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第21話
車内でコウとマリカが喋っていた話を、盗聴され聞かれていた。聞いていたのは、父である国王陛下とマリカの上司のオーウェンにである。
「これ盗聴だろ?ひどい!悪趣味!」
と、コウが抗議しても危険を回避するためだと上官に言われる。それに仕掛けられていたのはオーウェンの車だ。国王護衛の車には常にマイクが付いてるとかもっともらしく言われ、丸め込まれてしまう。
その辺はやはり国王側近兼護衛チーム、一枚上手である。きっとコウとマリカの会話を聞きたいがため、車をチェンジをした時にマイクの存在をワザと伝えていなかったと思われる。
そしてマリカの車とチェンジして乗っているため「人の車に盗聴を仕掛けて!」なーんて、強く言えなくさせている。
結局、オーウェンの車に乗って、二人で素に戻って言いたい放題言い、勝手にバカ笑いしただけということになった。
まぁ聞かれてしまったのは仕方がない。なので、今は開き直って車内で父たちとお喋りをしながら目的地迄ドライブをしている。さっきのツッコミどころ満載だった話を、ひとつずつ質問していた。
「…って感じ。コウ、わかった?」
話題はやはり国王と王子たちの命を狙う犯人のことだ。
「うーん、わかった。犯人は何となくわかってるけどまだ言えないってことだね。まあ、こっちとしては捕ればいいよ。今の生活を変えないでさ…ウルキと俺はこのまま王宮で生活していければ。な、マリカ」
「はい。コウ様に身の危険がなければ」
マリカがまだかしこまっている。
「お前さ、もうそんなに取り繕って喋んなくてもいいんじゃないの?聞かれてたんだよ?さっきの会話」
そう言い、運転しているマリカの横顔を見ると気まずそうな顔をしていた。
「そうだよ!マリカ〜。コウと仲良くなったんだね、お友達になったんでしょ?ありがとう!コウがお友達と喋ってるの聞いて嬉しかった。コウとは気楽に喋っていいよ、お友達なんだから!ねっ」
「…はい」
更に気まずそうにするマリカに爆笑してしまう。まぁ、そりゃそうだな仕方ない。
しかし、父は「お友達!お友達!」とやたらマリカと仲良くなったことが嬉しそうである。コウのこともまだ小さな子供だと思っているようだ。
「じゃあさ〜こっちからも質問するよ?いい?テレパシーはいつから使い合えるようになったの?言ってくれればよかったのに」
やはりその話がきた。避けては通れないようである。運転しているマリカがチラッとこっちを見たので目が合う。
「うーん…だけどさ」
別に父に隠していたわけではないが、二人は以前アンジュから教えてもらった「テレパシーあるある」を守っていた。テレパシーは繊細なため、周りの人達と上手く付き合うためにはテレパシーの相手をオープンにしない方がいいということだ。そのため敢えて皆に伝えることはせず、アンジュ以外に二人のテレパシーについて知る人はいないと父に伝えた。
「国王陛下、ご報告が遅れて大変申し訳ございません。テレパシーは繊細なものであるとはいえ、陛下にお伝えできていなかったのは申し訳なく思っております」
コウの言葉を聞き終えたマリカが父に謝罪をしている。別に謝る必要はないのにと、コウは腕を組みながら助手席で聞いていた。
「いいよ、マリカ。アンジュが言ってるテレパシーは繊細だっていうのは確かだし、プライベートなものだ。だけど、テレパシーが伝わる相手を自然に探すのって大変なんだよ?それがよく二人なんだってわかったなって思ってさ。相談してくれれば大体の相手が誰か調べてあげたのに〜」
「ええっ!そんなこと出来るの?」
「でっきるよ〜!自力で確かめるのなんて大変だろ?今はそんなことしないよ〜」
マジかっ!とマリカと二人同時に声を上げると、父は「可笑しい〜シンクロ〜」と言いケラケラと笑っている。
「いや、もっと前に教えてくれればよかったのに!めちゃくちゃ肝心なことだろ!」
「あはは、そうだよねぇ〜」
と、父は笑いながらテレパシーについて語り出した。
元々テレパシーとは波長が合う同士で使えるものである。それは、考え方や価値観が似ていて、一緒にいて苦にならず、自然とリラックス出来て楽しい時間を過ごすことが出来る人だという。
「だからね、テレパシーの相手には感情的にサポートが出来るんだ。お互いを支え合うことができる。昔は一生を共にする人、結婚相手が多かったんだよ」
昔はテレパシーの相手が結婚相手になることが多かったという。テレパシーが通じる人は生涯一人だけ。だから余計に運命的な存在と感じ恋心も芽生えるという。
だけど今は結婚相手になることはほとんどなく、おじいちゃんと孫のように、年がかなり離れている人だったりと、ぜーんぜん関係ない人がテレパシーの相手だったりする場合が多い。
それでも、お互いを支え合うことが出来るのは、テレパシーの相手が一番だという。そして、多くの人はテレパシーの相手が運命の相手であることを望んでいるらしい。
「ふーん、そうなんだ。テレパシーの相手が結婚相手なんてドラマみたいで単純な話だね。運命の相手?昔の人はそう思ってたんだ…現実、そんなことあるわけないじゃん。俺らは偶然わかった感じだったし。最初はお互い、ゲーッて思ったよ。な?」
「まあ、確かに。初めてテレパシーで会話した時は、嘘だろ?って思ったもんな」
