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第40話

オーウェンとロランが2つ目のランチを食べ始めているのを、コウは覗いて見ている。二人の体格差はかなりあるが、同じくらいの量を食べている。小柄なロランの食べっぷりが気持ちいい。胃袋セブンティーンはオーウェン上官だけではないようである。 「コウ、どうだった?意地悪されていないか?」 「うん、オーウェンが嫌っていうくらい、キャンペーンのことでイジってきてるけど、大丈夫だよ」 「おおいっ!」と、またオーウェンが大きな声を上げたが、同じくらい大きな声でロランが笑ったので、コウもマリカもつられて可笑しくなり笑い出してしまった。 「仕事は、順調か?」 「まあね、議会に出してもらってて、今日は予算修正の最終確認だった。ワゴンの修理費も全地方エリア分確保できたし、大丈夫かな。オーウェンに助けてもらったよ。 マリカは?忙しそうだよね」 「うん、まあな。陛下が精力的に動いてるからってのもあるかな」 マリカは今、国王陛下の直下で護衛として動いていた。護衛チーム全体の指揮官をオーウェンからマリカに引き継がれている。 今は、全面的に指揮を執るのが、オーウェンではなくマリカであった。 それはあの日、父である国王陛下に二人の気持ちを伝え、交際を認めてもらった後に、約束したことでもあった。 コウとマリカ二人の交際は認める。 二人が真剣に考え、結婚したいという気持ちも聞けて、父として嬉しいと言ってくれた。 だけど、今のまま結婚するのは認められないというのが、国王陛下の考えであった。 コウは、キッチンポーターの仕事から仕方なくもあり、国の政に参加していた。 きっかけは、父の意識不明の重体からであったが、やり始めてやりがいを感じた仕事だ。なので、やりかけているワゴンの修理に伴う改善費用の捻出、新しいAIキッチンのプロジェクトは引き続き携わりたいと、父である王にお願いをしていた。 「第一王子であるコウが、議会に参加したり、国の政に携わるのは王として望むことでもある」と、前置きがあってから話をされたことだ。 「だけどさ、コウ。マリカからのテレパシーに頼ってるんでしょ?違う?」 国王陛下である父から痛いところをつかれていた。 議会ではマリカのアドバイスがあったのではないか?自分の考えを持ち、ひとりで議会に参加できなくてどうする。いつまでもマリカのアドバイスは受けていられない。そう辛辣に国王陛下から言葉を並べられ、コウは答えられなくなっていた。 「ほらね~、図星じゃないか。マリカもだよ?わかる?」 続けて矛先はマリカに向けられた。 「マリカだってこのままってわけにはいかないよね?将来的にコウの時代になれば 更に護衛を強化しなくちゃならない。そのために、今、何をするべきかわかるでしょ?」 そう国王陛下から直々に言われたマリカは、上のポストを狙う訓練とテストを受けている。上のポストとは、オーウェンのポストである上官だ。 「二人が考えて、行動して...私に認められた時に結婚が出来るんじゃない?」 父は簡単に難しい試練を二人に与えてきていた。だけど、マリカと二人で国王陛下に認められるようにと、約束をしている。約束をしたのは、これからの二人のためだ。 「マリカ、また今夜もやるか?付き合ってやるよ」 「ありがとうございます。よろしくお願いします...」 オーウェンに言われてマリカは即答し、お願いしている。上官というポストに就くために、オーウェンから指導を受けているらしい。毎日夜遅くに帰ってくるので、それがすれ違いの原因でもある。 「コウ様、大丈夫です。あともう少しですから!オーウェン上官の指導は厳しいらしいですけど確実です。国王陛下もすぐに認めてくれますよ」 コウがしょぼくれてたのが伝わったのか、ロランが励ましてくれていた。 「あ、うん、俺は大丈夫だよ。でもさ、マリカが上官になったら上官は2人制度になるの?」 素朴な疑問である。 マリカが上司になった時、オーウェンとマリカの2人が上官になり護衛チームが更に増えるのかなと、コウは単純に考えていた。 「違いますよ!オーウェン上官は、更にその上の最高司令官になるんです!ぜーんぶをまとめる人です。あのね、コウ様、マリカさんのことイジったり、こんなにいつもふざけている人なのですが、オーウェンさんは、本当はすごいんですよっ!」 ロランがキラキラとした目をして語っている。自分の上司がいかに最高であるかと、語れるのが嬉しそうである。 「おおい!ふざけてるって余計じゃないか?俺、そんなにふざけてないぜ?」 「いいえ!ふざけてます。上官はいっつもそうだもん。たまーに子供みたいに、すっごく絡んでふざけてくることもあるし。仕事以外の取り柄は、胃袋セブンティーンくらいなんですからね」 「ええっ…ロラン、ヒドイネ」 あははははと、4人で笑い声をあげてまたしてもテーブルが注目されてしまった。 