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第12話 介抱2

 今の春斗は、体の痛みよりも充実感を感じていた。 「楽しんでくれてよかった。しかし怪我をしたのは私のせいだ」  悔しそうに奥歯を噛みしめる七瀬。春斗は慌てて頭(かぶり)を振った。 「そんなことありません。完全に俺の不注意です。それに骨も折れてないし、大したことはありません」  安心させるようにそう言ったが、七瀬は納得していないようだった。 「とにかく薬だ。ほら、苦いだろうが飲んでくれ」  七瀬に渡された椀には、濃い茶色の液体が入っていた。椀を少し揺らすと、液体もとろりと揺れる。匂いはあまりしなかった。  春斗は思い切って、その薬を飲み切った。  お世辞にも美味しいとは言えない。はっきり言ってまずい。  春斗が苦々しい表情をしたのを見て、七瀬は僅かに笑った。 「美味しくはないだろう。ほら、口直しだ」  春斗の前に差し出されたのは、小さな和菓子だった。 「これは?」 「里緒が作った菓子だ。甘くて口直しにちょうどいいと思ってもらってきたのだ」  口にしたそれはとても美味しかった。優しい甘さとしっとりとした食感が絶品だった。 「美味しい……」  聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声だったが、七瀬にはしっかりと聞こえたらしい。  七瀬は安心したように微笑んで、持ってきた塗り薬へ手を伸ばした。 「傷にも薬を塗ろう。着物を脱いでくれ」 「えっ……あ、その……」  着物を脱ぐように言われ、春斗は躊躇った。 「どうした?」  不思議そうに首を傾げる七瀬。 「いや、その……恥ずかしいというか……」 「なんだ、さっきの湯浴みも裸だったではないか。恥ずかしがることはない。ほら、背中は自分では塗れぬだろう」  何でもないことのように言われるが、恥ずかしいものは恥ずかしい。  お風呂の時はまだ痛みと動揺で混乱していたからよかったものの、今はもう冷静になっているし、何より部屋が明るい。  しかし、七瀬の言うように、背中に自分で薬を塗るのは難しい。  春斗は覚悟を決めて、着物を脱ぎ、下帯一枚になった。

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