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第14話
厳格な雰囲気は相変わらず。父の信彦 はαのなかのαだ。日高家が経営するホテル事業を拡大し、さらには不動産業、芸能スポンサーまで手を伸ばす。
家業をあっという間に栄えさせた凄腕だ。今では日高グループは、大手三大企業にまで上り詰めた。
三男である秀一も、とうぜん経営学を学ぶ。しかしバース性に縛られず人生を謳歌したいと、実家を抜け出して、今ではこのありさまだ。
『それで? 私にどうして欲しい』
「オーナーが……今回の事態を収拾してくれるらしい。けど、さすがに頼りっぱなしはできないから。早く混乱をなくしたいし、できたら、力をかして欲しい」
声を落とし、恥を忍んで伝える。間を置かず、携帯を持つ耳元で喉をならす音がした。あざ笑う、低い音が。
『頼りっぱなしはできない? どの口が言っている。藤崎 オーナーを助けるために私を頼るのか。借りだらけだな、お前は』
「わかってるよ」
自分が、情けないことは。だがネットの収束は速さが肝だ。一週間二週間どころか、一日二日たてばあっという間に散りぢりになって発信される。
動画を見るひとりひとりが、興味を持ったらなおさらだ。それぞれがコメントという疑惑の矢を放てば始末に負えない。
大勢の人波に呑みこまれ、高い波が押し寄せて、天地さえもひっくり返す勢いになるだろう。
誠が嘘になり、嘘が誠になり。荒波はすべての情報をぐちゃぐちゃにひっくり返し、掻き混ぜて、嘘と誠を逆転させる力となる。
何が真実で偽りか。掻き乱された観衆は、興味が興味を呼び荒れ狂う。
そうなれば最悪、秀一も晴也も店そのものも巻きこまれ、ただでは済まなくなってしまう。目に見えない巨大なモンスターだ。素早く的確に、全力で。向かい来る大津波を一刀両断しなければ。
わかっていても力がない。今回のことで秀一も思い悩んだ。このままのらりくらりとして、誰かに守られてばかりでいいのかと。
歯がゆさを覚え苛々と息を吐きだす。乱れた前髪を、乱雑にかき上げた。秀一のもどかしさが伝わったのだろう。電話の向こうで、やれやれと低い声が響いた。
『これが、大口を叩いて行きつくところだ。この世は金と権力だ。お前にはその力があるのに斜にかかって何もしようとしない。お前がどれほど第二の性を否定しようと、αに生まれついたのはお前の性 だ。αは嫌だ、βがいい? ではΩだったらどうする。αに生まれたかったと泣き叫ぶか。ないものねだりはやめろ。結果、何一つ力を持てず、己の身すら守れないとは……無様だな』
無様。その一言は秀一の胸を容赦なく抉るよう。言われなくともわかっている。いや思い知った。大事なものがあるなら、それを守りとおせるだけの力が必要だったということを。
晴也を可愛いと思うし好きだと思う。本心だ。晴也だけいてくれたらそれでいいと。だが愛だけではどうにもならない。情だけで生きていけるのは、誰かに庇護される子どもの専売特許だ。大人は愛に責任が伴う。
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