37 / 41

第八章 君のいる八月⑥ ♡

「もっと……さわれ」 「はいよくできました」 「くそ……」 「向こう向いて、ここ掴まっといて」    窓枠に手をつかせ、外側を向いてもらって、尻をこちらへ向けさせた。下着を脱がせ、部屋の隅へと放り投げる。浴衣を大きく捲り上げると、白い肌と丸い尻が露わになる。裾を帯に挟むと、ずり落ちてこないので邪魔にならない。   「なぁ……この恰好……」 「やだ? こっからの眺めは最高なんだけど」 「……ばか」    情事の最中にバカって言われるの、俺は好きだ。歩がよく口にするので、俺も癖になっている。   「もっとこっちケツ向けて」 「ん……こうか?」 「そうそう。いい感じにエロい」    歩は恥を忍んで俺のリクエストに応え、いやらしく腰を突き出した。普通見えちゃいけないところ、最も秘すべき楽園までもが、一糸纏わず丸見えだ。俺は、ローションまみれの指先で、秘部をそっとなぞり上げた。  思った通り、そこは既に濡れていた。いつもそうだが、歩は事前の準備を怠らない。俺の手を煩わせまいとしているのか、弄り回されるのが恥ずかしいのか。どちらにしても、あの歩が俺との行為のために自分で尻を弄くって解してくれているのかと思うと、それだけで心が満たされる。  そんなわけで、俺が今更どうこうする必要もなく、その気になればするっと簡単に挿れてしまえるのだが、それはそれとして前戯はしたい。歩の気分が乗らない時はあまりさせてもらえないが、今夜はどうだろう。  つぷ、と指先を沈める。弾けるような瑞々しい感触を楽しみながら、ゆっくりと指を差し込むと、中のローションが押し出され、とろりと溢れて俺の手を濡らす。歩は、窓枠に掴まって顔を伏せたまま、微かに身を震わせている。  この感じだと、今夜は気分が乗っているようだ。まぁ、そんなに乗り気でなかったとしても、俺が押し切ろうとすれば、結局は流されてついてきてくれるのだが。   「指増やすな」 「んん……」    指三本でも入りそうだが、二本が一番ちょうどいい。いい具合の締め付けを感じつつ、中で自由に動かすことができる。  ぴちゃぴちゃと音を立てながら、波間で遊ぶように浅いところを弄る。焦らされて疼くのか、潤んだ果肉が甘く蕩けて、俺の指を締め付ける。さらに深いところを目指して指をねじり入れ、締め付ける襞を広げるように掻き混ぜる。   「っ、おい、……」 「なに?」 「そこばっか、やめろ……」 「そこって?」 「だからっ、そこ……」 「ここだろ?」    前立腺を引っ掻くと、歩は大きく腰を跳ねた。嘘か真か、男のGスポットなんて言われる場所だ。刺激を与えてやればやるほど、健気にぷくっと膨れてくる。指先で挟むようにして捏ね回したり、ローションを塗り込めながら撫でてやる。   「やめろなんて言っちゃってさぁ。ここが一番好きなくせによ」 「ひっ、んんっ、ばか、やめっ……」 「気持ちいいならいいって言えよ~?」    歩は口元を押さえ、ふるふると首を振った。同時に、尻もふりふりと揺れる。誘っているようにしか見えない。  俺は一旦指を抜いた。ようやくか、という安堵もあったのだろう。歩は期待するような目でこちらを振り向いた。しかし、俺は膝立ちをした歩の股の間に頭を突っ込んだ。所謂顔面騎乗的な状態である。  俺の姿を見失った歩が狼狽えている。俺はその隙に、目の前で蜜を垂らしながら震えている花芯を、口いっぱいに頬張った。   「っ……!?」    歩の声にならない悲鳴が聞こえた。驚いた様子で股の間を覗き込む歩と目が合った。上空にちょうど月が見え、月明かりを纏った歩はどこか神々しかった。   「てめ、なにして――」    歩に小言を言われる前に、俺は一旦抜いた指を押し込んだ。指を入れると同時に、口に含んだモノがビクッと震える。まるで、前と後ろが直接神経で繋がっているみたいだ。   「やっ、あ、だめっ……」    歩は深く俯いたまま、手で口元を覆ってしまった。尻で快感を得られる歩だが、こっちが不能というわけではない。本来の性器の方も、普通以上に感じやすいのだ。前と後ろを同時に責められたら、それこそ堪ったものではないだろう。  顔面騎乗的な体位ではあるが、やっていることはどちらかと言えばイラマチオだ。口を使って歩の雄を愛撫し、指を使って歩の雌を愛撫する。なかなかの重労働だ。体勢もかなりキツい。もっと考えてから実行すればよかったが、こういうのは勢いが大事だ。   「っ、ふ、んんぅっ……」    余裕なさげに掠れた声が、口を覆った手の隙間を漏れ出て、頭上から降ってくる。月を背にした歩の、悦び悶える表情なんて、もう二度と見られないような気がする。しっかり目に焼き付けておこう。変な体勢でよかった。  スカートのように垂れ下がる浴衣の裾をたくし上げ、愛撫を続ける。だらだらと蜜を零す花芯にしゃぶり付き、裏筋を責め、溢れる蜜ごと吸い上げてやる。確か、歩は普段こんな風にしてくれている気がする。こいつほどうまくできている気はしないが。  前を責めながら、同時に後ろも責め立てる。変な体勢を取ってしまったせいで、前立腺がどこにあるのか分からなくなった。