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第38話

キャンディスに拉致誘拐され暴行も受けたが、大きな怪我はなく数日安静にしていれば問題はないとお医者様から言われた。 入院するより王宮に帰りたいと、マリカに我儘を言い戻ってきている。 王宮に戻ってすぐ、ロランが号泣しながら抱きついてきた。 「コウ様っ!申し訳…う、ううっ、ございま…うううっせん!!」 ウルキながらの大きな泣き声を上げ、ロランがコウにぴったり抱きついてくる。それをマリカが必死で引き離していた。 「ロラン!ありがとう!渋滞作ってくれたんだろ?すっごいな、あんなこと出来るんだな。ロランのおかげで助かったよ」 「そ、そんなぁっ、うううっ…コウ様っ」 泣き止まないロランは、何とかオーウェンに促され部屋の隅に下がって行った。 心身ともに疲れているだろうと、アンジュがベッドを整えてくれたので横になるとすぐ、部屋には、あれあれと人が多く集まってきていた。 事情聴取として警察。それに国王陛下御一行。乳母にオーウェンにロラン。外にはもちろん護衛チームも待機しマリカが指示を出している。そして、ロランのそばを離れないウルキは寝ながら参加していた。 「コウ!よかった!心配した!」 「コウ様、ご無事で何よりです」 「最初に接触したのは誰ですか?」 「キャンディスとの最後の会話は?」 一斉に話をされ、目がまわるくらい圧倒されてしまう。コウの四苦八苦を、マリカが瞬時に理解してくれて、国王陛下御一行を隣の部屋で待機させてくれていた。その間に、警察による事情聴取を終わらせている。 警察が帰った後「コウ!」と、国王である父が抱きついてくる。父には心配をかけてしまったと、コウは反省していた。 「父さん、ごめん!ごめんなさい。俺が勝手なことしちゃったから、こんなことになったんだよ。みんなに迷惑かけちゃった。本当にすいませんでした!」 「いや、私がはっきりコウに伝えてなかったからだ。私の責任である。本当に申し訳ない。無事でよかった…」 テレパシーに執着するあまりの事件であった。事件の原因や目的、もちろん犯人についても、マリカを通して父の耳には入っている。 色々と言いたいことや聞きたいことはお互いある。だけど、それらは落ち着いたらにしようと父に提案された。コウもそれはそうだなと思っている。これからについて、親子で考えなくてはいけないことは山積みのようである。 「ところで!あれなに?ん?なんなの!」 父が急に顔をキュッと引き締めて、コウとマリカを見つめる…というより、カッ!と目を見開いていて怒顔である。 コウはベッドの上で、上半身を起こし背もたれにしているクッションを整えながら、隣にいるマリカをチラッと見ると、マリカは微妙な顔をしていた。 「えーっと、陛下が仰るのは先程のコウ様の行動でございます」 オーウェンが非常に言いづらそうに、コホンとわざとらしい咳払いをして話始めたが、何が言いたいのかコウにはわからない。 「え〜、コホン!犯人から解放された後の行動が、陛下は非常に引っかかると仰っております。実際には私共は見ておりませんが、ほら…あれ、ご自身でやったでしょ、あれ!アレね!」 行動?あれ?と、コウはそれを聞き、斜め上を見つつ考えていると、思い出したことがある。 《マリカ!まさかっ!》 《ああ…そうだろうな、きっと》 キャンディスに腹が立ち、「俺の男だ!」と言いマリカにキスをしたことだろう。 あの時の…渋滞していた光景も思い出した。警察や護衛が父に報告したのだろうか。 「コウ様が、マリカのネクタイを掴んで引き寄せてる行為が盗撮されておりました」 父の親友兼御意見番のドーナツ様が、瞬きをせず力強く言い切っている。こちらも怒っているのが丸わかりである。 《え、うそ!盗撮?キスしたの見られた?ドーナツ様、怒ってる?》 ドーナツ様の怒顔はトラウマである。コウはパニックになってしまう。 《盗撮か。反対車線の奴らだろうな。面白がって盗撮してたら王子がキスしてる写真が撮れちゃったんだろうな》 《うわあああ〜マジかっ!》 《仕方ないだろ、やっちゃったことだし》 傍目には無言に見えてるが、テレパシーで コウは撃沈。引き続き大パニックである。 「今回の事件はハイウェイをジャックしてコウ様を助け出しました。ヘリコプターも出動しており、国民も事件のことを認知しております。ですがっ!」 くわっ!っっという声が聞こえてきそうな程、ドーナツ様がまだお怒りであるようだ。と、いうのも、やはり問題はその後のことを言いたいみたいである。 「ネットを見てもらいましょうか」 オーウェンがそう言うと、グスングスンとまだ涙目になっているロランがタブレットを操作しコウに渡してきた。 タブレットに映るのは、コウがマリカのネクタイを掴みガッツリキスをしている画像である。あらゆる角度からの写真や動画がネットには垂れ流しになっていた。コウの横からマリカがそれをガン見している。 《うわ〜…コウ、俺のことガッツリ引き寄せてんな。結構鮮明に写ってるし。おお、連写かよっ!連写されてるぜ。ネットってすげぇな》 《ま、ま、待って!何!なにっ!お前!マリカ、後ろも!》 キスをしている後ろ姿も盗撮写真にはあった。