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第八章 君のいる八月⑦ ♡

「なぁ」 「ん」 「挿れるよ?」 「ん……」    歩はおずおずと脚を開いた。既にいやらしいことをたくさん知っているくせに、時々乙女のような恥じらいを見せる。  俺は、既に着崩れしまくっていた浴衣を脱ぎ、股間を締め付ける下着を脱ぎ捨てた。歩の腰に手を回して抱き寄せて、ゆっくりと腰を進める。いきり立った怒張を、濡れそぼった花弁のあわいへと押し当てる。歩は目を伏せて俯く。   「んっ……、あぁ……っ」    歩は感じ入ったような吐息を漏らした。切っ先が埋まれば、後は流れに身を任せるだけだ。うねる媚肉に誘われるまま、根元まで一息に沈めてしまった。   「っ、准……」    歩が呼ぶから、体をくっつけた。歩は甘えるように両手を伸ばして、俺の頭を撫でた。色素がない上に癖のある髪に指を絡ませ、くしゃくしゃと撫でる。何となく童心に返ってしまう。   「なに? キス?」 「ん……」    もう精子の味はしない。唇を吸い、ゆるゆると舌を交わらせる。夏の味がした。  まさか、歩とこんな風に大人のキスを交わせるようになるなんて、あの頃の俺に言ったらどんな顔をするだろう。そもそも、大人のキスって何?ってところから話を始めなければいけない。   「准」 「ん~?」 「じゅん」 「なんだよ。甘えたいの?」 「……」    手持ち無沙汰を紛らわすように、歩は俺の髪を撫で回す。くしゃくしゃの髪が一層くしゃくしゃに乱れてしまう。   「……准。おれは……」    おもむろに歩は口を開いた。艶めいた唇が開いて、深淵に赤い舌が覗く。   「おれは……お前に言っておかなきゃならねぇことがある」 「……」 「今回の旅行も、言っちまえばそのためだ。こんなことまでしねぇとおれは……」 「ちょ、ちょ、待って? ホントに何? 何の話? 急にどうしたんだよ」 「だから、てめェに言いてぇことがあるんだよ」 「いや、だから何の話? この状況でしなきゃいけねぇ話かよ。ちっとは空気読んでくんね?」 「いいから聞けよ。おれは」 「あーあー、やだやだ、聞かない聞かない。何も言うな」    まさか別れるなんて言うんじゃないだろうな。この旅行を最後の思い出にして、綺麗なままお別れしましょうってか? 冗談じゃない。到底受け入れられる話ではない。   「准。聞けって」 「……聞かねぇって……」    どうしよう。気持ちに引っ張られて息子が萎える。もしもこれが最後になるのだとしたら、絶対最後までやりたいのに。   「落ち着け。んなシケた面すんな」 「だってよ……」 「いいか? おれは、お前が……」    歩は俺の頬を両手に包んで、真っ直ぐに目を見て言った。   「好きだ」 「……」 「……」 「……それだけ?」 「? ああ」    思わず大声が出てしまったのは言うまでもない。歩はあからさまにうるさいという顔をしている。俺の頬を挟んでいたはずの掌で耳を塞ぐ。   「おッ前、マジで何なんだよ!? すげぇ深刻な感じで話し始めるから、俺ァてっきり……色々勘違いしたじゃねぇかよ! ふざけんなよな!?」 「何を勘違いすることがあんだよ」 「そりゃあお前、……」    俺は唇を噛んだ。たとえ本心でないにしても、別れるなどと口にするのは耐えがたい。歩は何かを悟ったのか、俺の頭をくしゃくしゃ撫でてくれた。   