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第28話 告白
その夜、春斗は布団の中でごろりと寝返りを打つ。
……七瀬さんは何を思って俺に口づけをしたのだろう。
俺はなぜそれを受け入れたのだろう。
七瀬の想いはおろか、自分の感情すらわからない……
春斗は口元まで布団を引き上げると、考えを断ち切るように固く目を瞑った。
翌朝、朝餉に現れた春斗は、僅かに目に隈を作っていた。
里緒と菜緒は外で野菜を洗っている。
「春斗、眠れなかったのか?」
「あ、ちょっと考え事をしていて……」
「もしかして、昨日の私の行動のせいだろうか」
七瀬に図星を突かれ、春斗は赤面するのを抑えられなかった。
「すまない。嫌だっただろう」
七瀬が申し訳なさそうにするのを見て、春斗は慌てて頭(かぶり)を振った。
「ち、違うんです! あの、嫌とかではなくて……驚いたというか……」
「嫌ではなかったのか?」
珍しく不安げな表情を浮かべる七瀬に、春斗は慌てて頷く。
「嫌ではなかったです。むしろ……」
「むしろ?」
そこで土間の方から賑やかな声が聞こえ始めた。
「……場所を変えて話そう」
二人は朝餉を済ませ、外に出た。
春斗は七瀬に続いて歩く。
着いたのは小高い丘の上だった。
丘の上には二人で並んで座るのに丁度いい岩があった。側には見たこともないくらいに大きな桜の木。
「ここは私のお気に入りの場所なのだ。今は葉桜だが、春には満開の桜が咲く。そして優美に散っていくのだ」
「素敵な場所ですね」
「ああ、誰にも教えたことはない。春斗、お前だけだ」
春斗が桜の木から視線を外し、七瀬に向き直ると、七瀬の真剣な視線とぶつかった。
その熱量に春斗は息を飲んだ。
七瀬は岩に腰掛け、隣に座るよう、春斗を促す。
「春斗、お前は私の嫁として突然連れてこられた。言わば成り行きと言っても過言ではない。危険なことも何度もあった。それに……私は春斗を幼い頃から見ていて好意を抱いていた。しかし、春斗は違う。あの祠で、私が姿を見せた時が春斗にとっての私との出会いだろう。春斗は私のことをどう思っている? 私は、春斗を愛している。昨日、口づけをして、胸が高まり心が満たされるのを感じた。これは長い年月生きてきて初めてなんだ。……正直に言おう。口づけをして、春斗がもっと欲しいと思った。心も体も深く繋がりたいと思ったのだ」
そこまで言って、七瀬は言葉を切った。
俯いている春斗の表情は見えない。何かを決意したかのように、春斗の拳が膝の上でぎゅっと握られる。
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