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51. まるで恋人
「あ、あの……」
懐かしくて好ましい匂いを思う存分吸い込めるって、幸せだなぁ……なんてうっとりしていたら、困ったような声が頭上から聞こえてきた。
んー? どうしたのー? そう思って顔を上げると、なぜか顔を赤くしたフレッドが斜め上の方向を見ていた。
……?
……あっ!
「ご、ごめん!!」
今、自分が何をしていたのかやっと把握して、フレッドからパッと離れた。
本当はまだ離れたくないのに……って本能が訴えるけど、さすがにこのタイミングで抱きついて、匂いを嗅ぎまくるのは良くないだろう。
「あ、うん。……大丈夫」
少しお互いにモジモジしながら、次の台詞を探す。
久しぶりの再会だというのに、僕は何をしているんだろう。無意識に吸い込まれるように、胸に飛び込んでしまった。
いくら会いたいと願っていたからと言って、いきなりはないよね……。
「元気、だったか?」
気まずい空気を消し去るように、フレッドは平静を装って話しかけてくれた。
「……うん、元気……だよ」
心配をかけたくないから、空元気でもすぐ答えられればよかったのに、僕は言葉に詰まってしまった。
フレッドと会えなくなってからの日々が、思い出される。本当に、いろいろなことがあった。
前向きにまっすぐに歩くことを、諦めようとしたこともあった。
辛いことも多かった日々を思い出していたら、自然と下を向いてしまっていたらしい。気が付くと、僕の視線は自分の足元にあった。
これじゃあいけないと、無理やり笑顔を作る。そして、改めて「元気だよ!」と伝えようと思って顔をあげたら、フレッドが両手を広げたポーズで立っていた。
「……?」
フレッドの意図するところが分からなくて、僕は首を傾げた。
「……おいで……」
ちょっと照れくさそうにしながらも、フレッドの放った言葉。僕は瞬時に理解することができなくて、もう一度首を傾げた。
「俺の匂い……安心するみたいだから……」
「……っ!」
元気のない僕を、慰めようとしてくれているのだろうか。
けれど、おいでとか言われるとは思わなくて、僕はあたふたしてしまう。
そしたら、腕をぐっと掴まれて、僕はフレッドの胸に飛び込む形になった。
同時に、僕の鼻腔をくすぐる匂い。あっという間に、ふにゃ~っと力が抜けてしまう。
精神安定剤だろうか。さっきまで気持ちが落ちかかっていたのに、一気に幸せな気持ちに包まれた。
フレッドは胸の中に飛び込んできた僕を、愛おしそうにぎゅっと抱きしめた。
……え。これじゃあまるで、恋人同士みたいじゃないか。
僕の心臓はうるさいくらいに、バクバクと大きな音をたてた。
今すぐにでも逃げ出したくなるくらいに恥ずかしいのに、大好きな匂いとぬくもりが僕を包み込み、離れたくないと思ってしまう。
でもなんだろう。以前にも何度か感じたことのある、この妙に懐かしい感じは。
まるでずっと前から知っているような、そんな感覚に襲われる。
戸惑いながらも腕の中で安心しきっている僕の頭を、フレッドは優しく撫でてくれた。
頭を撫でて、そのまま耳元から頬を優しくなぞっていく。
くすぐったいよと言って、僕がくすくす笑いながら顔を上げると、『リク』はちゅっと唇に触れるだけのキスを落とすんだ。
フレッドの頭を撫でる仕草と『リク』との記憶がリンクする。
まるで、同一人物かのように、記憶にピッタリとハマった。
記憶の中の『リク』に思いを馳せていると、フレッドは撫でるのをやめて、僕を胸から引き離した。
そして、僕と目をしっかりと合わせた。
「俺、前世の記憶を思い出したんだ……」
「え……っ?」
僕が驚いて短い声をあげると、フレッドはニッコリと微笑んだ。
「ひとつ、質問していいかな?」
「質問……?」
フレッドの言葉を聞き、いろいろな可能性を考えた。
でも、もし勘違いだったら……。
僕は、そうであってほしいと願いながら、フレッドの次の言葉を待った。
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