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第30話
神様お願いだから…と、そればかり心の中で呟いていた。
乳母に何度も連絡をするが、連絡が取れない。マリカやオーウェンにお願いしてみるも、同じ状況である。
唯一、検査をした医者と連絡が取れ、ウルキは問題なく王宮に戻ったと教えてくれた。だから恐らく、王宮にいると思われる。だけど、顔を見るまで心配で不安でたまらない。
「コウ、もうすぐ王宮に到着する」
「うん、」
居ても立っても居られず、車が王宮内の駐車場に到着してすぐ降りた。そのまま突っ走って、ウルキがいるであろう部屋まで向かった。焦りすぎて足がもつれる。
「ウルキ!ウルキ!」
うるさいくらいに叫び続けると、びっくりした顔のアンジュと出会う。
「どうしたの?コウ」
「アンジュ…ウルキ!ウルキは?」
「ご飯中よ。ダイニングにいるから」
話の途中でダイニングに向かってまたウルキの名を呼びながら走り出した。ダイニングは反対方向だ。後ろからマリカに呼ばれる声も聞こえている。
「ウルキ!」
ダイニングのドアをバンッと勢いよく開くと、乳母にご飯を食べさせてもらっているウルキが見えた。思わず駆け寄って抱きしめてしまった。
「ウルキ…よかった…」
ウルキは王宮に居てくれた。勝手にウルキがいないと思い心配してしまったようだ。無事だったとわかってホッとしたのか、ウルキに会えてコウは涙がボロボロと出た。
すると、ウルキが「ふ、ふ、ふぇ…ふええええ、びええええーん、びええーーん」と派手に泣き出してしまった。
「コウ!何をそんなに慌ててるの!ウルキがびっくりしてるじゃないの!」
コウの様子が尋常じゃなかったようで、アンジュがコウの後を追いかけてダイニングまで来ていた。食事中のウルキに勢いよく抱きついているコウを見て、アンジュはびっくりしながらも叱ってくる。せっかくの食事中に泣かすとは何事だっ!と。
今日は、王宮内ではなく車で外に連れ出して検診を受けた。ウルキにとっては初めての外の検診であり、いつもと勝手が違うため、ずっとご機嫌斜めだったようだ。
「外に出てからずっとグズってて、ウルキは昼もあまり食べなかったのよ。お昼寝してもすぐに起きちゃったし…やっと夜ご飯になって、機嫌が治って食べてくれてたっていうのに!」
コウがアンジュに叱られてる間もウルキは泣き止まず、ずっと大きな声で泣いている。突然コウが大きな音を立ててダイニングに入ってきたから驚いたのだろう。
「ごめん。ごめんなウルキ、本当ごめん」
ご飯でベタベタな顔と手を拭いてあげると泣きながらウルキはコウの顔を覗いてくる。コウも涙が止まらなくなっていた。
「ほら、お前が泣き止まないからウルキが不安になってるんだろ。おいで、ウルキ。コウも…ほら、こっち」
ダイニングの隅で様子を見ていたマリカがウルキに近づき、片手でヒョイっと抱き上げ、反対の片手でコウを抱き寄せた。マリカは二人を連れてダイニングのソファに座った。
マリカが抱っこをするとウルキは「うっく…うっく」と泣き声が小さくなっていく。グズってる時は、マリカの抱っこでいつもウルキは安心している。マリカの大きな身体は安定感があるから好きなようだ。
マリカに肩を抱かれているコウも落ち着いてきた。勝手に心配したのが悪いとわかっている。ウルキを驚かすつもりはなかったのに。でもどうしようもなかった。
「泣き止んだらもう一度ご飯食べるんだぞ?コウが食べさせてくれるからな?ほら、コウも…大丈夫か?」
マリカがウルキをあやしてくれている。ウルキはもう泣き止んでいた。大きな目に涙を溜めているのを見ると、泣かしてしまったと胸が痛くなる。
「ご、ごめん。心配してパニックになっちゃった。ウルキが…って考えるとどうしようもなくなっちゃう」
「今日はあんなことがあったんだ、もう…仕方ないだろ」
「う、うん…」とコウは答えるもなかなか気持ちが切り替わらない。周りでアンジュと乳母たちが心配そうな顔をしている。焦っているコウが飛び込んできて、何がなんだかわからないようだ。アンジュたちにも悪いことをしたとコウは思った。
「よし!じゃあコウ、一回ウルキと遊ぶか、そしたら機嫌が治ってまたご飯食べるだろ。腹減ってるはずだもんな?そうだろ、ウルキ?」
「わ、わかった。一回遊ぼう、なっ!ウルキ、おいで〜。さっきはごめんな」
マリカとコウは中庭にウルキを連れて行った。おいで〜!おいで〜!と、ウルキに合わせて追いかけっこをする。二人かがりだからウルキはすぐに大興奮となった。ウルキとこうやって遊ぶのも久しぶりだった。
マリカがウルキを肩車したりする頃には、ウルキの機嫌は治り、キャッキャと大きな声で笑っていた。だいぶ遊んだのでご飯もたくさん食べてくれるであろう。
「よーし!ウルキ、ダイニング戻ってご飯なっ!俺が食べさせてあげちゃうぞ」
コウがウルキを抱き上げて、ダイニングに戻ろうとした時、マリカに声をかけられた。
「コウ、俺はこれから国王陛下のところに行ってくる。何かあればテレパシーを送ってくれ。ここは安全だから心配するなよ」
「え…今から?呼ばれてる?」
「そうだ。今日のこともそうだけど、これからの事、上官に指示を出されるはずだ。犯人は相当近くまで来ていると思うから」
「マリカ…大丈夫なの…?帰ってくる?」
犯人が近くまで来ていると聞き、不安になる。マリカが帰って来れるか心配だ。
「帰ってくる。ちゃんとベッドで寝てろよ?それと髪は乾かしてから寝てくれ。あ、あと、長風呂はやめてくれ。それから、」
マリカはこれから国王陛下のところに行かなくてはいけないのに、コウの心配ばかりしてくる。こんな時までいつものように気にかけている。
「大丈夫だって!俺はもう平気だよ。ここは安全なんだろ?それに明日からは外出禁止だろ?どこにも行かないから」
まだ何も言われていないが、しばらくは王宮から出ることは出来ないとわかっている。直接犯人が接触してきたようなもんだ。父も周りも外出は許さないと言うのは、わかっている。
コウとウルキをダイニングの入り口まで送り、マリカはそのまま国王陛下の護衛チームに加わると言い向かって行った。
行く前にマリカはコウにチュッとキスをした。コウは不安で胸がいっぱいになってしまった。
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