完全に感覚に頼り切り、ちゅぽちゅぽと指を抜き差しする。図らずも、前をしゃぶるのと同じリズムで蜜壺を掻き回していたので、予期せぬハーモニーを生み出すこととなった。   「ひっ、んぅ……っ!」    だめ、だめ、と歩が目で訴えてくる。下手に喋ろうとすると、いやらしい声が漏れてしまうのだろう。かく言う俺も、口を塞がれているため喋ることはできない。ただ、歩の限界が近いらしいことは、触れ合っている場所全てから伝わってきた。  蜜壺が小刻みに震え、花芯も小刻みに震えている。指を入れているし、口に入れているので、まるで自分のことのようにありありと感じられる。絶頂はもう目の前だ。   「じゅ、んっ……も、はなせ……っ」    歩は縋り付くように俺の頭を撫ぜる。頼りない窓枠にどうにかしがみついて震えている。ここまで来たというのに、言われた通り素直に離すやつがあるだろうか。俺は尚のこと念を入れ、前も後ろも責め続けた。   「もっ、や……っ、くっ――ッッ!!」    それはとうとう訪れた。逃げないよう羽交い締めにしていた腰が、激しく痙攣した。口に含んでいたモノが一際大きく脈打って、指をしゃぶっていた穴が一際きつく収縮して、どっと青臭いにおいが広がった。  青臭い、苦い、粘着いて舌に絡む。だけど、自分のものと比べれば全然悪くない。歩の出したものだからだろうか。  絶頂の余韻に浸っているのか、歩はカクカクと腰を振り続ける。俺は最後の一滴まで搾り取ってやろうと思い、柔らかくなった先端をきつく吸い上げた。するとまた、ビクビクビクッ、と激しく腰が痙攣する。   「やッ、あッ、ああぁッ!」    思いのほか大きい声が出たので、俺は慌てて口を離した。どろりと白濁の液が伝う。歩はぐったりと窓枠にもたれて、しかし俺の顔に跨っているのを忘れたわけではないのか、腰を落としてしまうことはない。おかげで、俺は歩の股の間から抜け出すことができた。   「ん」 「……?」    白濁液を口に含んだまま、俺は歩に口づけた。大人しくキスを受け入れた歩だが、俺が精液を流し込むと、途端に身を強張らせる。   「んん゛……ッ!」    身を捩って逃げようとする歩の後頭部を押さえ込んで、俺は口移しで精液を流し込んだ。要するに、初夜にされたことの仕返しだ。「お前の出したモンだぞ。ちゃんと味わえよ」と言ってやるつもりだった。  しかし、歩もそう簡単に飲み込んではくれない。俺が精液を流し込むと、同じ分だけ押し返してくる。粘度のある液体を口移しで飲ませるのは簡単ではない。  しばらく揉み合ううちに、俺は布団に押し倒されてしまった。もちろん、ただやられたわけではない。最初は当然俺の方が優勢だったはずなのに、歩が一切の躊躇なく全体重をかけてしな垂れかかってくるものだから、さすがに受け止め切れなくなった。  こうなるともう俺に勝ち目はない。馬乗りにされて口を塞がれ、一旦は歩の口に移ったはずの精液が、再び俺の口に戻ってくる。唾液と混ぜ合わされたせいで粘度が落ちたらしく、重力に従ってさらさらと俺の口に流れ落ちてくる。  ようやく唇が離れ、精液なのか唾液なのか分からない液体が二人の間で糸を引き、やがてぷつりと途切れた。歩は俺の上に跨ったまま、得意そうに見下ろしてくる。   「おれの出したモンだぞ。とくと味わえ」 「くっそ……結局こーなんのかよ」 「いいじゃねぇか。新鮮だぞ」 「そーいう問題じゃねぇだろ!」    意趣返しのつもりが、まんまと返り討ちに遭ってしまった。ただ、歩が楽しそうなので良しとする。   「てめェ、あの時のこと根に持ってやがったのか」 「そういうわけじゃねぇけど。試しにやってみたかっただけ」    歩は布団にごろんと横たわる。下から見上げてくるくせに、その眼差しはどこまでも強気だ。俺が覆い被さろうとすると、歩は視線で何かを示した。窓を閉めろということらしい。   「ついでに口もゆすいでこい」 「えっ、お前そういうの気にする派?」 「できれば水も持ってこい」 「すごい命令するじゃん。女王様かよ」 「こういうの好きだろ。喜べよ」 「どこにドマゾの女王様がいるんだよ」 「どまぞ……?」 「お前のことだよ。ったく、しょうがねぇなぁ」    こういう時、俺は歩の忠実なしもべだ。ご希望通り窓を閉め、口をゆすいでさっぱりし、ついでにコップに水を汲んで、布団にまで運んでやる。我ながら至れり尽くせりだ。   「ちょ、まさか寝てる?」 「……起きてる」    まさか一度の絶頂で満足してしまったわけではあるまい。俺は、布団の上で気持ちよさそうに目を瞑っていた歩を揺さぶった。   「だから起きてるって」 「だってお前体力ねぇし」 「うるせぇな。さすがにこのタイミングで寝ねぇよ」    歩は呆れたように言い、口に水を含んでゆっくりと飲み干し、そのまままた、ごろんと横になった。   「おい」 「なに。水もっといる?」 「そうじゃねぇ。早く」 「……ったくよォ、お前、も少し可愛げある誘い方できねぇの?」    俺は、今度こそ歩の上に覆い被さった。今回はこれで正解みたいだ。歩はこちらに手を伸ばし、俺の浴衣の袖をそっと掴んだ。

ともだちにシェアしよう!