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第35話 翌朝

 翌朝、目覚めると目の前には銀色の美しい髪。さらりとしているそれは流れる絹糸のようだと思った。  春斗は吸い寄せられるように七瀬の髪に触れる。  見た目と同じさらりとした手触り。自分のとは比べられないほど柔らかかった。  サラサラと何度も指を通す。ずっと触っていたかった。 「……そろそろいいか?」 「うわっ、お、起きてたんですか?」 「いや、今しがたな」  七瀬が寝返りをうち、向かい合わせになった。  春斗は気恥ずかしさに視線を逸らすと、七瀬の両手に頬を包み込まれる。  優しい口づけが落ちてきて春斗は赤面した。 「前に私の髪を触ってみたいと言っていたな」 「ええ、夢が叶いました」 「そんなこといつでもできるだろう。ほら、お前ならいつだって触って構わないのだぞ?」  そう言われ、春斗はもう一度毛先に触れる。 「綺麗ですね」 「そうか? 私は春斗の茶色い髪が好きだし、春斗の頭を撫でる方が好きだがな」  七瀬は春斗の頭をクシャクシャと撫でる。  気持ちよさそうに目を細める春斗に、七瀬は声を立てて笑った。 「まるで仔犬のようだな」 クスクスと笑いの止まらない七瀬に、春斗は頬を膨らませる。 「どうせ俺は子どもっぽいですよ」 「いやいや、そんなことはないぞ? 子どもは閨事であんなに色っぽい声は出さないだろう?」 「ちょっ!!」  ニヤリと意地の悪い笑顔を向ける七瀬。春斗は枕を七瀬に投げつける。  そして、二人の視線が重なり、吹き出すように声を立てて笑った。  それから数か月が経った。  空は青く、薄い雲が伸びている。縁側から見る庭では、ススキが揺れ、紅葉が色づいていた。時折爽やかな風が吹き、ひらひらと木の葉を落とす。  ここに来てちょうど一年が経った。  春斗は縁側に腰掛け、ぼうっとしていた。 「おやおや、元気がないわね」  突然目の前に現れた人影に春斗は驚いた。

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