「勘違いさせるようなことして悪かった」 「ホントによぉ、お前ってやつは……」 「さっきも言ったが、どう転んでもてめェの隣がおれの居場所だ。一緒に暮らしてみて、それが嫌というほどよく分かった。だから、おれもいよいよ覚悟を決める」 「いや、待って? だから何の話なの?」 「あぁ? だから、おれがお前を好……愛してるっつー話だろうが」 「愛!? いやホント急に何!? 乱高下激しすぎて訳分かんないんだけど!?」    とりあえず、俺の心配は杞憂で終わるらしかった。ほっと胸を撫で下ろす。歩は、自分で持ち出した話題だというのに、照れくさそうに目を逸らした。   「ずっと考えてたんだ。おれがお前にふさわしい人間なのかどうか。おれが隣にいて、お前は幸せになれるのか」 「そんなの考えるまでもねぇだろ」 「まぁ聞け。お前も知っての通り、おれは真っ当な人生を歩んできたわけじゃねぇ。本当は、大手を振ってお天道様の下を歩ける身分じゃねぇんだ。でもお前は違うだろ。おれのせいで、お前にまた道を踏み外させるようなことがあっちゃいけねぇ。お前には、もっと他の可能性があるんだ。それこそ、おれはお前の子供だって産んではやれねぇし」 「……ずいぶんとまぁ、くだらねぇことを考えるもんだ」 「ああ。我ながら女々しくて嫌になるぜ」 「……」 「だが、もうやめる」    歩は、俺の頬をぎゅっと抓った。   「痛ッ、ちょ、なにッ!?」 「くだらねぇことで悩むのは、もうやめだ。腹括って、てめェのそばにいてやる。未来を誓ってやるよ」 「はぁ? それって……」    頬を抓られたまま、唇が近付く。ちゅっ、ちゅう、と優しく触れ合うキスをした。最後に、歩がちらりと舌を覗かせ、俺の唇を味見して、名残を惜しむように離れていった。   「好きだぜ」 「っ……」 「ふっ、体は正直ってやつだな」    歩は下腹部に目をやって笑った。しんみりした雰囲気に呑まれて忘れかけていたが、俺達は今まさに繋がっている最中なのだ。萎えかけていた息子が、気持ちに引っ張られてむくむくと元気を取り戻す。   「あんまりでかくすんな。腹が苦しい」 「んなこと言われっとますますデカくなっちゃうんだけど」 「っ……いいぜ。好きにしろよ」    歩が艶めかしく笑うから、俺はもう、底から込み上げる熱い思いを全てぶつける勢いで、激しく腰を打ち付けた。   「っ、ああぁっ!」    悲鳴にも似た嬌声を響かせて、歩は歓喜に身を震わせた。しかし、すぐにはっとしたような顔をして、口元に手を当てる。そんなことにはお構いなしで、俺は容赦なく腰を打ち込み続ける。   「やっ、んんっ、もっとゆっくり……っ!」 「好きにしろっつったろ」 「限度ってもんが……きゃうッ」    汗の浮かぶ首筋をべろりと舐めると、尻尾を踏まれた猫みたいな声が上がった。   「かわいーの」 「やめっ、んんんッ、べろべろすんな」 「だっておいしーんだもん。海の味ってこんなだったよな」 「んなの、知らなっ……」    もはや衣服として何の意味も成さないほどに乱れまくった浴衣だが、俺はあえてそのままにして楽しんだ。薄い布の隙間に手を差し込み、歩の腰を掴んで揺さぶる。つんと澄ました胸の尖りに歯を立てる。歩はいやいやとかぶりを振りながら、俺の腕に爪を立ててしがみついた。   「じゅん、じゅ……んっ、んぅ」 「気持ちい? 俺も。すげぇ好き」 「じゅ、んんッ……くち、……」 「口?」 「くち、きす……きす、して……っ」    理性も何もかなぐり捨てて、高まる愉悦に溺れ切っている。歩の隻眼には、ただ俺の姿だけが映っていた。