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第5話 優しい味
「春斗。夕餉の用意ができたぞ。……こっちに来られるか?」
七瀬の呼び声に、春斗は短く返事をして腰を上げた。
居間に行くと、囲炉裏の周りに食事が並べられていた。
焼き魚に根菜の煮物、みそ汁、白米。「とても健康的な和食」それが第一印象だった。
「あの……な、七瀬様?」
「ははっ、七瀬と気楽に呼んでくれ。その方が私も嬉しい」
結局何と呼べばよいかわからず、神様だし……と無難に様をつけてみたが笑われてしまった。
しかし、神様だという人を呼び捨てにするのも気が引けてしまう。
「じ、じゃあ、やっぱり七瀬さんで……」
ぎこちなくそういうと、七瀬は笑って頷いた。
「まあ、今はそれで良い。ほら、冷めぬうちにいただこう。」
七瀬は食事に向かって手を合わせると、箸を手に取った。
春斗もそれに続くように合掌し、食事を始める。
美味しい。
優しい素材の味、だしの味。心までもが温まるようだった。
「これ、あの子たちが作ったんですか?」
「ああ、あいつらは、里緒、菜緒といって双子の狐だ。私の世話をしてくれている」
「き、きつね? 狐ってあの動物の?」
春斗には可愛らしい人間の子どもにしか見えなかったのだが神様が目の前にいるのだから、人間のような狐がいてもおかしくはないのか……
「それよりも、味はどうだ? 口に合うか?」
「え、あ、はい! とても美味しいです。手作りのものなんて久しぶりに食べました。優しい味がしますね」
春斗がそう言うと、七瀬は嬉しそうにほほ笑む。
その笑顔があまりにも綺麗で、春斗は慌てて視線を逸らした。
食後は、里緒と菜緒がやってきて、食器などを片付けてくれた。
春斗も手伝おうとしたが「お嫁様はゆっくりなさってください!」と断られ、水場の勝手もわからないので大人しくしていることにしたのだった。
「春斗、湯浴みの準備ができたぞ。ついて来てくれ」
案内された場所は、屋敷の裏手。
竹の壁で覆われたそこには、小さめではあるが、旅館で見るような檜の風呂があった。
「疲れたであろう。ゆっくり入ると良い」
そう言って退室する七瀬。
春斗は湯船に肩まで浸かり、大きく息を吐く。
温かい湯が心地いい。
そういえば、ここに来てから七瀬はずっと優しい。強引なことはしないし、春斗を気遣ってくれている。春斗は、ふとそんなことを考えた。
「嫁に迎える」とは言っていたが、今のところ何かそれらしいことはない。
容姿端麗で優しくていい人。
……いや、この場合はいい神様か。それが春斗の七瀬に対する印象だった。
湯から上がると、真新しい浴衣のような着物が置かれていた。
一人で着られるかと焦ったが、春斗の知っている浴衣と異なり、帯が柔らかい布の様なものだったので、見様見真似でなんとか着こなすことができた。
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