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第39話

「俺は、ロイヤルロマンス賞だな。やっぱりTシャツ狙いだろ。限定500名にプレゼントか...本当は、要らねぇけどな」 「私はラブ・イズ・ワンダフル賞ですね。このマグカップは、お湯を入れると反対側にも写真が浮き出てくるんだって〜。こっちは限定700名なんです。ゲットできるかなぁ」 昼のキッチンで、オーウェンとロランがそれぞれワゴンを押しながら、楽しそうに話をしているのを、横で聞いている。 コウの分のランチは、二人のワゴンに乗せて運んでもらっている。自分でワゴンを引っ張ってきたが「運びますって~。護衛ですから~」と、二人に声を揃えて言われたので「じゃあ…」と言って引き下がった。 コウの護衛をしているのはロランである。 キャンディスの事件があったため、ロランは一時解任されてしまったが、ウルキのギャン泣きが続き、ロランがそばにいないと収拾がつかないため、正式にコウとウルキの護衛に任命された。 コウは外に出る仕事を許可してもらい、週に数回議会にも参加していた。議会に参加する時は、ロランの他にオーウェンも護衛で来てもらっている。オーウェンはマリカの代わり、議会アドバイス要員でもある。 オーウェンに初めて会った時、誠実で信頼ができる人だと思った。仕事ではその印象通りであるが、プライベートは思っていた以上に砕けた感じで、ノリのいい人であった。そしてマリカが慕っている人だ。 そのマリカはというと、相変わらず国王陛下の護衛で忙しいようだった。父からの直接依頼もあり、今はマリカが全面的に王の護衛として動いていた。 今日は議会の日。朝からの議会が終了し、オーウェン、ロランとコウの三人でキッチンにてランチをしている。そして、さっきの話の続きが始まっていた。 「オーウェン上官、要らねぇけどってなんですか!余計なんですよ、その一言が!本当は、ロイヤルロマンス賞のTシャツが欲しいくせに」 「いやいや、こんなのネタだろ?本気でこのTシャツ欲しいやついるか?でも、俺はもらうぞ!俺はもらったらこれでマリカをイジり倒してやるんだ。はははっ」 「げぇっ!ひっどーい、なにそれ~。でも、コウ様!キスしている二人の写真なんてよく王室がOK出しましたね。素敵です!シャレがきいてるっていうか...カッコいい~」 「...そりゃ、どうも」 今、王宮キッチンでは、1ランチで1スタンプが貰えるロイヤルキャンペーン中である。10個スタンプを貯めればマグカップ1個、20個でTシャツ1枚が必ずもらえるというものだ。 スタンプを貯めてもらえるロイヤルキャンペーンプレゼントのTシャツ、マグカップには、この前のキス写真が使われている。 何故こんなことになったのだろうか。と、改めて考えてみている。 父が交際を認めてくれた後、ホッとしたのもつかの間であり、翌日にはゴシップニュースとして、ネット、テレビ、雑誌でコウとマリカの交際が大々的に報じられた。 本来は、拉致誘拐事件の方が大きく報じられてもいいはずなのに、ビッグニュース!とばかりに、ヘーゼル国第一王子のラブロマンスが報じられた。 話題はもちろん、コウがマリカのネクタイを引っ張りガッツリキスした写真からである。 あの時の盗撮された写真が出回ってしまい、「王子の熱愛」「お相手は護衛チームリーダー」と、国内外に噂が広まってしまった。最初は必死に写真を回収し、交際もひた隠しにしようとしていたが、正式に国王陛下に認められ、愛し合っている二人なのに隠すのもおかしいだろ!と、マリカが謎に怒り始めてから、王室が急に態度を変え全面協力をし始めた。 王室はキス写真の一部を買取り、その他全て二人の写真はSNSにUPしてOKとし、そして買い取った一部の写真を使い、王宮キッチンでロイヤルキャンペーンとやらを打ち出していた。 キャンペーンタイトルは「食べて、集めて、ロイヤルロマンスを応援しよう!」という、誰が考えたんだか、微妙なものまでご丁寧についている。 勝手に応援までされているロイヤルキャンペーンのプレゼント景品であるTシャツとマグカップのそれぞれにデザイン画として使われてるのが、コウがマリカのネクタイを引っ張りキスをしている写真であった。 しかも、Love Never Diesというメッセージも一緒にプリントされている。 自分のキス写真がプリントされたキャンペーンが勝手に始まったことや「愛は死なない」なんて、やべぇメッセージが入っていることに最初は怒ったり、青ざめたりしていたコウであったが、王室がど真面目に考えてやったことだとわかり、今はもう呆れて何も言えなくなっていた。 国民も王子のロマンスを歓迎してるんです!だから、二人の愛を盛り上げようとしてるんです!と言われれば、誰が考えたんだよ、センスねぇな…などとは言えなくなる。 王室もだいぶ振り切ったことをやってくれる。これも時代なのかもしれない。 「あいつ、あの時スイートルームを無理矢理用意させただろ?俺、大変だったんだぜ」 「ああ、あれねぇ…」 オーウェンが、Aブースのホロホロチキンランチを食べながら、スタジアムキッチンに出張した時の話をし、コウが相槌を打っていた。 あの時、護衛チームは予定通りにホテルを貸し切り監視カメラを仕掛け、コウの身の安全をと、全員が集中していた。なのに、マリカによる急な変更で、予定外であるスイートルームを手配することになったと、オーウェンは言っている。 