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第48話
秀一を掴む、瑞希の白い手に片手を添える。動揺する瑞希の顔を覗き真摯に向き合った。
何も知らない晴也を傷つけ、真っ向からぶつかってくる瑞希の心まで蔑んだら。秀一は本当に、最低な男に成り下がる気がする。
本気で瑞希と向かいあってここで決着をつけなければ、晴也と顔を合わせられない。
頭ごなしの拒絶でも、一方的な会話でもなく。瑞希自身を見つめ、対話をしなければならなかった。Ωも運命も関係なく。
秀一の真剣な思いが伝わったのか、瑞希が大人しく握り締めた手を離す。秀一は大きく息を吐きだすと、目の先で揺れ動く、黒い瞳をまっすぐ見つめた。
「君を……傷つけたのは謝る。瑞希くんに言われるまで、俺は、自分の身勝手さをわかってなかったんだ。言い訳にしかならないけど」
運命を受け入れないのは、瑞希のためと言いながら、本当は自分のためでしかなかったこと。運命に抗うといいながら運命から逃げ続けていたこと。
「瑞希くんの言うとおりだ。俺は、卑怯だったんだ。現実と向き合わず、ただ現状に流されてた」
吐き捨てた秀一の口元が自嘲するように揺れ動いた。幼い頃から、αの能力が高かったから。これまでずっと、Ωもβも、同じαでさえすり寄ってくるほど。
頭脳明晰、容姿端麗。αゆえに、何でもできるともてはやされた。ただ存在するだけで特別なのだと。
秀一自身は何もしていないのに、トラブルが絶えない荒んだ日々だ。そんな人生に飽き飽きしていた。
心にもないことを口にされ、発情したフェロモンをふりまくΩに引っ掻き回されて。秀一自身が培ってきた努力はないものとされてきた。
机に座るだけで難問が解けるのか。眺めるだけでボールが操れると思うのか。誰も秀一を、わかってくれようとしなかった。
秀一はαに包まれたブランドだった。αなんてクソくらえ。そうやってバース性を疎んじて、努力することをやめたのだ。ブランドを脱ぎ捨てた、ただの秀一を見てほしかった。
αであることから逃げたのだ。向き合った、瑞希の薄い肩を掴み、整った眉間に皺を寄せた。
「ごめん。俺が無神経で、君を傷つけたのは悪かった。俺は甘えてたんだ。何もせずαであることに流されてた。君のためじゃなくて……、俺は俺のために、君を遠ざけ、傷つけようとした」
秀一だけがバース性で苦しんでいたのではなかったのに。瑞希はたぶん家族からも、爪はじきにされたんだろう。それでもきっと努力を続けてきたんだろう。秀一と違って。
今は辛くともいつか、瑞希を認めてくれるαが、どこかにいてくれると信じて。
「俺が悪かった。でも俺は、瑞希くんを否定しようと思ったことはない。それは信じてくれ。俺はただ、君に、俺以外を見てほしかった」
定められた運命に囚われず、瑞希自身が、心から求める人と、番になって欲しかった。βを愛したαと番っても、結局傷つくのは瑞希だから。
「俺は君を愛さない。Ωとか、運命とか。そんなことじゃなくて、俺はあの人しか好きになれないから。俺の心は、君にないから。瑞希くん自身を本当に大切にしてくれる、そんな人と、一緒になって欲しいと思うよ」
瑞希ひとりだけを、心から愛してくれる人と。ともに歩み、自分だけの幸せをつかんでほしい。運命にもバース性にも何ものにも囚われない、自由な心で。
「どうして運命が……俺なんだと言ったよな。俺もそう思うよ。俺たちの運命ってなんなんだろな」
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