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第44話
国王公邸を通じて、コウとマリカが結婚することを正式に発表した。ヘーゼル国第一王子の結婚式であるため、数日間にかけて伝統的な儀式や祝宴などを行い、首都周辺にてパレードの開催も控えているという。
「二人が考えて、行動して...私に認められた時に結婚が出来るんじゃない?」
と、以前父である国王陛下に言われ、二人で、認めてもらうための行動を起こしてきた結果である。
マリカは現ポストの上を狙い、訓練とテストを受け昇進して上官となった。上官は護衛チームを総括してまとめる人である。立場が大きく変わり、今まで以上に忙しくなっていた。
コウは現王である父の元で学び、一から議会に参加したいと申し出ていた。キッチンのプロジェクトにも引き続き参加し、国民目線で考えて活動していくことを目標としている。
そう行動を起こし、自分達の立場を考えて、やっと父に結婚を認めてもらった。
結婚なんてこれまで興味なかったが、マリカとだったらしたいなぁと思い始めていた。それは、マリカと何度も話し合ってきたらだと思う。
父にも認められ、やった〜!やっと晴れて結婚できるぅ〜!と、喜び、結婚を機に二人で考えていることもあった。二人ではないと出来ないことなのかもしれないなぁと思ってる。
しかし…それより前にやらなくてはいけないことがある。男には戦わないといけない時があるんだ。
「俺さ〜、パレードなんてやる必要ないと思うんだよね。車に乗ってやるんだろ?そんなのやらなくていいよ。それにさ、数日間もやる必要ある?いらねぇ〜…」
「ダメ!コウは王子でしょ?王子の結婚は国の大切なこと!パレードは伝統でもあるの!やらなくちゃダメ!」
父やその周りの王族関係たちは、伝統でもある結婚の儀式や祝宴などは絶対やらなくてはいかん!派である。
だが、コウはどうも納得出来なかった。何日間も行われる儀式は無駄じゃね?と思うし、パレードなんて恥ずかしいからもっての外、中止じゃ!って気持ちである。
結婚を認めてもらい、色々と決定される前の今が、儀式や祝宴などキャンセル出来るチャンスだと思っている。
「無駄だって。無駄なことに費用かけないでいいよ。本当は声明出して終わりでいいんだって。な、マリカ!それでいいよな」
「うーん…悩む」
「は?悩む?おいっ!マリカ!」
現在、国王陛下執務室でバトル中である。
結婚の儀式は一日だけ、パレードは無し!と異議申し立てするため、コウがマリカと一緒に乗り込んでいた。
が、なかなか話が先に進まない。それは大きな難関が近くにいるからだとわかった。
さっきから薄っすらと嫌な予感が漂っていた。懸命に提案しても、その難関が前を阻んでいる。
コウがいくら言っても、父や側近、大臣達は、何故かマリカに儀式の伝統やメリットなどをひたすら伝えている。そしてそれを聞いたマリカの気持ちがぐらぐらと揺れていた。難関はお前じゃ!マリカっ!とテレパシーを送るも無視をされている。
「ヘーゼル国の第一王子であるコウ様の結婚式です。パレードは王室が国民と直接交流できる機会です。国民との絆を深め、支持を得ることができます。そして、コウ様の真っ白なフォーマルな姿は、パレードに華やかさを一層引き立てるでしょう。マリカは、それを見たくないですか?」
「見たいです」
マリカ即答である。ドーナツ様が笑顔で頷き、言葉を続けている。
「そして、パレードをすることで、王子の伴侶としてのマリカも、国民に認めてもらうことにもなるんです。二人は生涯共にすると国民の前で誓い、一生に一度の特別な日となります。愛を誓うんですから」
「一生に一度の特別な日…国民の前で誓う…愛を…」
「そうです。愛を誓うんです。パレードは愛を誓い合った二人を国民に見てもらい、認めてもらうためです」
「パレードは必要です」
ガッツリ丸め込まれていた。薄っすらと嫌な予感を薄目で見ていたが、マリカが国王陛下寄りの意見になっていっていた。お前は俺寄りじゃねぇのかよっ!と、テレパシーで伝えても、また無視をされている。
「おい!マリカ!しっかりしろって。催眠術かけられてるのかよっ!儀式は簡素化、パレードは中止!そう相談してから来ただろ?」
「いや、コウ。よく聞け、ドーナツ様の大切な話だ。コウは色が白くて髪がふわふわだろ?だから白のフォーマルなんて最高に似合うはずだ。それを国民に見てもらわないでどうする!それに、愛を誓い合った二人だぞ?コウを愛してるんだって国民に伝えないなんて、失礼じゃないか!そしてドーナツ様はこうも言っていたぞ、コウ様という天使のような存在に出会えたこと、伴侶として誇りに思い、それを国民に、」
「もういいって…お前さ、そういうアホなことはテレパシーで言えよ。恥ずかしいから」
アホな部分が出てしまっている。マリカはこうなると手に負えない。今日は一旦引き上げて仕切り直しだなとコウは考えた。
「テレパシーっていえばさ、他の人がいる時に意識する?例えば、オーウェンとかロランと一緒にいる時に、頻繁に使うことある?」
父はフゥフゥとココアを冷まし少しずつ、ゆっくりと飲み、同じくゆっくりとした口調で聞いてきた。ココアのいい香りが部屋に広がっている。
「ロランたちといる時?そんなに使わないよ。みんなで喋ってる時ってプライベートだし、テレパシー関係ないもん。それに俺たちのテレパシーって、そもそもそこまで重要なこと喋ってないし」
