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第15話
バース性のこだわりも、プライドもかなぐり捨てて、己で守れる力をつける。それが成長するということなのかと、秀一の気が沈む。ゆえに、頂点に立つ有利なα性が羨望されるのかもしれない。
『他人より、能力が秀でた己の上にあぐらをかいて、粋がっているだけの小僧だな。今のお前は』
いい加減に大人になれ、と。そう言われたのも同然で、耳が痛い。
『よく聞け。無力なお前に必要なのは、失えないものを守りとおす力だ。他人に頼らずともな。力を手に入れるのは簡単だろう? 自分が上位のαだったということを、自覚すればいいだけだ』
自覚して、αである自分と向き合え。そうすれば頂点に立てるのだ。奪われたくないものを、自分で守り抜くために。
父と通話を切って気持ちを切り替えるように、今度は晴也に繋がるボタンを押した。顔を合わせるときはおかしな様子はなかったけれど。
改めて、晴也の身辺に問題が起こってないかの確認と、晴也の穏やかな声で……落ちこむ心を癒されたいのと。
『はい。日高さん?』
「忙しいのに電話してごめん。今時間大丈夫?」
『うん、大丈夫だけど……どうしたの』
IT企業に勤め、晴也は事務職をしているという。データ入力や文書の作成、取引先の情報の管理。重要な業務の仕事をこなすなんてすごい、と秀一が褒めたら、晴也はきょときょとと、挙動不審になって照れていた。
頑張る晴也の邪魔はできないと思うけれど、なんとなく今は、晴也に甘えたい。二言三言、言葉を交わし、元気をもらったら電話を切ろうとした。
しかし秀一が終話ボタンを押そうとしたとき、電話の向こうから、微かに息をのむ声が聞こえた。
小さな晴也の悲鳴を聞き逃さなかった、秀一の眉根が寄った。
「どうかした?」
『ううん、なんでもないよ。ちょっと、人とぶつかって……』
たいしたことないと晴也は言う。聞けば、最近、人とぶつかったり物をなくしたりすることが増えたらしい。
至って普通の、なんでもない口調だ。けれど、状況を聞けば聞くほど秀一の顔つきが険しくなった。
「そういうの、前からあったの?」
『うん、たまに。でも最近は、ちょっと多い、かな?』
「ねぇそれ、もしかして」
『うん。あの…、ほら、やっぱ俺って、なんかトロい、から……』
「………。…………」
いや違うから。それ嫌がらせをされてるんだよ、とは言えない。百歩譲って、いくら晴也がトロいと言っても、さすがに立て続けに物がなくなったりはしないだろう。
周りを十分に警戒するように。と伝えたかったけれど、ピュアピュアな晴也がショックを受けたら秀一としても大ショックだ。
晴也に変わったことはないと思った。しかし、まさかの、本人が気づいてなかったパターンだとは。しかしそんな鈍感なところも、晴也の可愛さではあるのだが。
もちろん最近の晴也の出来事と、秀一の騒ぎが関連しているかは不確定だ。だが動画を見れば晴也に気づく人もいたはず。βにもぐり隠れた陰湿Ω、と言う奴もいたし。
SNSの逆恨みの行為だと捉えるのが自然だ。が、真相はさておき。今は、晴也のガードを固めるほうが良いか。
「ねぇ晴也さん。提案があるんですけど。もしよかったら、しばらく、晴也さん俺と一緒に暮らさない?」
『ッぴぇっ?』
あ。しまった。唐突すぎた。もう少し慎重に、順を追って煮詰めていきたかったのに。感情が先に口をついた。晴也の素っ頓狂な声が響く。にしても、「っぴ」って何。「っぴ」って。
知らず、険しくなった秀一の口元がほんわりと緩んだ。そういうところなんだよ。
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