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第22話

ドライブスルーで夜ご飯を受け取り、そのまま目的地までまた車で走ることになった。目的地まであとどれくらいかと尋ねると、もう少しだという答えがマリカから返ってきた。マリカのもう少しとはどれくらいなのだろう。 「それでね、ジェーンとの出会いはね…」 車内では相変わらず父がオンパレードで喋り倒している。話好きだからいくら喋っていても苦にならないらしい。 今は恋人との出会いからの惚気話をひとりで延々と喋っている。観客との会話を楽しむことがない、ワンマンショーのようだ。 ラジオから流れるワンマンショーを、目を閉じてBGMのように聞いていた。 《コウ…聞こえる?》 マリカからテレパシーを受け取った。だけど返事はしなかった。さっきのモヤモヤが身体に広がってしまっているからだ。よくない癖だと思う。もっと切り替えて上手く立ち回れればいいのにと思うが、ポーカーフェイスも出来ないでいる。助手席のシートを少し倒し、横を向いて目を閉じているから、このまま寝たふりをしようと思う。 《寝てるのか?》 寝たふりをして返事をしないでいる。寝ているからと諦めてテレパシーは届かなくなると思っていたが、マリカからのテレパシーは続いていた。 《今日の昼のこと。お前は話はないと言ってたが、俺から話はある。今日だけじゃないな…この前も同じことだ》 マリカはコウとの口喧嘩に決着をつけようとしている。今一番聞きたくない話である。コウは目を更にギュッと閉じた。 もう嫌だ。胸が痛くなるばかりだ。 車の中なので逃げるに逃げれない。聞くのは嫌だけど、このままテレパシーで話を聞くしかなさそうだった。 《俺の態度が悪いから怒ってるのはわかっている。すまない。どうしても俺自身が割り切れないでいたからだな。本当に悪かった》 一方的にマリカが謝ってくる。マリカが悪いことなんて何ひとつないのに。これが護衛の姿なのかもしれない。自身が悪くなくても主のために謝罪を口にするのかもしれない。難しい仕事だなとコウは思った。 《お前がキャンディス様と話をしたい気持ちは理解している。ランチの時間に彼女と会えるのが嬉しいのだろう。邪魔をしたくないが、どうしても俺は心が狭くなってしまう》 ランチのことは思い出したくないのに、マリカはまだ話を続けようとする。邪魔をしたくないというが…ん…あれ? マリカは今テレパシーでなんて言った…?俺は心が狭く?あ…?ん? 《俺はキャンディス様に嫉妬している。コウがそっちを見ないようにと、邪魔をしてしまうんだ。コウを取られたくないとはいえ、勝手に独占欲が強くて悪い。すまなかった》 今度は何だ?嫉妬?独占欲…? マリカは何を言い出しているんだ…コウは、寝たふりからモゾモゾと動き始めた。 話がえらい方向に飛んで行っているような気がする。主のために謝罪を口にしているのではなかったのか?それともテレパシーの聞き間違いをしているのか。 《コウ...これから俺はお前に対しての独占欲を抑えるようにする。これからはもっと寛大な心を持ち、キャンディス様とコウの二人のこれからを応援できるように、俺は、自らこの気持ちを抑えて、》 「のあああああーーー!わからーーん!!」 寝たふりするのも限界である。テレパシーで話しかけられていたが、咄嗟に大声を上げ、マリカのテレパシーを遮ってしまった。 「な、なななにーー?コウ?わからんってなに?ジェーンはそう私に言ってくれたんだから!わかんなくないでしょ!」 車内のスピーカーから父の叫びが聞こえてくる。まだ、父はジェーンとの惚気話をしていたようだ。マリカとのテレパシーに夢中になり、父の話なんてBGMなんだから全く聞いていなかった。 だけど大声を上げたコウに、父は惚気話に答えたんだと思っているようだ。 「...あ、父さん。ごめん、寝ぼけた」 我ながら良い言い訳が口から出たと思う。 父さんの話を聞きながらウトウト寝ちゃってたと誤魔化した。 「もう!聞いてなかったの?じゃあ、続きから言うね」と、また父は懲りずにワンマンショーBGMを再開している。 《コウ、起きてた?