マリカがコウの腰に手を回している写真である。しかもその後、マリカがコウをお姫様抱っこをして、車に乗り込むところまでご丁寧に撮影されていた。 《よく撮れたよな。これで全国民に付き合ってることがバレたってことか》 「驚きました…今、ネットで最高に盛り上がってます。早いですねぇ、情報が回るのって。明日にはニュースになってるかと」 何となくオーウェンは笑いを堪えてるような感じで言うが、父とドーナツ様は怒顔を崩していない。 《げーーっ!マリカ!これ!何だよ、この見出し!見て、ダサっ!》 タブレットをスクロールしていくと、ネットニュースが見つかる。その見出しには「第一王子の恋のお相手!」「ロイヤルロマンスを見届けよう!」など、やめて欲しいタイトルが既につけられているものがある。 《うわぁ…すげっ、早い。ニュースになってるんだな。ああ…もう俺の名前も出てる。そりゃそうか》 さすがのマリカも驚いているが、コウは恥ずかしくて顔が上げられないでいる。この部屋にはまだ多くの人が残っている。ロランは二人のことを知っていたとはいえ、オーウェンは半笑いだし、乳母のアンジュに知られるのはちょっと恥ずかしい。ましてや、ドーナツ様に淡々とした口調で話されるのが小っ恥ずかしいっ! 「あのさ、君たちはテレパシーの相手なんでしょ?それだけじゃなかったの?マリカ!コウのお友達じゃないの!ねぇ!」 父が声を荒げて言い出した。こんな父の姿は初めて見るのでびっくりした。 《ヤッバ、父さんマジで怒ってるじゃん!でもさ怒ることある?こんなことってある?俺、さっきまで拉致されてたんだよ?被害者じゃん、今日は疲れたよ?》 《やっぱり、事前に陛下にお伝えしてなかったのがいけなかったな。きちんと段階を踏まないと陛下はダメなんだよ》 《なんで?付き合ってますとか、いちいち親に言うか?別に必要ないじゃん》 《親っていうか、陛下だろ。一般人とお前は立場が違うんだって。付き合ってますだけじゃ、ダメだろ》 《じゃあなんなんだよ!それ以外ないだろ》 《あるだろ。もちろん》 マリカがこっち向いてニヤッと笑った。そのままコウの手を握り、父に向き合った。 「国王陛下、ご報告が遅くなり申し訳ございません。コウ様とは真剣にお付き合いさせていただいております。このような形でのご報告はご無礼であると重々承知しておりますが、どうかお許しください。私もコウ様も生半可な気持ちでの交際ではありません」 マリカの真剣な姿に釘付けである。アクシデントからの報告なのに、真剣な顔で父に伝えている姿は、惚れ直すくらいカッコいいと、胸がドキンっとしてしまった。 「でもねっ!後から知るって酷いと思わない?ネットで知るってどんな気持ちかわかる?びっくりしたんだからっ!いつから付き合ってたの!父さんには後回しなのね!そうなのね!」 父がまだ怒っているようだ。意地悪な態度でマリカに突っかかってくる。 「父さん、ごめん!タイミングみて伝えようとしてたんだけど、事件とかあって…遅くなって。隠してたわけじゃないよ?本当に二人で伝えようとしてたんだ。ごめん!本当にごめん」 「ふんっ、明日にはゴシップニュースとしてテレビでも放送されると思うよ!」 マリカのフォローをしようとコウも口を挟むも、拗ねている父の態度は変わらず。先に自分に知らされていなかったことが、相当不満のようである。 「陛下、どうか正式にお認めいただきたく思います。私は真剣にコウ様を愛しております。公私共にコウ様を支えていくことを陛下にお約束いたします。どうか、コウ様と私の結婚をお許しください」 「けっ!結婚っ?」 マリカの口からどえらいワードが飛び出してきた。結婚?とは?俺?と…なる。 「コウ、結婚しよう。順番が逆になってごめんな」 「…マリカ」 結婚とはっ!色々と飛び越えすぎて驚く。しかし、マリカは真剣な顔をしている。いつもの飄々とした感じではないようだ。マリカを見て胸がちょっと熱くなった。 「...マリカ、コウを幸せにしてくれるの?できんの?ねえ!」 横から父の声が聞こえてきた。相変わらず突っかかってくる言い方である。しかし…とコウは首を捻って考えた。 「父さん、違う…俺がマリカを幸せにするんだ。先に伝えてなくてごめん」 ベッドから降りて、父の前に跪く。そしてマリカを幸せにできるのは俺しかいないんだってこと。そう父に誓う。 「改めまして、国王陛下。ヘーゼル国、第一王子の私は、マリカを生涯幸せにすることを誓います。だからどうか二人の結婚をお認め下さい」 王子スマイルを最大限発動し、国王陛下である父を見上げた。マリカも隣にいて跪いてくれている。 ベッドルームはシーンと静まり返り、皆、 コウとマリカの挙動を固唾を飲んで見守っていた。 「...うっ、わかった、わかったよ。認めるから...」 それまでの時間が長く感じた。国王陛下からやっと認めてもらうことができた。周りにいる人たちからは、安堵の吐息を漏らすのが聞こえてくる。 「うわあああああーーーーん」と、静まり返ったベッドルームに、ウルキの泣き声が鳴り響く。ロランが慌ててウルキをあやしていた。 ウルキの泣き声が号令となり、やっと、いつもの世界が動き出したようだった。

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