「子供っていえばさ、AIキッチンのプレオープンがあるんだよ」 コウがプロジェクトに参加している全自動を目指すキッチンである。計画していた内容が実現化でき、やっとリニューアルオープンの目処が立っていた。これで、人手不足も解消されるであろうと期待も高まっている。 「ああ、今週末だろ?日曜日だっけ?」 「そう!覚えてた?やっと完成したんだ。それでね、隣のスタジアムのイベントはアチュウなんだって!だからその日は、ウルキも連れてプレオープンに行きたいんだ。マリカ行ける?」 随分前に伝えていたことだが、マリカは覚えていてくれてたようだ。キッチンワゴンや、ゴミ回収を全自動にする開発を行い、開発完了調査も無事クリアできていた。開発者のネルより、お披露目会としてプレオープンを今週末に行うので、是非来て欲しいと言われている。 またその日、隣のスタジアムのイベントは子供たちに大人気の番組「アチュウ」である。アチュウはウルキが大好きなテレビ番組であり、コウとロランはウルキのために アチュウの主題歌をダンス付きで歌えるほどになっている。なのでこのイベントは逃したくない。アチュウをウルキに見せたい。だからAIキッチンのプレオープンに行きたいと、コウは思っていた。 「いいよ。そしたら、その次の日休み取っておけよ?」 「え?休み?」 「泊まりで行こうぜ、俺も休み取るからさ。ウルキが一緒ってことはロランも行くだろ?じゃあ、上官に車出してもらって、ウルキとロランを上官の車に乗せてもらおう。オーウェン上司、よろしくお願いします。俺の車には、コウを乗せて行くんで」 「あ?俺~?ま、いいけどさ...休みだから」 泊まりで行こうとマリカは言うが、ウルキとロラン、みんな一緒に泊まるのだろうか。ウルキはまだお泊りをしたことがない。初めてのお泊りなんて大丈夫かなと、 コウが考えている間に話はどんどん決まっていく。 「オーウェン上官、この前のところのスイートルーム抑えてもらえますか?」 「えっ?はあ?また、俺?そんなの自分で手配しろよ、なんで俺がするんだよ」 「上官は今、コウの護衛もやってるでしょ?だから、コウの身の安全のためにスイートルームの手配お願いしますよ。俺たちはそこに泊まるから、帰りはまたウルキとロランを上官の車で王宮まで送ってもらって、」 「えっ?ウルキとロランは泊まらないの?」 マリカが話を決めていくのを聞いてると、ウルキとロランはオーウェンの車で日帰りだ。なので、コウは咄嗟に声が出て、マリカの話を遮った。 「ウルキはまだ泊まるのは難しいだろ?日帰りなら何とかなるけどな。上官が送ってくれるから大丈夫だ。俺たちだけ泊まろうぜ」 「ねえ、マリカ。俺さ、上司だよね?なんでそんな悪魔みたいにこき使うの?プライベートで、スイートルームなんて抑えられるわけないじゃん!ねえ、聞いてんの!」 オーウェンは、若干無視するマリカに声を荒げている。確かに、オーウェンの言う通り、マリカは上司を程よくこき使っているように見える。 「コウ様!調べましたよ、これですよね?イベントって。うわあ、ウルちゃん喜ぶだろうな~。あっ、見て!キャラクターショーがあります。アチュウと会って握手できるみたい!」 オーウェンがマリカに物申している横で、ロランが携帯電話でイベントを検索してくれていた。着ぐるみの握手会や写真撮影会もあるので、ウルキが喜びそうである。 「えーっ!本当だ!ウルキ喜ぶよきっと。こりゃあ朝早くから行かないと」 「ですよ!オーウェン上官、お迎えは何時ですか?」 「上官、ほら、早くスイートも取って」 「え~っ、マジで~」と、オーウェンがうんざりした声を上げたので、またみんなで笑った。今週末は久しぶりにマリカを独り占め出来そうである。コウは嬉しくてたまらなかった。 《泊りってこと。意識しろよ?》 突然、テレパシーでマリカに話しかけられる。 《あ?なに?意識って。泊りだろ?さっき聞いてたよ》 《お前、本当にわかってんの?この前のところに二人で泊まりだぜ?思い出せよ。 今度は、この前以上のことするんだろ?》 《はあ?...えっ?え、えーーーっ!ま、ま、マジ》 テレパシーを使う意味がわかった。周りには聞かれたくない内容だからである。 これは、確実にヤルってことだろう。セックスしますよって宣言だ。マリカの方を見るとクククと笑っている。 すれ違いになっている今、キスするのだけが最高MAXのスキンシップである。タイミングが合わないから仕方ないと思っていたが、マリカは確実にタイミングを合わせにきている。 最後まで身体を繋げる気満々だ。 こりゃ…大変だ。 《楽しみだな》 《うっ、は、はい...ソウデスネ》 と、テレパシーで答えるとマリカはまだ笑っていた。

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