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第34話
「時間かかっていたな。何をそんなに手こずってたんだ」
低い男の声が聞こえた。
キャンディスに腕を掴まれ、車の後部座席に閉じ込められた後、あっという間にコウは目隠しをされ、両手両足を粘着テープでぐるぐるに巻かれてしまった。身動きができない状態である。
目隠しで見えないが、キャンディスの他に男がいるようだった。コウを乗せたこの車は既に走り始めている。このままどこかに連れて行かれるようだ。
「ウルキに会わすとか言われて、食事をしてたのよ。全く、無駄な時間だったけど」
「戻って来ないからヒヤヒヤしたぜ」
「でもまぁ、計画通り拉致出来たから充分でしょ。どこ?次の車は」
キャンディスと男の会話が聞こえてきた。今日キャンディスが王宮に来た理由は、コウを拉致するためだと知り、身体が急に震えてきた。
次の車とキャンディスが言う声を聞く。車を乗り換えるのだろうか。コウは咄嗟にテレパシーでマリカに呼びかけた。
《マリカ!マリカ!》
《コウ、どうした?》
よかった、マリカはすぐに答えてくれた。テレパシーが繋がったと思い少しだけ安心する。
《キャンディス様に拉致された》
《拉致?どこだ!今どうしてる!コウ!》
マリカの焦りがテレパシーでも伝わってきた。今まで起きたことを簡単にマリカに伝えた。
《…状況はわかった。今、ロランと連絡が取れている。キャンディスが王宮に突然来たんだな?》
《そうなんだよ!俺がっ!いつでも来ていいって誘っちゃったから。ごめん!もう、どうしよう…》
《あの女…コウ!それで今は?どうしてる?大丈夫なのか!怪我はないか!》
《目隠しされて、手足は粘着テープで縛られてる。怪我はないよ。車に乗ってるけど、どこに行くかわかんない》
この後、恐らく車を乗り換えること、自分は目隠しをされていて周りが見えないということを繰り返しマリカに伝える。
《上官に伝えた。国王陛下にもお伝えした。今、中央情報局と警察には、上官から緊急指示を出している。陛下の指示でもあるから、すぐに助け出せるようにする》
マリカは焦りながらも、護衛チームとオーウェンに依頼をしてくれた。マリカとテレパシーで会話中にキャンディスに話しかけられる。
「バカ王子、ごめんなさいね?びっくりしたでしょう。だけどあなた、運が強いみたいでなかなか死んでくれないから、こっちも困っちゃってたのよ」
キャンディスの声は隣から聞こえている。運転席と助手席に男が二人いるようで、後部座席にはキャンディスとコウが座っているのだろう。今の、この状況も続けてマリカにはテレパシーで伝えていた。
「キャンディス様…なんでこんな…」
声を出すと震えていた。
自分の声じゃないようだった。
キャンディスに「死んでくれないから」と言われたのが、怖くてたまらない。簡単な言い方なのに、キャンディスから殺意が強く感じられたからだ。
「王宮キッチンの時はミスったわ。あの時、あなたはAブースで働いてると思ってたのよ。あなた宛に荷物を届けてたのに」
「俺…宛に荷物を?」
「そうよ、あなた目的だもの。だけど、あなたが受け取らないから、荷物は時間差で爆発したじゃない。まぁ、思い通り火事になってくれたし、死んでくれたかと思ったのに、まさか議会に参加してるなんてねぇ…あの時はまだ知らなかったわ。バカ王子が議会にいるってこと」
王宮キッチンの火災も、出張で行ったスタジアムキッチンで渡されたBOXも全て、キャンディスの計画だと知らされる。
《殺害計画をしたのは全部この人だって…そう言ってる…マリカ、父さん達は犯人知ってた?キャンディス様だって?》
以前、父に会った時、コウが感じたことを思い出しマリカに尋ねる。
《恐らくそうじゃないかと、水面下で捜査はしていたようだ》
《そ、そういえば!あの時、偶然ランチでキャンディス様と同席した時、出張でどこに行くのかって聞かれた。マリカに止められたのに…俺、答えちゃった…だから》
《ああ、あの時聞いてきたのは、スタジアムのキッチンに爆弾を届けるためだったのか。だけど、コウ、お前のせいじゃない。あの時は俺が悪かったから…》
テレパシーで会話は出来ているが、もしかしたらこのままマリカに会えなくなってしまうかもしれないと、不安が広がる。そんな最悪なことを考えると、カタカタと身体が震えてきていた。
「国王陛下の命を狙ったのも知ってる?だからね、王とあなたがいなくなればいいの。そしたらウルキの時代になる。ウルキが王になれば、私たちやりたい放題だわ」
国王陛下を狙った犯行もキャンディスの計画であったとわかる。そして、犯行理由を理解した。キャンディスはウルキの母親という立場を利用し、国を乗っ取る計画を立てている。だとすると、コウや現王は邪魔な存在である。殺したいと思うのは当然なのだろう。
《コウ、お前のいる場所はわかった。ロランがコウのシャツにGPS発信機をつけている。それで追えている》
《ロランが?いつの間に?》
《コウが部外者と接触した時の対応として指示を出してあった。ロランは今、コウが拉致されたと知りパニックになってる。だから上官がロランの元に向かった。俺はお前のところに向かってる》
マリカからそうテレパシーで伝えられた。マリカが向かってくれていると知り、少し安心する。
「カモフラージュであっちこっちに子供を作ってるって見せかけてるけど、王の実子はあなたとウルキだけ。だから次はウルキが王になるの!ウルキのテレパシーを私が自由自在に使うのよ!」
キャンディスの話は続いていた。自分の願望をペラペラと喋り続けている。
「車を見つけたぞ。乗り換える」
男の声が聞こえた。この車を捨て、別の車に乗り換えるらしい。
《マリカ…車を乗り換えるって言ってる》
《別の車?わかった…すぐにこっちでも確認する。もう少し頑張ってくれ、俺が必ず助けに行くから》
目隠しをしたまま別の車に乗り換えた。同じように後部座席にキャンディスと二人で乗っている。乗り換えてもマリカは追ってくれるのだろうか。
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