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【番外編】ロラン、オーウェン

「アチュッ!アチュ!アチュー!」 イベント会場では、あちこちでアチュウのテーマソングが流れている。 コウ、マリカと別れロランとオーウェン、ウルキはまたスタジアムのイベント会場に戻ってきていた。 アチュウの握手会では見事ウルキにギャン泣きをされてしまったが、ご飯も食べてご機嫌な状態であるため、オーウェンに「キャラクターショーにリベンジするか?」と聞かれていた。 一日に何度もやるキャラクターショーの最終回が、もう間もなくである。 「もう一回チャレンジしてみっか?俺がウルキを抱っこして、一番後ろから見れば怖くないんじゃないか?」 「うーん、大丈夫かな。びっくりして泣きそうになったら退散してもいいですか?」 「そうだな、そしたらまたあっちで遊べばいいだろ。よし!ウルキ〜いくぞ〜」 一度泣かれているのでトラウマになってたら…と、ロランはドキドキしていたが、オーウェンはお構いなしのようで、ウルキを抱っこしてキャラクターショーの広場にズンズンと入っていく。 ショーはすぐに始まり、ジャジャーンと派手な音楽が鳴り響き、観客から「わぁっ!」と声が上がっている。 大丈夫かな?とウルキを見ると、オーウェンにしがみついてはいるが、興味津々な顔をしている。 「アチュッ!アチュ!アチュー!みーんなーのともーだーちー!」 いつもTVで見ている曲が流れ始めると、ウルキはパアァっと顔を明るくして、手を叩き笑い出した。それを見てロランはホッとした。 その後は、ショーが進むにつれ、ウルキのテンションは上がっていき最終的にはオーウェンがウルキをかたぐるまをしていた。 広場の一番後ろで見ていたが、身体が大きいオーウェンがかたぐるまをしているのは目立つ。その上でウルキは一生懸命手を広げて踊っていた。ロランはその光景を見て嬉しくて、可笑しくて笑っていた。 「よかった〜!本当によかった!ウルちゃんが楽しんでくれてました。でも上官がウルちゃんをかたぐるましてる姿は、ほんっとに笑えた〜。あははは」 「なんで笑うんだよ。俺だって必死だよ?最後はウルキがめちゃくちゃ踊ってたから落とさないようにってさ…」 「それが可笑しいんですって!コワモテの人が必死に子供を支えてて〜、あー、可笑しい!でもよかったぁ、本当にありがとうございました」 ロランだけだったら諦めていた。一度泣かれているからリベンジするなんてハードルが高すぎることだ。オーウェンがいたからリベンジ出来たと思う。 少し強引なオーウェンであり、小さなことはあまり気にしないようだ。そんな器の大きなオーウェンに救われた。 ウルキが楽しそうにしてくれてたのは、オーウェンのおかげであると、ロランはオーウェンに感謝をした。 イベントも終了し、王宮に帰ろうとするも、テンションが上がり楽しかったウルキは帰りたくないと駄々をこね始めた。 「ウルちゃん、今日はもうおしまいなんだって。アチュウ、バイバイだよ?アチュウは、ねんねするんだって。だからウルちゃんも帰ろうね」 オーウェンに抱っこされてるウルキにロランが言い聞かす。だけど「なんで?いやっ!帰りたくない!」と、全身で抵抗している。 「仕方ねぇよな、終わりなんてウルキにはわかんないもんな〜」 困る様子もないオーウェンは、笑いながら軽く言い出す。抱っこしてるオーウェンの腕の中でウルキが暴れだしても「元気だな〜ウルキ〜」と、何にも気にしていないようである。 「あーあ、せっかくウルちゃんがご機嫌になってくれたのになぁ。どうしよう」 「何とか誤魔化して車まで戻るか。おっ!ウルキ〜、アチュウの風船だぞ!」 スタジアム出口付近でアチュウの風船を販売していた。ウルキを抱っこしながらオーウェンが沢山の風船の中からひとつ選ばしている。 「どれ?それがいいのか?よし、じゃそれひとつね」 オーウェンがウルキにアチュウの顔が描いてある風船を買ってあげていた。ウルキは自分が選んだ風船を腕に巻き嬉しそうである。ふわふわと浮いている風船にキャッキャと声を上げて喜んでいる。 「じゃあ、このまま車までいこうぜ。帰るぞ、ウルキ」 風船を買ってもらい、ご機嫌でオーウェンの車まで到着した。車の中でも風船で遊んでいたが、今日は朝からずっと遊んでいたため、眠くなってきたようで走り始めた車の中で、ウルキはすぐに寝てしまった。 「オーウェン上官、ありがとうございました。ウルちゃん、すぐにコテンって寝ちゃいました。ふふふ、楽しかったみたいだから、本当によかった」 「朝からだもんな。途中はどうなるかと思ったけど、ショーも見れてよかったよな」 「本当っ!それですよ。握手会はまだダメだけど、アチュウのダンスのショーは大丈夫だった!嬉しい…明日からまたTV見て楽しんでくれると思うんです」 朝からハイウェイを運転してくれているオーウェンが、帰り道も同じく運転してくれている。タフな人だなといつも思ってたけど、今日改めてまたそう思っていた。 「ロラン?眠かったら寝てていいぞ?王宮まで結構距離あるからさ」 「大丈夫です!上官が寝ないように、私がお話してお付き合いしますからっ!」 