
バタバタとした挨拶となったが、これから行くところは、もうちょっと時間がかかりそうだ。そのため長居する事も難しく、それに早くマリカと二人になりたかった。言いたいことを思いっきり二人で言い合いたいと思う。
賑やかな家の中から静かな外へとマリカと二人で出た。そしてオーウェンの車に乗る。マリカの運転で、本日宿泊する場所へやっと向える。
「あ~、もうびっくりした。気持ちのアップダウンが激しいんですけどぉ。なにこれ?急に父さんのところに連れてこられて恋人に会ってさ、子供たちもいて?そんでいきなり命を狙われてるって聞かされてさ、保護するぞ!なんて映画じゃないっつうの...」
「だよな。俺もかなり焦った」
バタンと車のドアを閉めてすぐに「はぁぁぁ…」と、二人で大きなため息をつき、思いを口にし始める。
マリカはエンジンをかけ、車を走らせた。
さっきまでの賑やかな部屋から一気に静かになる。二人の声だけが車の中に響いて、やたら落ち着く。
「つうかさ、色々と言いたいことがあるじゃん!もうツッコミどころ満載でどこから言えばいい?」
カカカッとコウは思い出し笑いをした。初めて会った人たちだけど、みんな良い人だって思った。ごっちゃごちゃな部屋で、大人数がガタガタワイワイしているのに巻き込まれて、案外楽しくて面白かった。
だけど、話の内容は本当にツッコミどころが色々とある。
「あー、犯人の目星がついてるとか?まずそこからいくか?」
「そう!父さんたち犯人わかってんじゃないのぉ〜?だろ〜?だってさ、王と王子が狙われてるんだから、全力で捜査して、もうわかってんだろ」
「それはそうだな。上官も慌ててなかったし、犯人の足取りはわかってそうだな。さっきのあの家もカモフラージュの家だろ。別のところ用意してるって言ってたから、今から全員で移るんだろうな。そっちが完全警護の家ってことだ」
大体コウもマリカと同じようなことを感じていたが、あの家がカモフラージュとは気が付かなかった。その辺に気がついても驚くことはないのは、さすがマリカである。
「それとさ、父さんの意識不明の重体説は嘘だよな。ちょっと前に重体だった人が哺乳瓶振り回して、強烈なハグするか?恋人とゆっくりしたいからって、国民に重体説流したんじゃないの?」
「入院したのは本当だぜ。だけど、どうなんだろな、重体はちょっと微妙だよな。俺たちにいう話の中には、本当の事と誤魔化すことがあるんだろうよ」
「やっぱり?マリカもそう思ってた?だけどさ、父さんって何であんなにモテる?ぽっちゃり体型で、背も高くないし、顔だって一般的…いや以下だろありゃ。なのに、毎回新しい恋人がいる!」
「人は見た目じゃないだろ?ああ、でも国王陛下は優しいからモテるんだよ。それにアプローチが凄いって聞いたことある」
「そうなの?まぁ、でも今日会った恋人はいい感じだったかも。今までと違うタイプの人だった。年相応の感じでさ、父さんとお似合いかも。つうかさ、なあ、お前の上司のセブンティーン上官ってすげえの?」
話は止まらない。
あっちこっちと話題が飛んでいくが、とにかく止まらない。
いくら通常テレパシーを使い二人だけで話ができるとはいえ、やっぱり限度はある。テレパシーを使いながら、他の人と話をすることも出来るけど、集中すると無言になることが多くあるため、多くの人の前でテレパシーを長く使うと不自然になってしまう場合がある。
「お前さ〜、セブンティーン上官とか勝手なあだ名つけるなよ。ドーナツ様もそうだぞ?俺が困るんだから」
「お前が言うからだろ!胃袋セブンティーンとか、ドーナツ様がドーナツ食べてるぜとか。いちいちウケるんだけど!」
二人で車の中で爆笑した。めちゃくちゃ笑って腹が痛くなるほどだ。笑いのセンスはマリカと似ている。なので、ちょっとしたワードでも二人の間でかなり盛り上がる。
「いや〜見たいな、セブンティーン上官の食べっぷり。すげぇ食べるんだろ?だけどよ、実際、世の中のセブンティーンってそんな言うほど食べないぜ?上官はセブンティーンにどんだけ信頼置いてんだよ。夢見てんのかな」
「確かに!だけど上官の中では、セブンティーンはこの世の中で一番多く食べれる年代って思ってんだよ。夢見させてやってくれ。つうか、もしかしたら言いたいだけなのかもよ、胃袋セブンティーンって」
「ちょ、ほら〜、それだってば!やめろってマリカ〜」
あははははと、二人のバカ笑いが静かな車内に響くと一気にうるさくなった。
相変わらずくだらないことを言い合うのは、清々しいほど楽しい。しかもドライブしながらなんて最高だ。命を狙われてることも少し忘れることが出来る。
「…おい。マリカ」
調子に乗ってマリカと喋っていると、野太い声がどこからか聞こえた。
「ぎゃあああっ!」
「うおわああ!」
突然第三者の声が車内に響き、コウとマリカは叫んでしまった。
「コウ〜?聞こえる〜?父さんだよ〜」
さっきの野太い声とは別の「父さんだよ」という軽い口調も聞こえる。
コウはキョロキョロと後部座を確認するも、父は乗っていない。運転席ではマリカが小さい声で「ヤバっ」と呟いている。
「マリカ…お前、随分と勝手なこと言ってくれてんな」
野太い声の主はオーウェンであり、車のスピーカーから声は聞こえているようである。
「あのね〜、二人とも〜。言い忘れたけど、車にマイク付けてあるからね。報告は電話やメッセージだけじゃなくて、車の中からも出来るよ。便利でしょ。でさ、こっちの声も聞こえる?」
父に軽く伝えられた。「事後報告でごめんね」なんていけしゃあしゃあと言っているが、車に乗ってからずーっとマリカとの会話は盗聴され、聞かれていたようだ。
「国王陛下、上官…申し訳ございません」
というマリカの言葉に、父である国王の大笑いが車内に響いた。
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