「そうなんだぁ!仲良い人といる時って、テレパシーなんて忘れちゃうっていうよ。上手く使えてるんだね。よかった」
父が嬉しそうに顔を上げて言っていた。キャンディスの件もあったし、テレパシーを上手く扱えているのかが心配なんだろう。一歩間違えると、キャンディスの言う通り、犯罪に使ってしまうかもしれないからだ。
「そう、それにお二人は、テレパシーで伝え合っていることが、口から出てますよ。私の名前をテレパシーでイジっているのはわかっています」
「はっ!」
父の親友兼御意見番のドーナツ様、もとい、国王の姉の夫であり、アレキサンダーグリルドバーガーキングJr.レストレスドーナツクリスピー様に言われてしまう。
彼もココアを飲んでいた。よく見ると、使っているマグカップは、コウとマリカのキス写真がプリントされた王宮キッチンキャンペーンのやつである。
そっちだって軽くイジってるじゃん!と、その手元をジッと見てやる。
「テレパシーは繊細なものだと教えられておりますので、慎重に取り扱っています。以前のような事件を起こさないためにも、コウ様の周りを把握し、護衛体制を強化しております」
あの事件以来マリカが気にかけているのはわかっていた。護衛する側も練磨している。王族関係者やテレパシー保持者の護衛について、毎日遅くまでオーウェンと体制の練り直しをしているのを知っている。
だから、コウもテレパシーについてマリカと話し合ったりしていた。
「でさ、結婚するにあたって、俺たちから公表しようと思ってることがあるんだ」
改まってコウが父の目を見て伝えた。こっちの話が今日の本題である。
「ほう…」
父はココアをテーブルに置き、コウに向き直ってくれた。
「俺とマリカは、テレパシーで繋がっている。そして、そのテレパシーを送り合う相手ですって、国民に公表しようと思う」
マリカとずっと話し合っていた。話し合って出た答えは、テレパシーはもっと社会的にオープンにしていくべきだということだった。
それは、父から聞いた話が後押しをしていた。
テレパシーは、未届による問題、犯罪、更には未解明なことも多い。今後はそれらを解決、解明する必要があると思う。二人共考えは同じである。
「それって、俺たちがやるべきことだと思うんだ」
コウが父たちに説明をした。皆、黙ってコウの話を聞いてくれていた。
「自分たちの関係をオープンにすることで、耳を傾ける人が増えると考えます。保持者を守り、持っていない人には認識を深めてもらうきっかけになります。テレパシーを持っているからといって、生活は変わりません。だからテレパシーを、パーソナリティの一部として受け入れてもらえるように取り組んでいきたいと考えています」
マリカに言いたいことをまとめてもらう。相変わらず、マリカは上手いなぁと感心してしまう。さすがマリカ、俺の男。
「新しいねぇ…テレパシーを持ってるなんて言うのは、大昔はタブーだったんだよ。今はテレパシー持ってるくらいは一般的に言うし、むしろ羨ましがられるけど…相手のことまではねぇ…公表するなんて思い切ったこと考える。ま、二人が真剣に考えたことだってわかるからね。そうだな、国王として応援はするよ」
最終的には国としてバックアップをしたいってことか…と、父は最後に呟いていた。さすが国王陛下、理解が早くて助かる。
国として動いてもらわないと、先に進まない。話を大きくして、この問題に力を入れていこうってマリカと考えているんだ。
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ピチュピチュと美しい鳥の声を聞き、朝の静けさと清々しい空気の中、皆で朝食を囲んでいる所に、コウの叫び声が響く。
「だあぁぁぉぉぉーーーっ!もおぉぉぉぉ!!マリカ!!うるさいーーー!」
「び…びっ…びええぇぇ〜んんっ」と、そのコウの突然の叫び声に、第二王子のウルキがまた泣き出してしまった。
「あ〜、ごめんごめん!」
「毎回コウが突然叫び出すから、ウルキがびっくりするじゃないか」
「お前がっ!テレパシーでうるさいから!」
マリカは相変わらずである。
《コウ、好きだよ。愛してる。朝起きてからずっと好きだ。いや、夜寝る前も好きだったな。寝顔を見ながら俺は愛を語っていたぞ。昨日は無理をさせたけど大丈夫か?昨日は愛し合ったな。コウは最高だ…愛らしい。俺の想いは毎日増えていく。この想いどうしたらいいんだ。お前を愛して、》
《もういいから…早く食えよ》
テレパシーの内容も相変わらずである。
結婚に際して、二人は国民に向けて声明文を発表した。
声明文
私たちは本日、国民の前で結婚を誓います。これから私たちは、思いやりの心を大切にし、困難な時も、幸せな時もお互いを信じ、力を合わせて協力していくことを誓います。
私たちはテレパシーによって結ばれており、互いにテレパシーを送り合う特別な関係にあります。テレパシーには長い歴史があるものの、未だに多くの未解明な点が存在しております。私たちの経験を公表することで、未来を明るく照らし、差別や区別のない世界を実現するため、この事実を公表することを決意いたしました。今後、テレパシー保持者を保護し、より良い社会を築くために尽力してまいります。
end
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