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第8話 山菜採りの早朝
翌朝、早くに目覚めた春斗は、冷たい井戸の水で顔を洗う。
秋も色濃くなった季節。水の冷たさがピリリと沁みた。
秋晴れの早朝のひんやりとした空気は、とても気持ちがいい。
「随分と早起きだな」
突然後ろから声を掛けられ、春斗は驚きに肩を揺らす。慌てて振り返ると、寝間着姿の七瀬が立っていた。
「あ、おはようございます」
「うん、おはよう。この時期の水は冷たいだろう? 火に掛けて温めるか?」
「いえ、朝は冷たい水がとても気持ちがいいです。すっきり目が覚めます」
そう答えると、七瀬は「そうか」と言って、自分も顔を洗った。
「今日は山に行くんですよね?」
「ああ、その予定だ。……さては、山に行くのが楽しみで早々に目が覚めたのだな?」
「え、あ……その……はい」
子どものようだと呆れられたかと思ったが、上手い言い訳も思いつかず、素直に頷くしかなかった。
七瀬はそんな春斗を見て、クツクツと笑っている。
無邪気とも言えるその笑顔に、春斗は目を奪われた。
初めて会った時から、綺麗だとは思っていたが、こんなに屈託のない表情もするのか。
綺麗で且つ可愛いなんて……人間世界ではさぞやモテるだろうな。いや、神様の世界でもモテるんじゃないだろうか。
そんなことをぼんやりと考えている間も、七瀬は堪えきれないと笑い続けている。
そんなに笑うようなこと? 大人だって楽しみなものは楽しみなんだ。仕方がないじゃないか。
春斗が口を尖らせていることに気が付いた七瀬は、慌てて春斗を抱きしめた。
「すまん、すまん。春斗があまりにも可愛かったからつい。ほら、機嫌を直して朝餉を食べよう。食べたらさっそく出発だ」
春斗は七瀬に手を引かれ歩き出す。
抱きしめられたり、手を繋がれたり、今朝はやけにスキンシップが多い。
春斗は頬に熱が集まるのを感じたが、不思議と嫌な気分ではなかった。
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