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第41話

 包帯が団子になった仕上がりに、想像と違っていたのか晴也も少し焦っていた。けれど秀一の手をじっと見つめ、晴也は動きを止めて目線を下げる。  反応をなくした晴也を不思議に思い、秀一はうつむく顔を覗いた。傷を見て思い悩む顔をしたり、元気がなくなったり。なんだかさっきから様子がおかしい。 「どうしました?」 「あの俺……俺」 「うん」  うつむく晴也の顔を覗きこむ。晴也は口下手だから、自分の気持ちをストレートに表現するのも下手くそだ。秀一は、続きを根気強く待った。  整理がついたのか、ようやく晴也はぽつんと口を開いた。 「俺が……そばにいたら、また日高さんは、こうやって傷ついて、苦しまないと、いけないのかも……」  運命に抗う秀一が、また自分を傷つけてしまうかも。晴也の小さい呟きに秀一は目を見開いた。きゅっと握った秀一の手を離し、かわりに晴也は自分の膝を抱える。  下がる顎先を膝にうずめ、晴也は肩身が狭そうに背中を丸めた。そんなことを気にしていたなんて。  晴也は本当に自分の感情に鈍くて不器用で、臆病だ。自分がどんな顔をしているか、今も気づいていないのだ。  鍋掴みみたいな手当てをしばらく眺め、秀一は、うつむく長めの前髪を指先でいじる。指に束ねた髪を、ちょんと引っ張った。寂しそうにする晴也が、秀一に慌てて顔を向けてきた。 「な、なに? なんかついてた?」 「うん。今にも泣きだしそうな虫がいた」  やんわり笑って、慰めるように秀一が言う。からかう口ぶりで言えば、晴也は目元を赤らめて、秀一が摘まんだ前髪を押さえた。 「そ、な、泣いてないよ」 「知ってますよ。泣きそうだって言っただけです」  地位も権力も財力も、何ひとつ持たない平凡なありふれたβ。持っているのは仲のいい家族と優しさと不器用さと。  でもその平凡が何よりも、秀一が求めるものだと晴也は気づいているだろうか。  かえがたい現実に、晴也が引け目を感じているのは知っている。自分がβなのを後ろめたく感じ、秀一が上位αなのを気にしている。  秀一と一緒にいるかぎり、晴也は一生その負い目からは抜け出せない。秀一もまた同じ。互いは何も悪くなくても。  たとえば秀一が、Ωを選んだとしたら。運命でも、ましてやΩでもないβの晴也は、捨てられても仕方がないと身を引いてしまうのだろう。  自分にはひとつも魅力がないと思っているから。晴也は、恋に臆病で、優しすぎる。  秀一が思う分だけ晴也にも思い返してほしいなんて、わがままでしかない。でもそう思わずにいられない。  晴也ももっとわがままになって秀一を奪い取ってほしい。もっと秀一を欲しがってほしい。晴也を求めるように。Ωに引き寄せられはしないと、晴也にも信じてほしいのだ。  運命などいらないと言い聞かせてもまだ足りない。秀一の胸を抉りとり、心のなかまで見せられたなら。それができないのがもどかしかった。  秀一はちゅっと、晴也の下がる目じりを啄んだ。 「俺の気持ちを甘く見ないで。俺がΩのもとに行くなんて、そんなことは起きませんよ。だから、晴也さん。もう観念して俺に捕まえられててください」  もっと自信を持っていい。秀一に愛されていることを。晴也が思う以上に秀一は、晴也が好きだから。

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