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第25話 目覚め

 翌日。  赤かった痣は黒く変化していた。 「……やはり邪気を受けていたか」  春斗を苦しめていたのは締め付けた蔦だけではなかった。黒く変色する傷跡は邪気を含んでいることを意味する。  春斗を襲った木蓮は、怒りと嫉妬に我を失い、邪神と化していた。その影響を受けたのだろう。  その邪気を祓うには、強い神力が必要だった。幸い七瀬には、それを祓うだけの力があった。 「春斗、少々辛いだろうが耐えてくれ」  七瀬は春斗の額に右手を重ねる。深く深呼吸し目を伏せ集中した。七瀬の体内で熱い神気が動き出すのを感じ、それを掌から春斗の額へと送り込む。 「うぅ……」  意識のない春斗が苦悶の表情を浮かべ、小さく呻いた。 「苦しいな。すまない。耐えてくれ」  もともと神力のない者へ力を送り込む。これは体が異常を感知し、体に馴染むまでは相当の苦痛を伴う。もし、相性が合わなければ拒絶反応を起こし、命に係わることさえもあるのだ。  しかし、邪気に侵されたままでは命はない。七瀬に選択の余地はなかった。  七瀬は額から汗が流れ落ちるのにも構わず、集中する。力を送る方にも相当の負荷がかかるのだ。  どのくらい経っただろうか。  七瀬は春斗から手を放し、呼吸を整えた。春斗は相変わらず短く荒い呼吸を繰り返していたが、顔色は多少良くなったように見える。 「これでひと先ずは大丈夫だろう」  七瀬は、ようやく額の汗を拭った。  春斗が目覚めたのは翌日夕刻前のことだった。  ぼんやりと天井が見える。視線を動かすと段々と視界がはっきりとしてきた。隣には七瀬が座ったまま瞳を閉じていた。  ……眠ってるのかな……  ああ、そうか、俺は木蓮という女性に捕まって……七瀬さんが助けに来てくれたんだ。  徐々に思考も回復し、春斗は自分の身に起こったことを思い出していく。 「……(七瀬さん)」  そう呼びかけようとしたが、上手く声が出なかった。  だが、七瀬は春斗の動く気配に気づき、ハッと顔を上げた。 「春斗!!」  七瀬は思わず春斗を抱きしめた。  急に抱き起されたことで、春斗は眩暈を感じたが、同時に七瀬の温もりに安心して体を預けた。 「ああ、すまない。まだ辛いだろう」  七瀬は我に返って、再び春斗の体を横たえた。 「痛いところはあるか?」  春斗は七瀬の問いに、横になったまま、手足をゆっくりと動かしてみる。  多少の違和感はあるものの、我慢できない痛みはなかった。 「(大丈夫です)」  やはり声が出ず、春斗は首を振って答えた。 「声が出ないのか」  七瀬は、そっと春斗の喉に触れる。 「気の流れは感じられる。しばらく眠っていたのと、精神的なものが原因だろう。大丈夫、すぐに回復するだろう」  七瀬は横たわる春斗の頭を、安心させるように優しく撫でた。

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