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第32話

ピロリン、ピロンピロンと音を鳴らして動かしているのは、子供用電気自動車である。ウルキのおもちゃだ。 子供用電気自動車は、ポニーのぬいぐるみ型になっている。それはかなり大きなポニーなので、子供と大人の二人が乗れる乗り物となっている。 ピロリン、ピロンピロンと音楽を鳴らしながら、ゆっくり歩くポニーの背中に乗って王宮の長い廊下を散歩をするのが、ウルキのお気に入りの遊びのひとつである。 さっきまで、コウやロランと一緒に「ポニー号」と呼ぶそれの背中に乗り、キャイキャイと声を上げながらお散歩をしていた。 が、今はコウがひとりでそのポニー号に乗っている。ピロリン、ピロンピロンと鳴る音楽がなかなか虚しい。 「おおっ!やっぱりそれですな!ふんふん、いい感じです。いや〜幅が広がりますよ。夢があるし」 リモートでネルと打ち合わせ中である。リモートをする場所はウルキの遊び部屋だ。 以前、時間がなくてウルキの遊び部屋でリモートを繋げたことがあり、後ろに散らかっている大量のおもちゃをバッチリ見られてしまったことがあった。 ぐっちゃぐちゃに遊び倒した部屋を見られて、やっべぇと焦ったが、意外にもネルがそのおもちゃに食いつき、興味津々となった。 おもちゃから開発者としてのアイデアが湧くという。そのネルからのお願いもあり、その時から打ち合わせはウルキの遊び部屋で行い、コウがウルキのおもちゃをひとつずつ紹介をしていた。 おもちゃの中でも、ウルキのお気に入りであるポニー型の子供用電気自動車にネルは釘付けである。 「ネルさん、マジで言ってる?このおもちゃで何か出来るってまだ思えないんだけど…っていうか、もう降りていい?」 成人男性がひとりでポニーの背に乗ってる図はかなり恥ずかしい。ピロンピロンと音を鳴らしてゆっくり歩くポニーと、それに乗っているコウを、カメラの向こうでは何人に見られているのだろうか。公開処刑のようである。 「あ、はい!降りていいですよ〜」 その後、ネルから最終的な開発内容が発表された。その内容とは、このポニー号をベースにしたキッチンのワゴンやゴミ収集を開発するということだった。 「コウ様からのアイデアで、AIキッチンのオール機械化、全自動化が実現出来ます」 ポニー号をヒントに全自動ワゴンを作る計画を立てているという。 「ポニー号よりもう少しコンパクトにして、速度も早くして開発します」 開発者とは難しいことを考えるようである。ネルからの報告だけじゃ内容が全くわからない。ポニー号からの全自動ワゴン?と、聞きただけでは何をどうするのかがわからない。 リモートで参加してる人達から口々に質問がされた。その自動ワゴンとはどう使うものなのか。それで肝心な人手不足は解消できるのかということである。 「全自動化とは、キッチンブースで出来がった料理を自動ワゴンに乗せ、お客様が待っているテーブルまで運ぶことです。更に食事が終わったら食器を回収するワゴンに乗せてくれれば、また自動で回収する。そんなことを実現させたいと考えています」 自動ワゴンが、カフェやバルで働くウエイターの役割をすると、ネルは言う。 「自動ワゴンはレールがなくても動けますし、ワゴン同士センサーでお互いがぶつからないようすることが出来ます。お客様はタッチパネルで料理を選択したら、テーブルに座るだけ。それだけで後は自動ワゴン達が全部やってくれるんです。広いキッチンでワゴン達がテーブルを周り、接客するような感じがあると、うちのAIキッチンは話題になるし、盛り上がる。それに機械だから人手も必要はない。人手不足もこれで解消できます」 「裏方の仕事も全部アミューズメントパークみたいになれば面白い」と言ったコウの言葉から、ネルが考え出したものだという。説明を聞いて理解した。なんだか、すごいことになっている。 この後はスケジュールを引き、プロジェクト成功に向けて進めましょう!と言い、今日の打ち合わせは終了となった。 パタンとノートパソコンを閉じて、ウルキの部屋に向かうと、ロランとウルキが待っていてくれた。 「終わったよ〜。ウルキ、お待たせ!」 ウルキに駆け寄って抱っこをすると、「コ!コォォ!」と呼んでくれる。最近、コウと呼べるようになってきたから、嬉しくて頬擦りをした。 「コウ様、今日のランチはギョーザというものです!知ってますか?ギョーザ!私は大好きです。100個は余裕で食べられます。いや、150個はいけるか。うーん、200いけるかも…」 ランチで外出することも出来ないため、王宮に出張キッチンが来てくれていた。メニューは選べないが、毎日日替わりランチを出してくれている。 今日はギョーザというものらしい。コウは食べたことがないが、ロランは大好物だと朝からずっと楽しみにしていた。 「ロランさ、めっちゃ食べるじゃん?セブンティーン上官と同じくらい食べる?」 「セブンティーン上官?ですか?」 「あはは、間違えた。えーっと、オーウェン上官か。あの人自称胃袋がセブンティーンなんだってよ。すげぇ大食いらしいぞ」 「はっ!上官ですか!ご一緒したことないのでわからないですけどね。へぇ〜あの人大食漢なのか…私は身体は小さいですけど多分負けないくらい大食いです。つうか、絶対私の方がいっぱい食べますからっ!」 結構ロランは負けず嫌いのようだ。あーんなに身体の大きいオーウェンと張り合わなくてもいいのにと思って、笑ってしまった。 ウルキを連れて三人でダイニングに向かっていると、護衛から声をかけられた。 「コウ様、お客様がいらっしゃってます」 お客様?と、ロランと顔を見合わせた。

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