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第13話

   心地よく過ごす晴也の居場所を奪い、なおかつ見当違いの嫉妬をぶつけられたら。SNSのコメントには、晴也の第二性であるバース性や、名前や年齢といった存在を暴こうとする内容もあった。  動画を目の前にしたとたん、秀一の思考回路が急速に情報網を張り巡らせる。画面を一点に見る、秀一の眼光が鋭く尖った。間違っても晴也には見せられない表情だ。 「畜生……」 「なに。厄介だからと、君をお払い箱にするつもりはない。一週間……いや、二週間もあれば、私がこの動画を世の中から消し去ってやろう。君は、私の店に必要だからな」  もっとこき使って、出勤停止で休んだぶん働いてもらわないと困る。目元のしわを深めてオーナーが言った。悔しさに唇を噛んだ、秀一の広い肩をぽんと叩かれた。  オーナーはαだ。秀一とは違い、αであることを誇りにして社会的地位を築く。秀一は、初めて、自分の甘えと無力さに打ちひしがれたのかもしれない。 「俺が…ご迷惑……おかけします。ありがとう、ございます」  たかがバイトに労りをもつ紳士なオーナーに、頭を垂れて、礼を返すことしかできなかった。  自分の無能さをこれほど感じたことはない。学生時代はいつも生徒会に入っていたし、行事のイベントでは何かしらの重役についた。  なんでもそつなくこなし、教員生徒問わず、誰にでも頼りにされた。それがいざ社会に出て、なんてザマだ。  バイト先から帰宅して何をする気もわかず、ぐったりとソファーに身を投げ出した。  ここまで事態が大きくなるとは。秀一の考えが足りなかった。来店するΩが増えるだけだと高をくくって、周りの動きに無頓着すぎたのだ。  晴也と触れ合うのが嬉しくて、幸せで。セックスを覚えたての、思春期のように夢中になって、それだけだ。  晴也を大切にしたいと思う。その心に偽りはない。実際、乱暴に扱ったことはないし、むしろ晴也を壊さないよう、綿あめみたいに、甘くふんわり扱っている。  なのに、肝心な晴也自身を守れずに、自分は何をしていたのか。情けないことこの上ない。  ここまで世間に広まってしまったら、力を持たない秀一ではどうにもできない。ソファーに項垂れたまま、携帯をぐっと握り締めた。  検索履歴から父の名を表示する。家柄には頼りたくはなかったが、全国のSNSで拡散されてはどうしようもなかった。  事が大きくなればなるほど、すでに、実家は状況を察知しているのだろう。だが動きがないところを考えれば、秀一自身から、コンタクトをとるのを待っているのだ。  気を重くして、父親への発信ボタンを押した。予想通りか。間もなく電話に出た父は、通話口で呆れた声を出した。 『ようやくか。まさかここまで、事態が大きくなってから連絡をよこすとは』 「父さん……ごめん」 『まったくお前は。いつまでそうやって、ふらふらするつもりだ? 騒動を起こして自分の尻ぬぐいもできんとは。甘やかしすぎたか』

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