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第4話 嫁とは
春斗が物珍し気に辺りを見回していると、小さな男の子が二人、パタパタと駆け寄ってきた。
「「おかえりなさいませ!!」」
綺麗に重なった二人の声は、とても可愛らしかった。
年は七歳くらいだろうか。
「このお方がお嫁さんですね!」
「とても可愛らしいお方!」
くりくりとした瞳を輝かせ、春斗を見つめる二人。
「これ、里緒、菜緒、やめないか。失礼であろう。春斗の夕餉の準備はできているのであろうな?」
「はーい」
「すぐにしまーす!」
「全く、二人ともやんちゃで困ったものだな」
えっと……ちょっと待って。
いろいろと展開が早すぎて春斗の頭はもうパンク寸前だった。
怒涛の展開に言葉を失っていた春斗であったが、とりあえず「嫁」という言葉については確認する必要を強く感じた。
「あの……お嫁さんってどういうことですか?」
「ん? 言ってなかったか? 春斗は私の嫁になるのだぞ?」
え? 嫁? 俺、男だけど。
そもそも七瀬さんは神様なんだよね? 神様の嫁ってどういうこと?
七瀬は、困惑した様子の春斗にすっと近づくと、春斗の腰を引き寄せた。
「春斗は私のことが嫌いか?」
近い、近いっ……!
美しく整った顔があまりにも近く、春斗は上半身を反らせることで、七瀬との距離を取ろうとする。
「い、いや、嫌いとかそういうことではなくて!」
「では、良いではないか。何の問題がある?」
ああ、もう本当に何が起こっているのかわからない。
春斗は、力任せに七瀬の胸を押し返した。
そんな春斗の行動に、七瀬は腕を緩め、開放する。
少し距離ができたことに春斗は安堵の溜息を吐いた。
「まあ、今はその話は良い。ほら、道中疲れたであろう。部屋に入ろう」
いまだに土間にいることを思い出し、七瀬に背を押されて家に上がるよう促された。
「この部屋に荷物を置くと良い。この部屋は春斗の部屋だ。自由に使ってくれ」
囲炉裏のある居間を抜けた奥にある小部屋。
春斗は言われるままに、持っていた鞄をそこに置く。隣は七瀬の部屋らしい。
「……いろいろあって考えることもあるだろう。ここでしばらく休むと良い。夕餉ができたら呼びに来る。横になりたければ布団を敷くが」
「いいえ、このままで大丈夫です」
「そうか。何かあったら気兼ねなく声をかけるんだぞ」
そう言って、七瀬は春斗の頭をふわりと撫でた。
七瀬が部屋から出ていくのを見届け、春斗は深呼吸するように大きな溜息を吐いた。
与えられた部屋の隅に腰を下ろし、膝を抱える。
春斗は、改めてその部屋を見渡す。六畳の和室。片隅には小さな座卓と座布団が置いてあった。春斗一人には十分すぎる広さだった。
春斗は一人になって、ようやく冷静に思考を巡らせる。
今朝、祠に着いて、七瀬と出会った。七瀬はその土地の土地神で、おばあちゃんと自分のことを守っていたと言う。
そして一緒に暮らすことに。それも嫁として迎え入れるつもりらしい。
神様か……
あれ、七瀬さんなんて気軽に呼んでもいいのかな?
アパートの管理会社にも勤務先にも何も告げずに来たけれど、向こうはどうなっているのだろうか。
まあ、アパートには寝に帰っていたようなものだから、大した荷物もないし、その点では、自分的には困ることはないのだが。家賃の引き落としはどうなるのだろうか。
悶々と考えていると、襖がノックされた。
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