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第19話 土地神祭り

 その夜、春斗は夕餉を食べながら祭りについて尋ねた。 「どうしてお祭りのことを教えてくれなかったんですか?」 春斗の問いに七瀬は気まずそうに視線を逸らす。 「いや……隠していたわけではないのだが……」 「でも、俺は知りませんでした」 「そうだな。申し訳ない。……ほら、今まで春斗に神の仕事を見せたことが無かっただろう? 祭りのときは私の恰好も違うし、何だか恥ずかしかったのだ」 「七瀬さんでも恥ずかしいとかあるんですね」  神様に対してこんな失礼なことを言うのは春斗ぐらいのものだ。  もちろん、七瀬がそんなことに腹を立てるわけもなく、むしろ心を開いてくれているのだと言って喜んでいた。 「それで、俺はお祭りに行ってもいいんですか?」 「ああ、里緒と菜緒も来るはずだ。私は仕事で一緒にはいられないから、あいつらに案内してもらうといい」  春斗は、祭りに行く許可が下りて、心が浮足立つのを感じた。  本殿での七瀬さんのお目見え行事や、縁日、舞台など祭りの話を聞き、春斗はますます当日が楽しみになった。   あっという間に祭りの当日。 七瀬は朝早くに本殿へ出発した。春斗は、里緒、菜緒と共にゆっくりと支度をして、祭り会場へ向かった。 会場には既に出店が並んでおり、活気に満ち溢れていた。里緒と菜緒も楽しそうにはしゃいでいる。 「春斗様! これ食べてみてください! 美味しいんですよ」  里緒が差し出したのは、りんご飴のようなものだった。しかし、中はりんごではなく小さな橙色の果物だった。 「ありがとう」  それを受け取った春斗は、少しだけ齧ってみる。  甘酸っぱい果物だった。金柑に似ているそれは、こちらではよく食べられるらしい。 「これは黄果(おうか)という果物で、胃の粘膜を保護する効果もあるんですよ」  菜緒が得意げに言う。 「そうなんだね。これを使ってお茶やお菓子を作っても美味しそうだね」 「わあ! ぜひ作ってください!」 「美味しそう!」 里緒も菜緒も瞳を輝かせて飛び跳ねた。 こんなに喜ぶのなら、近いうちに作ってみよう。 春斗はレシピを考えながら微笑んだ。 「そろそろ、時間ですね」  菜緒が言うには、これから神社の本殿で七瀬さんのお目見えとご祈祷が行われるらしい。  三人は本殿に向かって歩き出した。

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