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第5話
フェロモンがあるαとΩなら発情を誘発してしまう。αが発情してラット状態になれば、自分でも制御できない。そうなったら人生を台無しにする。意に添わぬ番契約をしてしまうかもしれない。
とくにΩは、一生αから離れられないから悲惨だ。αにしても、フェロモンコントロールもできない無責任なαのレッテルを張られるだろう。
その点、βならヒートはない。フェロモンがない晴也の裸を見ても発情はしないだろう。欲情はするだろうが。今回の一件で、秀一が上級のαだと知れ渡ってしまった。
あれだけ客がいたのだ。しばらくは噂の的にされる。今後、秀一目当てにやってくるΩが、増えるかもしれないと思うと憂鬱だ。ならば、せっかくのチャンスである。晴也の裸だけでも拝もうか。
もちろん心配もしている。しかし見る限り、赤くなった晴也の皮膚はもとの白さを取り戻している。この分だとそれほど心配しなくてもよさそうだ。ついでに言えば、ここは緊急時に寝泊まりするシャワールームだ。
突然Ωがヒートになったり、αがラットを起こしたりするときに使う。バース性医療チームと、連絡が取れる間だけに使用するが、念を入れて抑制剤や新しい服も常備している。緊急ではない限りスタッフも使用しない。心置きなく、裸の付き合いをしても、邪魔はされないということ。
「ちが、お前がαだから、とか、そういんじゃなくて……」
「ならなんなんです? とりあえず、その汚れたシャツだけでも脱いでくださいよ。早く洗濯しないと……」
「だ、だめ……っ」
大きめのトレーナーは先に脱がせた。残すはチェックのシャツだけだ。脱衣所の隅まで晴也を追いやり、上のシャツを脱がそうとする。すると思ってないほど強い力で抵抗され、シャツのボタンがはじけ飛んだ。
「あっ」
晴也の悲鳴があがり、薄い胸元が露わになる。力があり余っているとはいえ、強引すぎたか。どんと壁に押しつけた体勢になってしまった。秀一は謝ろうと、縮こまった晴也を見た。しかし、謝罪に開けた唇は、次の言葉を発せなかった。
いや。正確には、ちらりとはだけた晴也の乳首……もっと突っこむなら、右乳首の上にあるものに、秀一の視線が釘付けになったのだ。
「それ、なに……?」
「うっ……、だ、だからやだって言った……っ!」
晴也は青白い顔を真っ赤にして、両腕で目元を覆う。もっとも隠したいだろう乳首は当然ながら隠れておらず丸見えだ。おかげで秀一は、晴也の可憐な右乳首にあるものをまじまじと覗けた。中途半端にはだけたシャツの襟首を、長い指先でくぃと引っ張る。
「やぁ…っ…」
「え。これって……入れ墨? いや違うな……人の名前か? まさかこれって……晴也さん…ひょっとして、ネームバース保持者!?」
合点がいった。頑なに服を脱ぎたくなかった理由に。バース性が存在する世の中で、かつてオメガ性が定着した前のさらに前の、遠い昔の話。
動物しかり、人間しかり。生命体とは不思議なもので。巷に流れるまことしやかな噂話だった。この世の七不思議、と言っても過言ではないだろう。
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