俺の話、聞いてた?》 マリカからのテレパシーが聞こえる。 《...起きてたし、聞いてた。お前がめちゃくちゃなことを言うから、驚いて声が出ただろ!》 《じゃあ...何がめちゃくちゃなんだよ。教えろよ》 ちょっと含み笑いがテレパシーからも伝わってくるから、もしかしてと思い、くるっと身体をひねり運転席のマリカを見ると、完全に笑っていた。 寝たふりはバレていたようである。 ふざけやがって! だとすると、マリカのさっきのテレパシーで伝えてきた内容も、ふざけていたということになると気が付く。 してやられた。最悪だ。 恐らくマリカは寝たふりしているコウを、暇だからってテレパシーで揶揄っていたんだと思う。 確かにマリカらしくなく、変なことを言うなと思っていた。だけど嫉妬してるとか、独占欲があるとか言われて、ちょっと嬉しかった。 それなのに…ムカつく! なーにが嫉妬だ!独占欲だ!とコウは思い返しムカつき始めた。思い返せば返すほど、マリカが言いだすような内容ではないのに、引っかかってしまったような自分が許せない! いつものマリカだったら、こんな一歩下がって控え目なことを言いだすわけがない!それに、キャンディスに嫉妬なんてするわけがないんだから。 《お前は本当にムカつく。どこまでが本当で、どこまでがふざけているかわかんないじゃん。それが最高にムカついて、最悪だと思う。…もう揶揄わないで欲しい》 テレパシーの最後は本音が出てしまった。伝わったかどうかわからないくらいの弱いテレパシーだ。 《ごめん…ムカついてふざけた。だけど俺は揶揄ってなんかいないよ》 コウの弱いテレパシーを最後まで拾っていたようだ。マリカが急に優しい声をかけてくるからドキッとする。いつも王宮でお姫様抱っこをする時のような声だ。テレパシーでもそれが伝わってくる。 王宮では「誰も見ていないから」が合図になり、やたらと大切に扱われている。お風呂上りも、TVを見るときも、常に後ろから抱きしめられてマリカに完全に身体を預けて、甘やかし過保護に扱われ、全身をふやけさせている。そうやってコウはマリカに甘やかされるのが好きだった。 だけど今は違う。優しい声をかけても、完全にコウを揶揄っている。マリカは悪い男だと思う。胸がまたキュぅぅぅと痛くなる。ひどい奴だ。 《じゃあなんだよ!寛大な心を持って?キャンディス様と俺を応援できるように?意味わかんねぇ。けっ!勝手にくっつけるなよ。応援なんて、してくれなくて結構です!》 《バカだな、キャンディス様とお前を応援なんてするわけないだろ?そんなこと俺がするわけないだろ》 《じゃあなんなんだよ!なんのジョークだって。わかりにくっ!つまんねぇよ》 《お前が寝たふりして俺の話を聞かないからだろ!俺はな、お前のことは絶対渡さない。誰にも渡さないって思ってること、わかれって!》 《はあ?お前は言ってることがめちゃくちゃだな!なんだよ、誰にも渡さないって…何を急に言い出すんだ》 キャンディスとの仲をとり持つようなことを言ったと思ったら、コウを誰にも渡さないとも言い出す。マリカが何を言いたいのか、何をしたいのかわからない。 ただ、マリカの様子がいつもと違うと感じる。いつもの飄々としたマリカとは違い、少し焦っているような気もした。 《急じゃないだろ。コウのことは誰にも渡さないって、ずっと俺は言ってんだよ。俺の態度でわかれよ?》 《はああ?態度でわかれだと?何様だ!お前はっ!それにお前の態度なんて、ぜーんぜん、わかんないね。ちんぷんかんぷんだねっ!》 《ああそう、わかんないか。お前、伝わりにくいもんな。じゃあ、わかるように言うからよく聞け。俺はお前のことが好きだから、誰にも渡したくない。そう言ってんだよ、わかったか。》 《…は?》 《コウ、俺はお前のことが好きだ》 えーーーーー…っと 《なに…?マリカ?》 テレパシーを送りながら横を向くと、マリカは笑っていた。 寝たふりをしていたのに、本当は寝てて、今起きたのかな。なんだろう、寝ぼけているのだろうか。 混乱する…

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