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Two Drifters 2
景色は砂浜からアシの林に変わり、僕の目の前に柚問川の河口が現れた。陽は翳り、雨雲が低く澱んでいる。
僕は柚問川の広い河口の砂州に立ち、足元で垂直に交わる河口の波を見ていた。
あの日と同じように砂州の乾いた砂の上に腰を下ろす。
――僕は君ではないし、君を取り巻く空気でも、神様でもない。
隣に座った彼が、ぽつりと呟いた。
――君の考えていることはわからない。だから、話してくれないか。
彼が僕の肩に頭を乗せた。ふわりと僕の首筋にかかる彼のやわらかい髪の毛と、温かい肩の感触。彼の体温に全身を包まれるような気がして、目眩を覚える。
『vestibular labyrinth』
医大受験のときに覚えた、身体の器官の用語をふと思い出す。前庭迷路。耳の三半規管のなかに、平衡感覚をつかさどる部分がある。脳の迷路に繋がる前庭がある。
彼といっしょにいると、平衡感覚が狂う。彼の迷路の中心へ、僕は迷い込みたいのだ。彼と一生いっしょにいたい。彼が発する引力のなかへ巻き込まれたい。彼の肩に手を回して、身体を抱き込む。さらりと冷たい髪の感触が、僕の首筋に落ちる。
霧雨に包まれて、僕たちはじっと垂直に交わる波の音を聞いていた。離れる瞬間が永遠に来ないことを願いながら。
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