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第51話
目前に迫る精悍な晃司の瞳が、秀一を威圧する。乱れるシャツを掴んだ秀一の握りこぶしを力づくで突き放された。今度は反対に、秀一の手首を砕きそうな腕力で掴み取られる。
「く……っ」
「晴也の運命は俺だ。お前が! 俺たちの間に割り込んだんだ。βでもないαがよ。大切にして、守ってやってるならまだしもよ。なんでこいつを泣かせてんだ? 奪い取って悪いか」
晴也は晃司の運命だ。隠れバース保持者が刻印者と出会えるなんて、αとΩの運命よりも低いのだ。奇跡よりも低い出会いだ。その存在に惹きつけられないわけがなかった。
「世のトップにいる、シュウイチさんにはわからねぇだろな。αやΩが当たり前に暮らしてる中で、俺たち隠れネームバースは堂々と生きていけない腹立たしさを。刻印なんて、なけりゃあいい。そう思いながら、こいつも違う場所で一緒に成長してるんだって。そうやって、心のどっかで繋がりを感じられる、絶対的な安心感を」
身体に刻まれたネームを見るたびに、感じられる存在感。いつも一緒に、傍にいてくれるような感覚だ。
何度その名を呼び、姿かたちを想像したかわからない。どんな声で自分の名を呼び、笑うのか。
いつかどこかで出会える夢をみるけれど、本当に存在するかは半信半疑。かすれゆく、あやふやな存在に、どれほど心を惹かれていたか。
いざ出会ってみれば鈍くささが可愛くて。晃司にはない、素直さが優しくて。
「あんたが、晴也の恋人でなけりゃ、俺が晴也を大事にして、悲しませないように守ってた。この先もずっとだ」
「だから……晴也さんを、手に入れたのか……?」
真正面から挑んでくる晃司に、秀一の手から力が抜ける。晃司は晴也と、肌を重ねたのか。晴也はそれを許したのか。
秀一の小さな呟きに晃司は口元を微かに上げた。秀一は体躯のいい横をすり抜け、寝そべる晴也に距離を詰める。
そんなはずない。結ばれた刻印者だからといって、晴也が身体を預けるはずない。晴也は晃司のところにいかないと言った。秀一が好きだと。
頭からシーツに包まる晴也を覗き、秀一は一気に毛布を剥ぎとった。はずだった。しかし毛布は、意地でも晴也から離れなかった。
「晴也さん! 手を離して!」
「ぅうう……っ」
ものすごい力だった。手だけでなく、足まで絡めて毛布を奪われまいと踏ん張っている。勢いあまり、秀一はいささかベッドに乗り上げた。引いて引かれて、シーツで綱引きをする。
「はっ、るっ、やっ、さんっ!?」
「ううう……っ!」
毛布を引っ張る互いの手がぷるぷると振動する。このままでは、毛布が先に千切れそうだ。そう思ったとき、ついに、馬力パワーが尽きたか。晴也の手から毛布が離れた。
やっと秀一の視界に現れた晴也の身体は……どこにも、情事の痕跡がない。シャツは少々乱れ、鼻水が少し垂れて、つぶらな瞳は真っ赤になって、潤んでいたけれど。
「は……」
気を抜いた秀一が安堵の息を吐きだす。二人のやり取りを横目にする晃司が、ひとり、ぽつんと呟いてきた。
「怖いって……泣いて、怯えられたらよ……それ以上なんもできねぇだろ」
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