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第七章 隣の学生さん③ ♡

 隣に住む学生、ようやく眠ったらしい。向こうは気付かれていないと思っているだろうが、こちらの音が筒抜けなように、向こうの音も筒抜けなのだ。盗み聞きをするためだけにわざわざ暗い押し入れに潜んで、薄い壁に耳を当てて息を潜めているのだから、大した出歯亀根性だ。  ちなみに、歩はおそらく気付いていない。気付いていたら、必死に声を我慢しようとするはずだ。俺もわざわざ歩に気付かせるつもりはない。盗み聞きされているなんて知れたら、最悪の場合また前みたいにエッチ禁止令が出されてしまう。  そりゃあもちろん俺だって、隣の冴えない学生なんかに歩の可愛い声が聞かれることを良しとしているわけではない。たとえ叶わない妄想だとしても、歩のあられもない姿を想像されるのなんて絶対にごめんだ。  けれど、所詮は聞き耳立ててマス掻いてるだけの憐れな童貞だ。多少のオカズを提供したところで脅威にはならない。それに、こんなことを言うと俺が変態みたいだが、隣の学生に盗み聞きされていると思いながら歩を抱くと、ちょっとした優越感が得られるのだ。  お前が踏み込めない領域に、俺はいるんだぞと。お前が触れられない体に、俺はこの両手でしっかりと触れている。お前は妄想の中でこいつを犯しているかもしれないが、現実にこいつを抱いているのはこの俺だ。くだらないとは思いつつ、そんなことを考えてしまう。  大体、歩も悪いのだ。本人にそのつもりはないらしいが、誰彼構わず魅了させやがる。学童クラブの子供達に始まり、近所に住む犬や猫、商店街のおっちゃんおばちゃんとも親しくしていて、買い物に行けば必ずといっていいほどおまけを付けてもらっている。  この間なんて、ただ道を歩いていたら、知らない女に猛アタックを受けていた。話を聞けば「前に痴漢から助けてもらったんです!」とのことだったが、歩はよく覚えていない様子だった。「お礼をさせてください」としつこいので、適当に喫茶店でごちそうしてもらった。もちろん俺も同席した。  茶を飲み、ケーキを食べる間、俺はずっと女を威嚇していたが、女は俺のことなど視界にすら入らないといった様子で、うっとりと歩だけを見つめていた。そんな中、話題の中心にいるはずの歩はといえば、女の様子には全く気付かず、じっくりとケーキを味わっていた。  帰宅後、明後日の方向へ勘違いを起こしたらしい歩が「ずいぶん熱心にあの女のこと見てたな」と拗ねるので、可愛い焼きもちに盛り上がってしまったが、この件に関して俺に一切責任はなく、強いて言うなら歩が何らかのフェロモンを撒き散らしているのが原因である。  色々と思い出していたら、だんだん腹が立ってきた。歩は「おれは他人から好かれるタイプじゃない。どちらかと言えば怖がられてる。今までずっとそうだった」と言うのだが、それはおそらく去年までの話だ。  なぜなら、あの頃の歩は、全身の毛を逆立てたヤマアラシのように殺気立っていた。氷よりも冷ややかで、いつも険しい表情をしていて、うっかり手を触れようものなら並の怪我では済まないというような、危険な雰囲気を身に纏っていたからだ。  要は、俺と暮らし始めて角が取れ、丸くなったというわけだ。そのせいで訳の分からない連中を惹き寄せているのだから、俺としては堪ったものではない。危なっかしくて、うかうか外出もできないではないか。   「なぁ」    ぐったりと布団にへばり付く歩の尻を、俺はむんずと掴んだ。白くて丸くてぷりんとしていて、世界で一番エッチだと思う。最初の頃と比べて、さらにエロくなった気がする。俺が毎晩愛でているからだろうか。   「なぁって。歩」    俺がもう一回をねだっていることに気付かないはずのない歩は、面倒くさそうにこちらを振り向いた。「眠みぃし疲れた」と顔に書いてある。   「あと一回で終わらすから。なぁ、いいだろ」 「もう十分しただろ……」 「まだ足んねぇよ。もっとちゃんと分からせてやんねぇと」 「んっ、ん……」    歩はやる気がなさそうだが、特段抵抗することもなく俺を受け入れる。蕩けた肉壺がねっとりと絡み付く。軽く腰を引き、とんと奥を突くと、歩の白い背中が艶めかしく撓った。   「んなにしなくても、ちゃんと分かってるって……っ」 「分かってる? 何を?」 「てめェが言ったんだろ。分からせなきゃ、気が済まねぇって」 「ホントに分かってんのぉ? 具体的に言ってみて」 「あぁ? だから、おれが……」    歩は言葉を区切り、何やら決まりが悪そうに俯いた。白い背中が鮮やかに色付いている。俺は続きを急かすように突き上げた。   「んっ、だから……」 「だから?」 「っ、おれがっ……おまえのものだって……」 「……」    ああ、そっちか。想定外の回答に、俺は一瞬フリーズする。  俺としては、こいつは俺のものだと隣の学生に分からせてやりたい。もっと言えばこの町の住人、いや世界中の人間に、こいつは俺のものだと大声で宣言したい。そういう意図でさっきの台詞を言ったのだが。いや、でも、突き詰めれば結局は同じことなのだろうか。  俺に恥ずかしいことを言わされて、歩は淫らな穴をきゅんきゅん締め付けた。恥ずかしいことを言わされて、感じている。前から思っていたが、こいつ、若干Mの気質があるんじゃないだろうか。  頬を真っ赤に火照らせて、歩は肩越しに俺を見た。黒い瞳はいっぱいの涙に濡れている。「早く動いてくれ」と、口で言わなくても顔にそう書いてあった。   「ば、かっ、急にうごくなっ……!」 「お前が欲しがるからだろ」 「っ、てない! んなこと、ッ!」 「顔見りゃ分かんの。ほら、ここがいいんだろ? ナカ、すげぇうねってるけど」 「やッ、だめっ、そこだめっ、……!」 「イイの間違いだろ? ほら、言ってみな」 「い……いいっ、きもちいいから……っ!」 「なぁ、もっかい言って? 誰が誰のものだって?」 「あぅ、おっ、おれがっ、おまえ、のッ」 「だな。お前は俺のものだし、俺もお前のものだよ」 「んっ、も、だめ、いくッ――」    ほんの一瞬、嵐の前の静けさ。やがて、肉襞が媚びるように蠢き、激しく収縮した。淫らな穴は、俺の放った白濁液で満タンだ。他の誰も、ここを踏み荒らすことは許さない。俺と歩の二人だけの、ある種の聖域だ。  誰かに見せびらかして自慢したい気持ちも少なからずあるけれど、俺がお前のものであり、お前が俺のものであるのなら、そのことを互いに分かっているのなら、他人のことなんて本当はどうでもいいのだ。一番大切な真実は、一番大切な場所に秘めておくべきものだろう。

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