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第30話 祝い
屋敷に帰ると、里緒と菜緒が目を丸くしてこちらを見ている。そうして二人は目を合わせると、嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「「七瀬様! 春斗様! おめでとうございます!!」」
「え? 何がどうしたの?」
相変わらず息の合う二人に向かって、春斗は首を傾げた。七瀬はどこか満足そうに微笑んでいる。
「お二人のお心が通じ合ったのですね!」
「今日はお赤飯にしましょう!!」
二人で大騒ぎしているが、春斗には何のことかさっぱりわからなかった。
「あの……どういうこと?」
首を傾げたままの春斗に、里緒が興奮気味に言う。
「お二人のオーラが同じ色になったのですよ! これは、お二人の想いが通じ合ったということ! 素晴らしいことです!!」
そういえば、前にこの二人は他人のオーラを見ることができるという話を聞いた気がする。
確か、相性がいいと並んだ時に隣り合ったオーラが綺麗に混じりあう? だったっけ? 春斗は初めてここに来た頃の会話を思い出していた。
二人は、小豆だ、赤飯だと騒いでいる。
「春斗、今日の夕餉はきっと豪華だぞ」
七瀬は、そう言って笑った。
無邪気に笑うその姿をきっと街の人たちは見たことが無いのだろうな……春斗はそう思うと、それが自分だけに与えられた特権のようで、何だか嬉しく感じた。
その日の夕餉は、七瀬の言った通り、今までで一番豪華だった。
赤飯、鯛の塩焼き、二枚貝のお吸い物、鶏肉と根菜、茸の煮物、沢庵、白玉と小豆餡、そして最近春斗が調合した薬草茶。
この薬草茶は、自他共に認める逸品。
以前九重に出した緑茶と檸檬の葉のお茶に、少量の乾燥させた黄果の実を加えたもので、シンプルだが、どんな料理にも合うし、さっぱりしていてお茶の時間にもぴったりだった。
「すごい……」
春斗が呆気に取られていると、里緒と菜緒が満足そうに言った。
「お二人の記念の日ですからね!」
「腕に縒りをかけました!」
褒めて! と言わんばかりに胸を張る二人に、七瀬と春斗はクスクスと笑う。
「二人ともありがとう。なんだか気恥ずかしいね」
春斗がはにかむと、七瀬も頷いた。
「立派な夕餉だな。二人ともご苦労であった。お前たちも一緒に食べると良い」
とても賑やかで楽しい夕餉だった。
こんな時間がずっと続いてほしい。春斗はそう願わずにはいられなかった。
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