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第2話 〝いつメン〟の件について
通されたリビングは男性の一人暮らしには少々広すぎるようにも感じられる2LDKで、入口がオートロックであることから見てもそれなりの安全面が考慮されている場所であった。
「広いお部屋ですね~!」
知人の新居に初めて足を踏み入れる時の新鮮さは燐太郎にも分かるが、悠真はそれ以上に興奮している様子でリビングを見渡す。
「どうして前の家引っ越したの? 駅から近かったの便利だって言ってたじゃん」
「あぁうん、ちょっと色々あってね――」
樹雷からの素朴な疑問に雪路は言葉を濁す。聞いた話では以前の住居ともそう離れている訳でもなく、樹雷との会話から推察するにも敢えて引っ越しをする必要があるようにも思えない。
「あ、そうだゆきちゃん、これお土産だよ」
雪路は樹雷から手渡された紙袋を受け取り、中身を確認すると一度リビングからも見えるキッチンへと視線を向送る。
「ありがとう。じゃあ紅茶でも淹れるからみんなそこで寛いでて」
「あ、俺良かったら――」
招かれた立場ではあるが、家の主に全て任せるというのは流石に気が引けてしまう。雪路と対等な立場である樹雷や雪路に大層可愛がられている悠真は別として、手伝いを申し出た燐太郎は上着を脱ぎながら自ら手伝いに立候補しようとしていた。
申し出た燐太郎に対して雪路は片手を差し出し、その片方の手にはハンガーが握られていた。燐太郎は脱いだ上着を雪路へと手渡し、雪路は燐太郎の上着をハンガーに掛けるとそれをコート掛けに掛ける。
「ああぁぁぁあああっ、こっ、これはっ!」
悠真の突然の絶叫に思わず振り返ると、悠真が恍惚の視線を向けるリビングの一角には巷で噂の人間を駄目にするというとても巨大なビースクッションが置かれていた。見た限り直径は二メートル前後だろうか、小学生高学年程度の小柄な悠真ならばすっぽりと埋まってしまいそうな大きさだった。
「ゆっ雪路さん、これは噂の人を駄目にするっていう……!」
「うん、鳥ちゃんが多分好きだろうと思ってさっき俺の部屋から引っ張ってきたんだ」
「とっ、飛び込んだりしてもいいんでしょうかっ……?」
「勿論いいよ。滑らないように気を付けなよ」
雪路の悠真に対する可愛がりは常軌を逸しているところがあるが、悠真自身がそれを忌避する素振りを見せていない為このふたりはこういう関係性なのだろうと燐太郎は以前からそう感じていた。
今やプロジェクト内でもそれなりの地位にある雪路と樹雷と親しく出来るのは燐太郎にとっても社内の〝派閥〟という意味では有り難いことでもあった。
うずうずと飛び込むのを待ち望んでいた悠真は、雪路からの許可が下りればここぞとばかりにその大き過ぎるビーズクッションへと飛び込み小さな身体を沈める。今でも時折小学生と間違われて職務質問を掛けられるというほど小柄な悠真の身体はみるみるうちにクッションへ埋まっていく。
「このクッションもめちゃくちゃいい匂いがします〜」
「鳥ちゃんその言い方は何か変態臭い……」
「千鳥は元から変態なとこありますから」
独自の世界観があり普段からどこか浮世離れしているような樹雷だったが、悠真の発言には流石に引き気味の様子で苦笑を浮かべる。
「ファブリーズしたからね」
男同士であってもやはりそういったところは気になるのかと雪路の発言から感じた燐太郎だったが、雪路がリビングに隣接するキッチンへ向かうと手伝いを申し出ようとしていたこともあり、そのまま後を追っていく。
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