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第17話 温もり
静かに襖が開けられる音がする。
「春斗。怒っているのか? 怒らせるつもりはなかったんだ。この世界の街は本当に危険なんだ。優しい者ばかりじゃない。悪意や下心をもって春斗に近づいてくる者もいる。春斗は子どもではない。だが、人間だ。妖術なんかにかかったら対処できないだろう? 私は春斗を好いている。大切なんだ。春斗に何かあったら耐えられそうにない。……私こそ弱いのかもしれないな。こんな風に思うのは春斗だけだ」
七瀬の言葉が春斗の中に響く。七瀬は自分の想いを口にしてくれた。言葉にしなければ、互いの気持ちはすれ違うばかりだ。
春斗はそっと布団から這い出て、正座する。
「俺は……七瀬さんの役に立ちたい。守られるだけじゃなくて、少しは頼りになるって思われたい。……だから、少しでもできることを増やしたかったんです」
今更、子どもじみた行動をした自分が恥ずかしくなる。春斗は膝の上でぎゅっと拳を握った。
程なくして、その拳に、七瀬の手が重ねられた。春斗が視線を上げると、七瀬が複雑な表情をして座っていた。
「そうであったか。……ありがとう。でも、私は既に春斗を頼りにしているよ。薬の調合も店番も簡単なことではない。春斗が私の薬を飲みやすく改良してくれたから客も喜んでいるし、店番だって『春斗がいると楽しくおしゃべりができて嬉しい』なんて言う客も多いのだぞ? これは私には到底できぬこと。すばらしいではないか」
春斗は、また流れ出す涙を止められなくなった。
「よく泣くやつだな。……初めて会った日も泣いていたな」
からかうような言葉だが、七瀬の表情はとても柔らかく温かかった。
結局、着物は予定よりも早く帰ってきた里緒と菜緒が取りに行ってくれた。
七瀬に急かされて羽織ってみると、着丈もちょうどよく体に馴染んだ。
七瀬は「可愛い、可愛い」と連呼していた。
可愛いかはよくわからないが、とりあえず似合ってはいるようで安心した春斗だった。
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