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第20話 土地神祭り2

 本殿は既に大勢の人でごった返していた。 「すごい人だね」 「それはもう、七瀬様がいらっしゃるのですから。皆さん、七瀬様を一目見ようと集まるのですよ」 「春斗様はこちらへ」  菜緒に手を引かれて、本殿会場前方の端の方へ連れられる。  そこには少しだけ開けた空間があった。 「ここならゆっくり見られますよ。七瀬様が春斗様の場所にと確保されていたのです」  人々が込み合う中で、場所を用意されるのは気が引けるのだが、「お嫁様なのですから、当然です!」と二人に押し切られ、春斗は受け入れることにした。 「それにしても、七瀬さんはそんなに人気なの?」 「ええ、もちろんです!! 七瀬様がここの土地神様になってから、ずっと平和な状態が続いているのです。それまでは、天変地異や争いごとも絶えませんでした。だから、ここで今、安心して過ごせるのは七瀬様のご加護なんです」  菜緒の言葉に里緒が大きく頷いて続ける。 「それに、あの美貌! 神々しい美しさですから! 末端の神々や上級の妖なんかも七瀬様に嫁ぎたいと思っているんですよ。まあ、もう七瀬様には春斗様がいらっしゃいますからね!! 七瀬様は春斗様のことが愛おしくて仕方のないご様子ですし。誰の入る隙間もありませんよ!」  そんな話を聞いて、春斗は頬に熱が集まるのを感じた。 「あ、はじまりますよ」  里緒の声に、本殿へと視線を動かした。  本殿の隅に控えていた巫女が笛を鳴らす。甲高く凛とした音色が響き渡った。  ざわざわとしていた会場はしんと静まり返る。  空気の変化に春斗が息を飲んだその時、強い風と共に嗅ぎ慣れた柑橘のような香りが漂った。  現れた七瀬は、普段とは違う衣装を身に纏っていた。  純白の着物に、銀色を基調とした袴、足首ほどまで長さのある淡い水色の羽織り。  壇上の七瀬は、淡い光を纏って輝いて見える。  その堂々とした佇まいは、邪気を跳ね除け、何物も近づけないオーラを放っていた。  これが神様の七瀬なのだと春斗は驚愕し、金縛りにあったかのように身動きすることさえできなかった。 「皆様、頭をお下げください。七瀬様よりご加護をお受けください」  皆が一斉に頭を下げる。  春斗はハッとし、頭を下げつつ、七瀬を見やった。  七瀬が両手を上げると着物の袖がふわりと大きく舞う。同時に清らかな風が吹き抜け、無数の白い花びらが会場を包み込むように舞った。  それは今までに経験したことのないほどに幻想的で、夢を見ているかのようだった。  舞い上がる花びらが落ち着いた頃、神官から頭を上げるよう指示があった。  そこで七瀬は踵を返し、退場した。 「終わりましたね。どうでしたか?」  里緒が春斗に尋ねる。 「うん、格好良かった……」  それだけしか春斗は言うことができなかった。  そんな春斗に二人は笑って頷いていた。 「おそらく、七瀬様のお帰りは深夜になります。どこかで夕餉を食べて帰りましょうか」 「うんうん! そうしましょう! 僕、美味しいところ知ってるよ!」  楽しそうにしている可愛い二人に誘われたら断れるわけもなく、春斗は引っ張られるようにして二人について行くことにした。

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