愛される時を待つ愛らしい唇を、俺は自身の唇で覆い隠す。   「ふぁ、んん……もっと、ッ……」    乞われるがまま、熱い吐息を絡ませて、濡れた舌を擦り合わせ、唾液を混ぜ合うキスをした。ぐちゅぐちゅと響く水音は、濃厚なキスによるものなのか、はたまた、歩の肚をめちゃくちゃに暴き立てる音なのか。俺にも、きっと歩にも分からない。   「もっ、ぁッ、だめ、もう……っ!」 「ん、俺も……」 「だめ、だめぇ、ぎゅってして、……ッ!」    火照った体を密着させる。抱きしめると汗で少し滑るけれど、それがまた愛おしくて堪らない。絶頂の予感に身を震わせる歩を腕の中に掻き抱き、俺はがむしゃらに腰を振り立てる。   「ひッ、あぁッ、いく、いくっ……」    歩が喉を引き攣らせて叫ぶ。蕩けた肉襞が激しく波打って絡み付き、歩自身もまた、全身を使って力いっぱい抱きついてくる。   「い゛っ、く……ッ、んぅ゛ぅ――っっ!!」 「ッく……!」    鋭い締め付けに俺も耐え切れず、深い絶頂により痙攣のやまない蜜壺の奥に、あらん限りの精を放った。精を受け止める感覚さえ、絶頂直後の敏感な体には強い刺激になるらしい。俺の腕にしがみついて、歩はビクビク身悶えた。   「っ、ぁ……んん……」    潮が引いていくように徐々に薄れる快楽の海に揺蕩って、歩はうっとりと息を吐いた。くたりと全身の力を抜く。   「准……」 「なに?」    俺を探す手を握りしめた。歩は嬉しそうに指を絡めてくる。   「すき……」 「うん」 「すきだ。すき。准……」 「……なんか、俺の方が恥ずかしいんだけど」 「なぁ、きす……」    歩はキスが好きだ。俺もキスしながらするのは好き。可能な限りあらゆる場所で繋がっていたいから。   「っあ、ん……もっと……」 「ちょ、そんなにしたらやべぇって……」 「なぁ、もっと……もっとしたい……」    舌を絡ませながら、歩は素直に続きをせがんで腰をくねらす。ただでさえ敏感になっているところへさらに追い打ちをかけられて、俺もまた我慢の限界だ。   「じゃあ、次は歩が上ンなってよ」    俺は歩を抱き起こし、自分は仰向けに寝転んだ。歩の手を引いて導いて、上に跨ってもらう。膝がガクガク震えており、自重を支えるのさえ容易ではなさそうだったが、歩は俺の上で股を開き、ゆっくりと腰を沈めていく。   「やっ、んん……はいってくる……っ!」 「お前が挿れてんだよ」 「いやっ、あぁ、おくまで、きて……!」 「ん。ほら、これでぴったり」    最後は俺がアシストした。歩の腰を掴み、力ずくで奥まで押し込む。ずぷん、と気持ちいいくらいぴったりハマった。その反動で、歩は大きく腰を仰け反らせる。濡れた秘肉がとろとろと蜜を溢れさせ、咥え込んだ肉棒を伝い、滴り落ちた。   「エッッロ……」    息を呑んで見惚れてしまういやらしさ。恥じらいなんかすっかり忘れてしまったかのように、歩は開けっ広げに股を広げ、結合部を剥き出しにして見せつけてくる。  いや、歩の意志ではないのかもしれない。よりいやらしく見えるように、俺の目を楽しませるように、自然と体が動くのかもしれない。肉棒を咥え込む淫らな穴を見せつけながら、歩は妖艶に腰をくねらせる。   「ド淫乱じゃん……」    思わず呟いていた。俺の声が聞こえたのか、歩は少し体勢を変え、腰の回転を速くした。俺の胸に手をついて上体を支え、絹のような黒髪を振り乱しながら、ずぷずぷと雫を跳ねて、ひたすらに奥を穿つ。   「はぁっ、あッ、きもちい、じゅん……っ!」 