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第13話 介抱3 R15
「やはり背中も傷がついているな。痛かったら言ってくれ」
七瀬はそういうと、軟膏を掌に広げ、春斗の背中に触れる。七瀬の手はひんやりと冷たかった。
「っ……」
思わず息を詰める春斗。七瀬は気遣わしげに声をかける。
「痛むか?」
「い、いいえ。大丈夫です」
「そうか。ではもう少し塗るぞ」
七瀬はゆっくりとした手つきで薬を伸ばしていった。
「こんな綺麗な体に跡を残してはいかんな……」
七瀬は呟くと、殊更丁寧に手を動かす。
春斗は七瀬の手の動きを感じながら思い出していた。
七瀬の色の白い手。指は長く繊細な印象だが、全体は大きく関節は少しゴツゴツとしていて、男性らしさも感じさせる。それが自分の背中を這っているのを想像してしまった。
「んっ……」
ゾワリとした感覚に春斗は身を震わせた。
「大丈夫か?」
春斗は七瀬の言葉に頷くことしかできなかった。口を開ければ、あられもない声が出てしまいそうだったのだ。
それを知ってか知らずか、七瀬の手は尚もゆっくりと春斗の背を這う。
背の中心をなぞられ、春斗は息を詰める。
春斗は自分の下半身に熱が集まるのを感じ焦った。
「あ、あの、もうそのくらいでっ」
「ああ、そうだな。背中はもういいだろう。次は腕だな」
そう言って春斗の前に回ろうとする七瀬に、春斗は慌てて布団を引き上げ頭を振る。
「あとは自分でできます。七瀬さんも湯浴みをしてきてください。七瀬さんもお疲れでしょうから……」
頼む。行ってくれ。いくら下帯を履いているとはいえ、前に回られては、自身が反応してしまっているのがバレてしまう。春斗は祈るように七瀬を見つめた。
「そうか。ではそうさせてもらう。薬はたくさんあるからしっかりと塗るのだぞ」
「ありがとうございます」
七瀬の背を見送り、春斗は大きく息を吐く。
しかし、春斗の下半身は静まりそうになかった。
……向こうにいたころは仕事漬けでそんな気も起らなかった。
その間、ため込んでいたのだから仕方がないといえば仕方がない。生理現象だ。
春斗は込み上げる罪悪感にそう言い訳をして、熱を主張する自身に手を伸ばした。
七瀬に気づかれないように手早く処理をし、残りの薬も塗り終えることができた。
部屋の空気が澱んでいないか気にはなったが、それはどうすることもできないので、気づかれないことを願うほかなかった。
翌日、目が覚めると、春斗の布団に沿うようにもう一枚の布団が敷かれていた。
そこには、横になり頬杖をついて、春斗を見つめる七瀬の姿。
「うわっ、びっくりした……」
「体調はどうだ?」
驚いて飛び起きる春斗を意に介さず、体調をうかがう。
そういえば、体の痛みは引き、体を動かしても違和感さえない。これが神力を込めた薬の効果か。
「はい、大丈夫そうです。……ところでずっとここにいてくださったのですか?」
「ああ、怪我の具合も気になったし、夜中に痛みで目を覚ましたらいかんからな。熱も出てはいないか?」
七瀬は起き上がり、春斗に近づく。
熱はないかと額に手を当てられ、さらに袖を捲り怪我の具合を確かめる。
冷やりとした七瀬の手の感触が心地いい。爽やかな蜜柑ようなの香りが鼻腔を擽った。
ドクンと春斗の心臓が音を立てる。
「うん、もう大丈夫そうだな」
離れていく七瀬の気配に、淋しいと感じる自分に春斗は困惑していた。
「先に行くから、着替えてから朝餉にしよう」
七瀬はそう言って、春斗の頭を一撫ですると、部屋を出て行った。
春斗は、今しがた七瀬が出て行った方を見つめ、自身の頭に手を乗せる。
……俺、どうしちゃったんだろう。
春斗の心臓は、トクントクンとリズムよくと音を立てていた。
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