「本当に〜?まあ、いいよ、適当でさ。しかし、腹減ったよな。ウルキは途中で食べてたけど、俺ら食べられなかったな」 「ですね。ショーの時間とかもっと調べておけばよかったです。そしたら食べる時間も調整できたのに…すいません」 「あはは、ロランは大食いだもんな〜。実は、すっげぇ腹減ってるんだろ〜」 「自分だってそうでしょ!胃袋セブンティーンなんだからっ!」 オーウェンは、仕事ではかなり上の存在である。ロランの直接の上司はマリカであり、そのマリカより上のオーウェンとは、今までそんなに接点はなかった。 コウの護衛と任命されてから、ランチを共にしたりして、少しずつ話をするようになったとはいえ、プライベートで一日中一緒にいたのは初めてだった。 初めてだったがオーウェンといるのは、とても楽しかった。そう感じたのは、変なところで共通するものがあるからなのかもしれない。 ひとつは大食漢である。二人共、かなり大食いである。以前、コウからもその話を聞いており、実際の王宮キッチンでランチを共にしている。 オーウェンは同じくらい、いや、ロランよりもっと大食漢である。そのオーウェンの食べっぷりは見ていて気持ちがよかった。今日のキッチンでのランチも、ロランと一緒に通常のランチの倍を食べている。周りは呆れていたが、二人はとっても満足し、次はドーナツ食べ放題に行こう!って話も上がっていた。 もうひとつの共通点は、ウルキへの接し方で感じたことだ。ウルキが赤ちゃんでもオーウェンは分け隔てなく接している。赤ちゃんだからダメだよ!とかはない。それはロランも常に考えていたことだった。だから今日、すごく楽しかった。どこに行くのもスムーズだったなぁと感じていた。 だけど、オーウェンの遊び方はワイルドである。ウルキと遊んでると、ちょっとハラハラするくらいなところもあった。でもそれがウルキには新鮮であり、楽しかったようだと感じている。ロランでは真似出来ないところだった。 「オーウェン上官のお子さんは、おいくつなんですか?」 「えっ?俺?独身なのに?子供?」 「えーっ!嘘っ!独身なの?」 驚いた。子供に慣れているからてっきり結婚していて、子供が何人もいるのかと思ってた。独身だったとは…失礼なことを言ってしまった。 「ロラン〜、マジか…ひでぇな、おい」 「す、すいません!いや〜、ウルちゃんがすっごく懐いてたし対応に慣れてるから、お子さんがいっぱいいるのかなぁ〜?って思ってまして…」 「子供は姉の子がいるよ。家が近くだからしょっちゅう遊びに来てる。子供に慣れてるかわかんねぇけど」 「そうなんですねっ!なーんだ。あ〜可笑しい!そっか、独身なんだ。ふふふ」 「なんだよ〜、可笑しいって」 「えーっ、だって可笑しいんだもん!ふふ」 ロランが笑い声を上げてもウルキはぐっすり寝ていた。後部座席で隣のチャイルドシートに座るウルキを見て、ロランはホッとした。ふとバックミラーを見ると、オーウェンと目が合った。ミラー越しのオーウェンも笑っていた。 「さっきスタジアムの支配人が言ってたけどさ、アチュウのイベントまた来月もやるんだってよ。行くか?」 「えーっ!本当に?行きたい!行きたい!ウルちゃん2回目だともっと喜ぶと思う!オーウェン上官、連れて行ってくれる?」 「おう、いいぞ!次は、飯食う時間をちゃんと確認しておかないとな」 「任してください!ちゃーんと、スケジュール作っておきますから。今日のランチも美味しかったですよね。次はまた2つ食べたいですもん!」 「お前も胃袋セブンティーンだな〜」 「セブンティーンは上官だけだってば!」 楽しい。なんて楽しいんだろうと思って喋っていたが、王宮が近くになる頃にはウトウトしてしまった。昨日遅くまでアチュウのイベントを調べていたからかもしれない。疲れが出てきてしまったようだ。 「もうちょいだけど…ロラン寝てろよ?」 「うーん…だい、じょうぶ、です…」 「はは、無理するなって」 オーウェンが運転中寝ないように喋んなきゃって思っているのに、眠くて目が重くなっていく…って、睡魔と戦っていた。 ゆらゆらと身体が揺れているような感覚があった。あったかくて気持ちいいけど、フワフワとしている。さっきまで睡魔と戦ってたのに、どうしたっけ?と考えようとするが、よくわからない。それに目を開けようとしても眠くて開かない。 「あー…どこです?こっち?」と、オーウェンの声が微かに聞こえる。うーん、とロランが言うと近くでまたオーウェンの声が聞こえてきた。 「眠かったよな、もう到着だからな」 「…ウルちゃん…は、」 「ウルキは乳母が連れて行った。もう寝てるよ、心配するな」 ゆらゆらと揺れていた身体が、ふわんと何処かに下ろされた。いつもの自分のベッドのような気もする。 「じゃあな…」 頭をゆっくり撫でられたのかもしれない。オーウェンの声がずっと微かに聞こえていた感じだけど、眠くてよくわからない。 身体を伸ばすと気持ちがいい。 今日は一日すっごく楽しかったな。 明日も同じくらい楽しくなればいいな。

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