「夢中で腰振っちゃって。奥、そんなに好き?」 「すきっ、すきぃ、……ぅぅ、きもちいっ」 「他には? 好きなとこ当ててみな」 「ッ、やだ……」 「俺に教えてくんないの? 歩の好きなとこ」 「ぅ、あぁ……っ」    歩はまたも少し体勢を変えた。手を後ろにつき、腰を浮かして、浅めに挿入する。それこそ、俺のモノが出入りする様が丸見えだ。切っ先を腹の内側に押し当てるようにして、歩はゆるゆると腰を遣う。薄い腹に俺の形が浮き出てくる。   「ふーん。歩はここが好きなんだ」    俺が揶揄すると、歩は首を横に振って答えた。ただでさえ火照っていた肌が燃えるように熱い。   「すき……じゃ……」 「好きだろ? ここぐりぐりされんの、一番好きじゃん」    俺も腰を揺すって手伝った。腹の内側、ちょうど前立腺に当たる箇所だ。結局、ここが一番の性感帯なのだ。カリ首でごりごり擦ってやると、歩は涙を散らして嫌がって、夢中で腰を振りたくる。   「ほらな? ナカびっちょびちょに濡れてるし、エロい穴がヒクついてんのもよく見えるぜ」 「やっ……、みんな……っ!」 「見まーす。っつか、お前が見せてきてんだかんな? 淫乱な穴、そんなに俺に見てほしい?」 「ちがっ、ぅ゛うう」 「でも好きだろ? 気持ちい?」 「ひぅ、う゛、きもちっ、すきっ……!」    ベリーダンス並みの動きについてこられなくなったのか、たくし上げていた浴衣の裾が垂れ下がり、秘めるべき場所を隠してしまう。けれど、それはそれで何とも淫靡だ。想像力が掻き立てられる。高みへ昇り詰めようとする花芯が、薄布をいじらしく押し上げている。  俺は歩を抱き寄せて、両手をしっかりと繋ぎ合わせた。深い突き上げに、歩は腰を震わせて、繋いだ手を握りしめた。   「あぁ、もッ、いく、いっちゃうっ」 「ん、いっぱいイッていいからな」 「じゅんッ、じゅ、いく、いぐっ、ん゛ッ、んん゛んッ!!」    繋いでいた手に力が入る。指先がきゅうっと丸まって、俺の手の甲を引っ掻いた。ビクッ、ビクン、と腰が跳ね、その分だけ奥を貫いた。放った白濁液が、肉棒を伝って垂れてくる。   「ふぁ……あぁ……♡」    力尽きたように、歩は俺の胸に倒れ込んだ。余韻に浸り、四肢をビクビクと痙攣させている。淫らな穴も、いまだ落ち着かず収縮を繰り返している。繋がれたままの手に、歩は唇を寄せ、甘えるように噛んだ。   「じゅ、ん……」 「うん」 「……すき……」    密着している分、荒く乱れた息遣いが直接伝わってくる。加えて心臓の鼓動も。燃え盛るような体の熱も。   「すき……じゅん……」 「……俺だって……」 「きす……」 「したいの?」 「きす、すき、きす」 「なにそれ、しりとり?」 「……?」    俺の胸に顎を載せ、歩は本気で不思議そうな顔をした。しりとりではなかったらしい。キスが好きなのは知っているが、好きはキスなのか? どういう意味だよ。   「なぁ、すき……」 「チューしたい?」 「ん、……」    なんだかもう、とろっとろだ。蕩け切った蜜壺よりもとろっとろ。それでも、快楽に溺れ切ってはいるけれど、俺を映す瞳の色は昔と変わらない。黒くて、美しくて、舐めたくなる。   「なぁ。もっかいいい?」    ここまで蕩かしておいて拒否されるはずがないと思いつつ、俺は一応歩に尋ねた。答えはもちろん、分かり切っている。

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