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第6話※
人口がまだまだ潤っていた当時。繁殖に特化したオメガ性はまだ出現していなかった。かわりにあり余る人口のなかから、たったひとりの運命の相手を探すため、身体の一部に人の名前が浮かび上がっていたという。まるで刻印のように。
今は衰退したかつてのバース性、ネームバースだった。第二次性徴を迎えた人々は、身体に刻まれた名前が運命の相手であったのだと。
それが時代とともにオメガ性に成り変わり、今ではネームバースを持つものは極めてまれである。人口とともに退化したネームバース保持者は非常に珍しいものとされ、よその国では人買いにあったり、金持ちの愛人にされたりすることもあると聞いた。
もし、本当にネームバース保持者が存在すれば、の話だが。などという噂話を、秀一もおもしろ可笑しく、学生時代に話していた記憶がある。
しかし物珍しさよりも、何よりも。晴也の隠れバース性は、秀一の心をささくれ立たせた。
「なんかむかつく……。なにこれ。KOJI MUTOU? 『むとうこうじ』だって? つまり、この野郎が晴也さんの運命ってわけかよ」
そこに刻まれた文字が、なぜ『日高秀一』ではないのか。しかも、白い肌に、ピンクの乳首の真上に陣取りやがる。晴也の薄い乳輪を囲うように、名前が半円を描くなんて。
秀一がαで晴也がβなら、Ω性を持たない晴也は、秀一の運命の相手ではないとわかっている。けれど、秀一に運命の番がいるように、晴也にも運命の刻印がいたとは思いもしなかった。
「脱げよ、晴也さん。俺が全部洗ってやる」
「う」
晴也の身体の隅々まで。秀一がこの手で綺麗に洗い流して、上書きして。運命の刻印が、晴也の肌から消え去るならよかったのに。
ここまで、するつもりなんてなかった。晴也に刻まれた隠れネームを見たら、秀一の独占欲が止まらなかった。
晴也を全裸に剥き、シャワールームに押しこんで。濡れた服が気持ち悪いと言い訳して、今は秀一も素っ裸だ。
「やぅ……っ」
「晴也さん、ね。このまま、続けてもいい……?」
「や…だ……、め…、だよ…っ」
晴也は性行為に慣れていないのだろうか。秀一が晴也の、滑らかな肌を撫でるたびに、びくびくと全身を震わせる。フェロモンの匂いは感じられないが、晴也からはいつも秀一が淹れるコーヒーの香りがするよう。
シャワールームの壁に、震える細い裸体を押しつけて、やんわり乳首を弄ってやる。晴也の可愛らしいピンク色は、秀一の手でチェリーみたいな赤色に変化した。
つんと尖る先っぽを摘まんでやれば、ダイレクトに感じるんだろう。小さな喘ぎ声が響き、晴也が身をかがませる。秀一の厚い胸元に顔をうずめ、自らの白い裸体を押しつける格好になった。細い晴也の首筋が、秀一の目線の下で真っ赤に染まる。艶やかな、色気がにじんだ。
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