控えめだけどマリカの口調は元に戻っている。父の前でも、コウと話をする時は以前と変わらずにしてくれるようだ。
「なんで!運命の相手なんて素敵じゃないか!今でもね、テレパシー持ってる人の中には、それを願ってる人はいるんだよ。もう!コウはロマンチストじゃないなぁ」
父はやはり、スーパーロマンチストらしい。大声で反論してくる。
「テレパシーの相手だから好きになるってことはないだろ?」
「だとしても!テレパシーの相手と恋愛が出来ればそれは素晴らしいことだと思う!お互いを支え合うことができる人と、恋人同士になれるなんて唯一無二の人だし、羨ましい!そう夢見る人は多いんだよ」
恋多き国王である父が力説しているのを聞いている。どんな話でも、すぐ恋の話に持っていくのは、父ならではだった。
しかし、今はそんな話はしたくない。出来る限り恋の話題なんかも避けていたい。改めて自分の恋心を思い出してしまうからだ。
コウが、好きで好きでたまらないと思う相手はマリカである。そのマリカはコウのテレパシーの相手だ。二人の間にはテレパシーを介して恋愛や恋人に発展する可能性なんてない。ありえない相手であろう。
そう考えると急に気持ちが落ちてくる。今日のランチではマリカの近くにいた女性に嫉妬をし、食事が喉を通らなくなっていたが、嫉妬できるだけマシかもしれないと考えていた。
いつかマリカに恋人が出来て、結婚なんてしたら嫉妬することすら出来ないだろう。そんな権利はないし、今みたいな我儘から口喧嘩なんかもできなくなる。
テレパシーの相手だからマリカとは一生付き合うことになる。だけど、マリカの恋人というポジションには一生なることはない。それに近いうち、マリカの恋人のポジションは埋まりそうだし。
そのことを考えれば考えるほど気持ちの中で、また黒い点がジワーっと広がっていく感じがした。マリカを取られたくないと身勝手な思いが広がる。本当にこんなのは嫌だ。醜い感情だと思う。
「ねえ〜聞いてる?コウ!」
「…聞いてる」
突然無口になったコウは、父に何度も名を呼ばれていた。声は聞こえているので、生返事で返す。
「それで?コウのテレパシーマークはどこにあるの?」
テレパシーという能力を持つ者には、テレパシーマークというものがある。生まれた時から薄っすらと見え始め、成人になるとはっきりと浮き出てくるものだ。
それは身体のどこかに小さいアザみたいに出来るものなのだが、コウのマークはちょっと言いにくいところにあるため、どこにあるかと人に伝えるのは恥ずかしい。
「えー、それ言うの嫌だな…」
「でも自分で確認できるんだね?」
「確認できる。小さい頃、アンジュにも確認してもらってるから」
思ったよりぶっきらぼうに返事をしてしまい、車内が一瞬シーンとしてしまった。
「…国王陛下。さっきの話ですけど、テレパシーの相手って、どうやって調べることが出来るのでしょうか」
コウが下を向き、急に塞ぎ込んでしまったのがマリカに伝わったようだ。マリカがフォローをするように会話に加わった。
「あ〜、それこそテレパシーマークなんだよ。テレパシーが通じる相手ってね、必ず同じマークを持ってるんだ」
「ええっ!そうなんですか…マークってみんな同じものだと思ってました。通じる相手だけ同じマークなんだとは…」
テレパシーマークという存在は知っていたが、その種類が多くあると聞き、マリカが驚くのと同じようにコウも驚いた。
「そうだよ、マークはたっくさん種類があって、みんなそれぞれ違うから、生まれた子にマークが出たら国に報告することになってる。で、そのマークは国で保管してるんだよ。コウやマリカのマークも保管されてるよ。だから、相談してくれれば大体の相手がわかるんだ」
花の形だったり、雪の結晶みたいなものだったりと、マークには色んな形があるらしい。似たようなマークもあるが、テレパシーが通じる相手は必ず同じマークが身体のどこかにあるそうだ。
今は昔より少なくなったとはいえ、まだ多くのテレパシー保持者はいる。その多くの中から自然に相手を探すのは非常に困難だ。生涯相手を探せないままの人もいるらしい。なので、国でマークの保管をしているんだと、父は言っていた。
テレパシー保持者は、国で保管してるマークと自分のマークを照らし合わせて相手を見つけることができるのは、効率的で便利であると父が自信を持って言っていた。
「だから、コウとマリカのマークは同じ形をしてるはず。確かめてごらんよ!」
無邪気な父の言葉に返事は返さない。マークのある場所なんて言いたくないし、あっても無くてもテレパシーの相手はマリカであるのは変わらない。マリカと同じマークがあるなんて、確認をすれば今よりもっと虚しく感じてしまいそうだ。
好きな人が生涯のテレパシーの相手である。それと同時に、生涯自分の恋人やパートナーにはならない相手だ。そんな人と同じ形をしたマークを見たら、胸が苦しくなりそうだ。もうこの話はやめて欲しい。
「国王陛下、上官。ドライブスルーがあります。一旦ここに寄ります」
マリカが話を中断させてくれてホッとする。だけど、マリカの声は顔を背けて聞いているままでいる。
窓の外の景色を見てるフリして顔を背けるなんて、嫌な態度を取ってるとわかってる。
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