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chapterⅤ 向き合う好意①
自宅のダイニングテーブルに向かい合って座る夕食。昼の出来事を引きずっているか、慎文は一切喋らずに折角作った料理も食が進んでいないようだった。
「おい」
呆然としている慎文に声を掛けたが反応がない。
ずっと満面の笑みで眺められても居心地が悪いが、あからさまに鬱屈とした態度も気になる。
和幸は痺れを切らして慎文の額に強めのチョップを食らわせると、漸く「いたあっ」と額を抑えながら声を発した。
「食べないなら自分で片付けろよ」
「た、食べるよ……」
和幸から注意を受けて今日の献立であるトンカツを口にしたが栗鼠が齧っているのかと言いたくなるくらい一口が小さい。
帰りも慎文の方が催事の片付けで遅くなり、一緒に帰ることは叶わずして、あれから真面に会話をしていない。昼の事を問う機会がなかった。
やはりこの話に触れてやらなければ慎文の気も晴れてくれない気がした。
「そういえば、昼のやつ。何で嘘ついたんだよ。他人に付き合ってるなんて言う必要なかっただろ。仮にも俺たちは期間限定で付き合ってんだから」
「それは……。ごめんなさい。でも、そうしないとまた先輩に……」
慎文は箸を置いて目を伏せると、何か言いたげに口ごもる。何か後ろめたいことでもあるのかその先が続かない。
「先輩って昼のあいつか?お前の学校の先輩だったのか?」
「うん……。中学校の時の部活の先輩……」
言葉を詰まらせながらも和幸の問いに答える。
「その先輩ってヤツ。俺の名前知ってたけど、それってお前が関係してるのか?」
「……うん」
小さく頷き、肯定してきたことから、やはり和幸の憶測はあながち間違っていないような気がして、自分も箸を置いてもう少し詰め寄ってみることにした。
興味ないし、知りたくもないと思っていたが、少なくも此奴が自分にあんなことをしたことと関係しているかも知れない。怖いものみたさで知りたくなった。
「話せよ。なんかあるんだろ?」
「カズくん。これ聞いて俺のこと嫌いにならない?」
今にも泣きだしそうに瞳を潤ませ、怯えている。嫌うも何も既に此奴のことは拒絶しているにも関わらず問うてくるので、一瞬だけ頭を抱えて考えたが、その行動が慎文の不安を余計に煽るような気がして抱えた手をテーブルの上に置くと深く息を吐いた。
「嫌うか嫌わないかは別として、話は聞いてやるよ」
慎文と奴の先輩である男の話を聞いた和幸は「一旦、頭を整理させてくれ……」と言い残して自室へと籠った。
自室のベッドに腰を掛けて指を組んだ手に額を当てて考える。慎文の昔話は奴に嫌悪感を抱いていた和幸の意識を変えるものだった。
それほどまでに奴を可哀相と言うべきか、奴も奴で被害にあった身というべきなのか和幸の心を複雑にさせた。
和幸のことは小学校五年生に上がる頃からただの幼馴染としてではなく、恋愛対象として意識していたという。奴が中学校に上がってもやたらと懐いてきていた故に、納得はできたが苦虫を噛み潰したような思いで聞いていた。
そんな慎文でも同性に好意を寄せてしまったことに後ろめたさを感じていた時期があったらしく、それなりに葛藤があったらしい。
その先輩とやらと関りを持つまでは、和幸への気持ちは内に秘めるものとしてしまってつもりでいた。
中学校へと上がり、バスケ部に入部し二年生になった年。櫂理人かいまさととかいう、デパートで会った一学年上の男と同じ部活仲間の先輩が更衣室で性交渉をしていたのを見てしまったことをきっかけに、半ば強引に行為を迫られ男としての初めてを奪われたと話してきた。
そのうちに好意を寄せていた和幸のことも男に話してしまい、和幸のことをダシにして何度も行為を迫られ、断れなかった。
先輩との行為を止めたいと訴えた慎文は「カズくんと付き合えたら止めてやる」と言われ、焦りからあの時、和幸にキスを迫ったのだと告げられた。
和幸がキスを拒絶した後も、寂しさも相まって先輩との関係を強く断ち切ることができず、先輩の卒業まで関係が続いていたことも赤裸々に話される。
慎文が話し終えた後「衝動的だったとはいえ、カズくんに不愉快な思いをさせてごめんなさい。
本当はあんなことするために部屋に行ったわけじゃない。カズくんに想いを伝えたくて、カズくんに受け入れてくれて欲しくって必死だったんだ……。
でも、地元に帰ってこないって知ってカズくんが遠くに行ってしまうようで不安になって気持ちに余裕がなくなってあんなことを……。ごめん」と謝られたが、慎文の言葉に返してやれるほどの頭の整理は追いつかなかった。
和幸に好意を寄せていたとしても、あんな純粋で気弱だった慎文が性に関して、歪む原因になったのは間違いなく櫂だ。
慎文も被害者だっただけに百パーセント彼が悪いとは言い切れない。それに、あの時は自分も餓鬼だったとは言え、断り方はあったように感じた。
逃げずに慎文の気持ちと真っ向から向き合ってやれていれば奴の気持ちも清算できたかもしれない。慎文が和幸を犯すようなこともなかったかもしれない。
奴とどう接してやるのが正解なのだろう。訳を聞いたからと言って和幸にした過ちは許せないにしても邪険に扱うには、あまりにも可哀相な気がして突き放すこともできない。
そんな答えの出ないことを永遠と考えては気づけば朝を迎えていた。
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