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第4話
襟首を持ち上げられたΩの弱い呻き声に、駆け付けた秀一の緊迫した声がかぶさる。秀一の片腕が、締め上げる男の手に伸びて大柄な男を制した。
強烈な高圧的フェロモンにあてられたら、βでも動けなくなるという。呆然とする晴也を庇うように、秀一は締め上げる男と向き合った。目と鼻先で対峙した、男の鋭い眼光が飛んだ。
「ンだ、てめぇ……ッ」
「お客様。店内でこういった騒ぎはおやめください。ここはαやΩだけでなく、βの方もご利用なさいます。ごく一般的な喫茶店で、むやみにフェロモンをばらまかないでいただきたい。ここは痴話げんかをする場所ではなく、食事を楽しむ場所でございますよ」
言いながら、握力をあげる秀一の手が男の手首を震えさせる。徐々に力を強める秀一からは、目の前の男を凌駕するほどのフェロモンが放たれていた。濃厚で濃密な。力の塊のようなものが。
「て、てめ……、アル、ファ、……っ」
アルファでもランクが違う。ケタ違いだ。対する男が弱いのではない。秀一が強いのだ。目の前の男は力の差を見せつけられただろう。
天上にある大気中の粒子が急速に密集し、重たい渦を一身にかぶせられたような圧迫感だ。Ωを締め付けた男の手から力が抜け、大柄な身が大量の汗をかいて屈した。
前かがみになって呼吸を荒くした男を、秀一が冷たく見下ろす。無理やりフェロモンで抑えつけられ、へばった男と、解放されて腰を抜かしたΩ。
これだからαだのΩだのはくだらないのだ。とにかく今は、晴也が先だ。秀一はすぐさま背後を振り返った。
「晴也さん。怪我はない? 熱いコーヒーかぶっただろ、火傷は?」
「へ……っ、あ、の、大、丈夫……」
「大丈夫なわけないだろ!」
久しぶりにフェロモンを解放したからか、それとも先ほどの闘争心がまだくすぶっていたのか。すさんだ調子で大声をあげてしまった。目の前の晴也は放たれた荒い声にびくりと身を揺らす。しまった、怖がらせてしまった。
秀一は気を落ち着かせ、細い息を吐きだした。
「怒鳴ってごめん。晴也さんに怒ったんじゃないんだ。その、心配で。わかってないかもしんないけど、コーヒーがかかったとこ、少し赤くなってるんだ。来て、いったん冷やそう」
服も染みになるから。そう言って、秀一は散らばったカップの後片付けを頼もうと、傍で右往左往するスタッフに目線をやった。
「ゆう、悪い。ここの割れたコップ片付けといて。それからそこでへばってる、αとΩの二人だが。店の外につまみ出せ。晴也さんはこっちへ」
「わ、ま、待って……」
晴也の細い手首を掴み、引っ張ると、思った以上に軽い身体が飛んできた。困惑した晴也の、小さな抵抗の声が聞こえたけれど、秀一は聞こえないふりをした。
「や、やだ……」
「晴也さん、なんでそんなに脱ぐの嫌がるんですか? 男同士だし、晴也さんはβだから、俺と一緒にいても間違いなんて起きないですよ?」
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