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第23話 決着
七瀬は言葉も発さず、右手を木蓮に向ける。
七瀬によって操られた風が木蓮の身体に絡みつき、締め上げた。
木蓮は苦痛に表情を歪め、尚も叫び続ける。
ただ、我を失っているのか、もはやその叫びを聞き取ることは困難であった。
木蓮は苦しみに悶え、体が震え始める。
「木蓮よ、苦しいだろう? お前は春斗に同じことをしていたのだ。その苦しみがわかるか」
七瀬の黄金に輝いていた瞳は、いつの間にか赤く変化し始めていた。
……このままでは木蓮の命は消えてしまう。七瀬が木蓮を殺してしまう。……そんなことはさせたくない。
考えるよりも先に体が動いていた。
「七瀬さん!やめてください!!」
春斗は七瀬の正面に回り、七瀬を抱きしめる。
「離せ。奴は春斗を苦しめた。許すわけにはいかん」
「お願いです! 彼女を殺してはいけません! 七瀬さんっ!!」
「あ……ッ」
春斗は七瀬の瞳を覗き込もうと顔を上げた瞬間、七瀬の風が春斗の頬を切り裂いた。春斗の頬に鮮血が一筋流れる。
「春斗っ……!!」
それをきっかけに、七瀬の瞳はいつもの銀色に戻り始める。
風も弱まり、木蓮が床に膝をついた。
「春斗、すまない。痛むか……?」
「大丈夫です」
春斗を抱き寄せた七瀬は、春斗を自分が傷つけてしまったことに動揺してしまっているようだった。春斗はそんな七瀬を宥めるように、七瀬の背に手を回す。
「こんなの茶番だわ!!」
背後でまた木蓮が叫んでいる。
七瀬は「もう大丈夫だ」と春斗の肩を押し、離れさせ、再び木蓮に向き直る。
春斗はその様子を見守るように静かに見つめた。
「木蓮。そなたは重大な過ちを犯した。神でありながら己の私利私欲に溺れ、人間を傷つけた。その罪は神としてあるまじきこと。改心せよ」
七瀬が木蓮に手を翳す。すると、木蓮の額から黄金に輝く球のようなものが現れた。その球はふわりと浮き上がり、七瀬の掲げる手の動きに合わせ、上空へ上がっていき、遂には霧のようになり消えていった。
「うわぁぁぁぁ!!」
木蓮は両手で顔を覆い叫んだ。
「……帰ろう」
春斗は七瀬に抱えあげられ、荒ら屋を出た。
後から聞いた話だが、あの黄金の球は神核といって、神力の源のようなものらしい。七瀬は木蓮の神核を取り出し、いわゆる普通の人間と同じ状態にしたのだそうだ。
神が赤い瞳に染まったとき、それは闇に堕ちた証だという。染まり切ってしまえば邪神となり、不幸をもたらす。邪神にならないように神核を消し去ったというわけだった。
七瀬に抱えあげられて帰るのは二度目だな……そう七瀬の腕の中で思ったのを最後に春斗は意識を手放した。
「春斗? おい、しっかりしろ」
七瀬の声は春斗に届くことはなかった。
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