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第40話

「俺に洗われるのが、そんな恥ずかしいなら……そうだなぁ。晴也さんはもう少し、体力つけてくださいね。あと体重も増やさないと」 「いっぱい、食べてるし……」 「じゃあもっと食べて。ここにいたら俺が、うんと美味(うま)いもの作ってあげますよ」  常にセーブはしているが、晴也を抱くたびに抱き潰してしまいそう。もともと体力がないのか、晴也は毎回疲れ果てて、気絶するように動かなくなるから心配になる。  晴也が一緒に暮らしてくれれば、おいしいものを毎日食べさせてあげるのに。なんなら晴也は動かなくていい。秀一自ら、晴也の口まで食事を運び……とろとろに。  思考が脱線し、いかがわしい妄想を振り切る。秀一は風呂上がりに用意した、救急箱を手にした。撃沈する晴也の真横に座りなおす。 「ほら……、顔上げてください。傷の手当てしないと」  転んでできたのは擦り傷だが範囲が広い。ひどくはないけれど、可愛い顔に傷痕が残ったら大変だ。テーブルに伏せる晴也の後ろ髪を、さらりと撫でて合図する。  秀一の手に促され、顔を上げた細い顎を指先で掴んで固定した。病院で処方された軟膏を塗り、大きめの絆創膏を当てる。 「ぁ……っ」 「痛みますか?」  顎先を掴まれたまま、目を細めた晴也へ向かい合わせで尋ねる。晴也は小さく首を振った。 「ううん。ありがとう」 「どういたしまして」  秀一は絆創膏の上から労りをこめて晴也の頬をさすった。甘やかす手つきに晴也が恥ずかしそうに身を縮める。  わずかにうつむき、長めの前髪で表情を隠す晴也の様子をじっと見つめた。この傷を見ると病院のことを思い出す。秀一は、不機嫌な口調で口を開いた。 「で? 晴也さんはあいつに連絡するんですか?」  あいつ、とは言わずもがな晃司のことだ。とげとげしく聞けば晴也は小さく頷いて、もごもごと口ごもった。 「う、ん……一度は、しないと。助けてもらったんだし」 「ふぅん……」  むかつく。非常にむかつく。礼なんてしなくていいのに。  だいたい病院に行ったときだって、いやらしい目で晴也を見ていた。運命の刻印だか知らないが、妙になれなれしく晴也の名を呼んでいた。  秀一に引けを取らない体格に、晴也を狙う鷹のような瞳も気に入らない。顔面偏差値が微妙に高いのもしゃくに障る。本当に何もかもがいけ好かない男だった。 「晴也さんとあいつは運命の刻印者だから、近くによると厄介なんでしょ? なんだったら俺がかわりに、礼しましょうか」 「そんなのダメだって。世話になったのは、こっちだし。日高さんに迷惑かけられないよ」 「迷惑なんて思わないよ?」  むしろ、晴也と晃司が二人きりになるほうが心配だ。もしも晃司が、晴也に何かしたらと思うと気が気じゃない。  不機嫌になった秀一に責められた気分にでもなったのか。晴也は少し荒れた唇をつんと尖らせる。しかしすぐさま、またうつむいて、しゅんと元気をなくしていた。  晴也の細い指が秀一に伸びてきて、服の袖を弱弱しく引っ張ってくる。 「晴也さん?」 「あ。えと。なんでもない。あの、日高さんの傷………俺も、手当てする」 「あぁ……」  すっかり忘れていた。喫茶店で秀一が自分でつけた傷だ。爪が食いこんで、少々えぐれただけだから大したものではない。  今は血も止まっているし、手当てするほどでもないが。自分の手を見つめた秀一を置いて、晴也は救急箱から消毒液をせっせと取り出した。  秀一の手をきゅっと握り、ぷるぷる震える手で少しずつ消毒をしてくれる。逆に怖い。握られた手から晴也の緊張が伝わってきて、傷口から目を離せなくてこっちまで緊張する。  とてつもなく長い時間をかけ、非常に狭い範囲の傷に薬をつけてくれた。これで終わりと思えば、最後は不器用に、分厚い包帯をぐるぐる巻きにしてくれた。 「はは。ありがとうございます。でもこれは、ちょっと分厚すぎません?」 「う」

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