確かにあの日はそうだった。 マリカは怒りから悪知恵が働き、スイートルームを手配していたと、コウは知っているので、なにも言えないでいる。 気持ちを確かめ合った大切な日であるが、裏ではオーウェンにだいぶ迷惑をかけていたなと、今更ながら思っていた。 「まさか、二人が付き合ってるなんて知らないからさ~。コウ様の身の安全のためにってマリカがいうからさ~。俺、頑張ってスイートルームを手配したんだよ?それなのにさぁ…身の安全つうより、カメラが無いところでイチャイチャするためだったなんてさ〜、あはは」 「いや〜違うって!イチャイチャなんかしなかったよ」 すいません、セブンティーン上官!おっしゃる通りめっちゃイチャイチャしました…と、コウは内心謝っている。 「ま、だからロイヤルロマンス賞のTシャツをゲットしたらさ、それ着てマリカをイジり倒してやるんだ。あの時の仕返しいいよね?俺がゲットしたなんて知ったら、恥ずかしいだろうなマリカ。カカカッ、うっける~」 「セブンティーン上官、悪いやっちゃなぁ〜」 「コウ様、セブンティーン上官って言うなって!あっははは」 いやいやいや、あのTシャツは俺も恥ずかしいって!マリカがイジられているのは、俺がイジられてるのも同じだって!と、本当は言い返したい。だけど、そうしないのは、あの時の恩があるからだ。 あの時、スイートルームでカメラがない状態だったから、二人は安心して結ばれたと思っている。だから「セブンティーン上官、あざーすっ!マジ感謝でぇす!」と、心の中では思ってはいる。 「上官、最低です!愛し合ってる二人に失礼ですよ。私はね~、純粋に欲しいんです。このマグカップ可愛いですよね!正面はお二人がキスしてる写真でしょ、で、お湯を入れると、反対側はお二人の後ろ姿が浮き出てくるの!マリカさんがコウ様の腰に手を回してる画像は、お湯を入れないと見えないんです!あ~欲しい」 と、こちらはイジりとは全く別で、安定のロランのきゅるりん顔のキャッキャである。真顔目に言われてものすごく恥ずかしい。でもまぁ、コウとマリカのことは全面的に応援してくれている気持ちは本当に伝わってくるので嬉しいけど。 そう、何だかんだ言って、二人とも心配してくれるし頼りになるし大きな味方である。大きな味方がついて生活も安定してきていたが、マリカとは若干すれ違いが続いていた。 「上官は、あといくつ?」 「俺?あと12個だから、6回でゲットかな」 オーウェンとロランは、二人でスタンプカードを見せ合い、あといくつでプレゼントゲットできるか?と確認し合っている。 大食漢の二人はいつもキッチンでランチを2種類は食べている。今日はホロホロチキンランチと、円盤ピザBランチをチョイスし、スタンプは2つずつもらっていた。 この調子でいくと、普通の人より倍の速度でスタンプを集めることが出来そうであった。 《コウ、どこにいる?》 マリカからのテレパシーを感じた。キッチンでコウのことを探しているようである。 今日は忙しいからキッチンでは会えないんだろうなと思っていたから、テレパシーが届き嬉しくなる。 「あっ!マリカだ。こっち来るって言ってる。仕事終わったのかな」 コウはそわそわして周りを見渡した。長身のマリカが探しながら歩いてくる姿が見えた。 《マリカ!こっち!正面にいる。オーウェンとロランも一緒だよ》 テレパシーで伝えると、マリカはすぐにコウを見つけ満面の笑みを見せていた。ワゴンに料理を乗せて押しているので、これからここでランチをするようである。手を挙げてコウも笑顔で応えた。 「おおっ!マリカ~、見た?なぁ見た?見ちゃった?今週からスタートしたロイヤルキャンペーン。食べて、集めて、ロイヤルロマンスを応援しよう!だぞ~」 マリカが着席して早々にオーウェンが、カカカッと笑いながら話しかけている。 ロランとコウは「でたでた」「イジるの早いってば」と口々にオーウェンに言ってやったが、イジられても、マリカは気にしてないようである。相変わらずマイペースな男だ。 「上官、俺はもうスタンプ貯まったから、Tシャツ交換してもらってますよ」 と、笑顔で爽やかに言うマリカに、コウは呆れて絶句した。自分のキス写真がプリントされてるTシャツを欲しがって、スタンプ貯めてゲットするなんて、マリカは、やっぱりアホなところがあると思う。 「うえっ?えっ!なに?Tシャツゲットしてんの?マジで?うそっ、はやっ」 マリカの答えにオーウェンが派手に驚くから、周りのテーブルの人が振り向いている。コウとマリカが揃ってテーブルで食事をしているので、通りすがりの人が立ち止まって「おめでとうございます」「お似合いですね」と挨拶をしてきていた。 ゴシップニュース通り、みんな二人のことはご存知であった。 「ありがとうございます。コウ様の婚約者のマリカでございます。お見知りおきください」 コウは恥ずかしさから小さくなったのに、マリカは眩しい笑顔を作り、ご丁寧な挨拶を見知らぬ人にしていた。 これにもコウは絶句である… 「マリカ...お前、すげぇ。マジでブレないな。感心するよ」 真顔で感心しているオーウェンに肩を叩かれたマリカは、続けてとても大切なことを言っていた。 「上官、キャンペーンは、無くなり次第終了ですから気を付けてくださいよ」と。

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