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第18話 九重の再訪
そんな出来事から三月程経った八月。
また、九重が訪ねてきた。
「春斗ちゃん、いるかい?」
「はい、ここに。九重様しばらく振りですね。この前のお饅頭はとても美味しかったです。ありがとうございました」
「そうかい。それは良かった。ほら、今日は水羊羹だよ」
九重は持っていた包みを春斗に手渡す。
春斗は喜んで受け取ると、礼を言い、七瀬を呼んだ。
「七瀬さん、九重様から水羊羹を頂きましたよ!」
七瀬は盆に冷茶を乗せ、微笑む。
「これはこれは有難い。今日は暑いからな。お茶でもどうぞ」
「あらあら、七瀬様にお茶を淹れていただけるなんて。恐れ多いこと。あら? このお茶とてもいい香りね」
九重は香りを嗅ぎながら、お茶を不思議そうにみつめた。
「あ、そのお茶はいつもの緑茶に檸檬の葉を煮出したものを加えているんです」
春斗の説明に九重はまた驚く。
「さすが春斗ちゃんねぇ。爽やかな香りでこの暑い季節にはちょうどいいわね」
「ありがとうございます。次はまた違ったものも考えておきますね」
九重は楽し気に頷いた。
「そうそう、来週は土地神祭りよ。春斗ちゃんも行くんでしょう?」
「土地神祭り?」
「あら嫌だ。七瀬様ったら春斗ちゃんに教えてないの?」
九重が言うには、毎年この時期に「土地神祭り」という祭りがあるらしい。
なんでも、神社の本殿を中心に五穀豊穣と土地の安定を土地神様に感謝する祭りらしい。
「土地神っていうことは、七瀬さんのお祭りってことですか?」
「ああ、そうだよ。七瀬様も着飾って祭壇に上がるんだよ」
そんな話、全然知らなかった。
そもそも、こっちの世界の七瀬さんの神社にも行ったことがなければ、そんなものがあることさえも知らなかった。まあ、普通に考えれば神様なのだからお祀りする神社はあるのだろうけれど。
七瀬に視線を向けると、七瀬はなぜか気まずそうにしていた。
「いや……春斗は来なくても……」
言葉を濁す七瀬に九重が口を挟む。
「お祭りの七瀬様は格好いいんだよ! 見なきゃ損するよ!」
九重は「絶対見るべきだ」と力説した。
そんなに格好いいのか……見てみたいな……
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