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第26話 暖かい神力
その時、パタパタと走る音が近づき、勢いよく襖が開けられた。
「「春斗様!!」」
里緒と菜緒だった。
七瀬は呆れるように溜息を吐いた。
「こらこら、春斗は今目覚めたばかりだ。騒々しい」
「……申し訳ありません」
「七瀬様の声が聞こえたので思わず……」
春斗は二人に向かって笑いかけた。
「春斗はまだ声が出ないようだ。安静の必要がある。そうだ、湯は沸いているか?」
「はい! 湯浴みの準備は整っております」
「そうか。では、もう少ししたら湯浴みに行く。春斗の分も夕餉の支度を」
「承知しました!」
里緒と菜緒は深々とお辞儀をして踵を返した。
「里緒も菜緒もお前に話があるのだろう。落ち着いたら聞いてやってくれ」
春斗は笑って頷いた。
意識を失っている間、体を拭く程度だったので湯船に浸かりたい。
湯浴みを勧められたのはとてもありがたかった。
しかし、ゆっくりと立ち上がったつもりだったが、体がふらついてしまう。
「おっと、……大丈夫か? 抱えようか?」
春斗は首を振ってそれを断り、七瀬に支えられながら風呂場へと向かった。
「背中を流そう」
春斗は気恥ずかしかったが、体は思うように動かず、有難く受け入れることにした。
下帯一枚になった七瀬に髪と背中を洗ってもらう。前も洗ってくれると言ったが、それは流石に羞恥心が勝り頑なに断った。
久しぶりに浸かった湯船は、温かいお湯が全身に沁み込むようでとても心地よかった。体を沈めるように首まで浸かるとほっと息を吐く。
七瀬は、下帯が濡れることも構わず、浴槽の淵に腰掛け、足だけを湯船につけていた。
「私も一緒に入ればよかったな。気持ちがよさそうだ。次は一緒に入っても構わないか?」
小首をかしげる様は、いつもの七瀬と違い、何だか可愛かった。
……神様に可愛いなんて失礼だろうか。
春斗は、小さく頷いて答えた。
「春斗、おいで」
七瀬の手招きに、春斗は湯船に浸かったまま七瀬の足元に移動する。
「ちょっと首を触るぞ」
七瀬は春斗の喉元に右手を添えると目を閉じた。
途端に、春斗は喉元がじんわりと温かくなるのを感じた。優しい温かさだった。
「体が温まっているときは神力が通いやすい。ゆっくり声を出してみて」
「……あ……」
「ほら、声が出た」
春斗は驚いたように目を見開く。
「春斗が寝ている間に、邪気を祓うため私の力を与えたのだ。神力を初めて入れるときは苦痛を伴うが、一度馴染んだ神力は次からは簡単に身体が受け入れる。痛くはなかっただろう?」
「……はい。あの、ありがとうございます」
春斗は説明されてもよく理解できずにいたが、とにかく、七瀬が自分のために力を使ってくれたということだけはわかった。
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