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52. これからも
「ミッチの大切にしてる指輪なんだけど……」
「あ……っ! 指輪……?」
正直、ちょっとだけ僕の想像していた質問と違った。
けれど、全く違うというわけでもない。
だって、僕の大切にしている指輪は『リク』にもらったものだから。
前世の記憶を思い出したってことは……。
僕の心臓が再び激しく鼓動し始めた。
「誰に、もらったものなのかな……って」
フレッドは、まだ確信を持てずにいるのか、言葉を選びながらゆっくりと問いかけてきた。
きっと、大切なことだから、慎重になっているのだろう。
「……これは……リクにもらったもの、だよ」
僕も、焦らず、大切に言葉を伝える。
前は引き出しにしまってあった指輪。
でも塔に閉じ込められ、もう出られないと絶望したあと、奇跡的に出ることができた。
だから、何があっても離したくないと思って、チェーンを付けて首から下げている。
僕は胸元に大切にしまってある指輪を取り出し、フレッドの前に差し出した。
「これ、だよ」
「手に取って、見てもいい?」
「……うん」
フレッドは、大切に僕の指輪を手に乗せると、じっくりと眺めた。
僕の心臓は、これ以上鼓動が速くなったら、爆発してしまうんじゃないかと思うくらい、激しく脈を打つ。
「やっぱり……」
「やっぱり……?」
フレッドの次の言葉を待つ。
もう、そんなに焦らさないで。僕の考えは、きっと間違っていない。
だから……。
「これは、俺……『リク』が、『ミチ』のために買った、婚約指輪だ……」
手元の指輪を愛おしそうに見つめたあと、その優しい眼差しで、僕を見た。
そして、泣きそうな笑みを浮かべた。
「やっと会えたな……ミチ……」
「リク、なの……?」
夢みたいで、半信半疑で問いかけてしまう。
だって、もう、諦めかけていたから……。
あまりにもいろいろなことが起きすぎて、何度ももうだめだって思ったから……。
「そうだよ……。まだ忘れずにいてくれて、ありがとう」
「……リクっ……!!」
僕は、これは夢じゃないと分かった瞬間、リクの名を呼びながら、フレッドの胸に飛び込んだ。
転生してからの怒涛のような人生の記憶が、次から次へと思い出されて、僕は胸に込み上げてくる感情を止めることはできなかった。
まるで子どものように、わんわんと声をあげて泣きじゃくる。
そんな僕を、ぎゅっと抱きしめたまま、「大丈夫、大丈夫」と言いながら優しく頭を撫でてくれた。
……そうだ。僕がお守りのようにずっと言っていた「大丈夫」という言葉は、リクが口癖のように使っていた言葉だ。
僕になにかあると、いつもこうやって抱きしめて、頭を撫でて「大丈夫、大丈夫」と心が落ち着くまでそばにいてくれた。
「俺も、お揃いの指輪、持ってるんだ」
泣きじゃくっていた僕が、やっと落ち着いた頃、フレッドはおもむろに指輪を取り出した。
「あっ……」
フレッドが出してきたのは、サイズが違うけれど、明らかに対になっている指輪だった。
「俺が孤児院に置き去りにされたとき、手紙と共に添えられていたものだと聞いたから、ずっと俺を産んだ人のものだと思っていた。……けど違ったんだな」
フレッドはそう言いながら、僕にその指輪を渡した。そして、僕の持っている指輪を「かして」といって持っていった。
何をするんだろう? と、不思議に思いながら見ていると、フレッドは僕の前ですっとひざまずいて、静かに指輪を差し出した。
「生まれ変わって再会出来たのは、やっぱり運命なんだと思う。……これからもずっと一緒にいたい。俺の生涯の伴侶になってくれませんか?」
……っ!
僕は大きく目を見開いて、フレッドを見た。
僕の、聞き間違いではないのだろうか?
思わず、自分の頬をギューッと引っ張ってみた。
「いたい……」
夢じゃ、ない……?
もう一度、目の前のフレッドを見ると、不安げに瞳を揺らしていた。
「ミッチ、返事は……?」
僕の答えは、ただひとつ。他の選択肢なんて、あるわけがない。
「はい! よろしくお願いします!」
僕は溢れ出しそうになる涙をこらえながら、大きな声で返事をした。
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