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chapterⅤ 向き合う好意②
寝不足の眼をこすりながら洗面台へと向かい、歯を磨く。
洗面台へと向かう途中で奴が台所に立っていたような気がしたが、気まずさで声を掛けずに来てしまった。
慎文は和幸のことが好きで仕方がなくてやってしまったこと。和幸が邪険に扱ったことで初恋に囚われたまま、気持ちを引きずってしまった慎文は踏ん切りがつけられずにここまで来てしまった。
そろそろ自分が舵を取って解放してやらないといけない。
その為にはどうするのが奴にとって最良なのだろうか。
歯を磨きながら、働かない頭をフル回転させ考えていたところで、背後から鏡越しに渦中の人の顔が映し出されて思わず声をあげた。
驚きのあまり、唾液を吸い込んでしまい噎せ返る。
「ごほっごほ。おまっ……。急に出てくるなよ。びっくりするだろ」
「ごめん、カズくんさっき挨拶してくれなかったし。やっぱり軽蔑されてるのかなって思ったら気が気じゃなくて……」
口を濯いで振り返ると、悲痛な面持ちで慎文が突っ立っている。
確かに昨夜は自分に意識が向くあまり、奴にとったら冷たい態度に感じたのかもしれない。奴も奴で目の下に隈が出来ていたことから充分に睡眠がとれなかったのだろう。
不安の様子を隠せない慎文と鏡の中で視線がかち合う。
和幸は歯ブラシを鏡前のスタンドに立てかけると鏡ではなく、右隣に並んでいる慎文の方へと向き直った。
「軽蔑はしてないから安心しろ」
「本当に?よかったあー」
慎文が胸元に手を当てて大きく安堵の息を漏らす。
「まあ、だからと言ってお前が俺にしたことは一生許すつもりはないけどな」
「それは……。ごめんなさい。俺もカズくんの気持ちを考えずに行動して、傷つけてしまったことは凄く後悔してる。許されるとは思っていないけど俺、これ以上カズくんに嫌われたら生きていけない……」
誰かを好きになって好き合って愛し合ったことのない慎文がゲームに勝ってまでも叶えたかった望み。
そんな奴が恋人ごっこをしたところで満足いくはずなどないのだろう。自惚れているわけではないが、この期間が終わっても奴は好きだと言い続けてくるに違いなかった。
「大袈裟に言いすぎだろ」
「大袈裟じゃないよ。それくらい俺はカズくんのことが好き。今だって、本当の恋人みたいで毎日楽しいし、先輩に言った時はカズくんに怒られそうで自信がなかったけど、いつか胸張ってカズくんの恋人だって言いたいくらいには思っているんだよ」
「それは無いって約束だろ。今だけの話だって……」
大袈裟かもしれないけどこれが慎文の本気で、和幸自身は向けられている好意を真剣に受け止めなければならないことは分かっている。だから慎文の気持ちを受け止めたうえで受け入れることは出来ないのだと告げてやらなきゃいけない。
「もちろん約束は守るよ……。でも、少しだけでもいいから俺のこと真剣に考えて欲しい……」
右手を包むように握られ、此方を見つめてくる。考える以前に答えは決まっている。
しかし、慎文の精一杯さから「嫌だ」とか「無理だ」と言って突っぱねることができなかった。
年月を重ねるごとに自分の中で慎文に対する警戒心が解けてきていることは自覚している。
それは、和幸が嫌だと言えばすぐに抱き着くのを止めるところとか、条件をだしてからは手以外には触れてこようとしない、忠誠さを見てきたからだ。
そんな奴の悲しむ顔を見たくないと思っている自分がいた。
「一応、考えてみるよ……」
「ほんとうにっ⁉」
同情が邪魔をして奴に本心を告げられず、答えを引き延ばす。
奴の表情があからさまに華やいだのを見て余計に胸が締め付けられた。
「ああ、分かったら、顔洗うからさっさとあっち行けよ」
「うん」
和幸は慎文を右手で払って追いやると、奴は嬉しそうに頷いては、鼻歌を歌いながら洗面所を出て行った。
慎文を少しでも期待させてしまった罪悪感に苛まれる。
一方で、奴がこの恋人期間を経て、和幸が言葉で告げてやらなくても満足して、吹っ切れてくれないだろうかと都合のいいことを考えてしまっている自分もいた。
それも、奴の気持ちから逃げているのと変わらないのに……。
シリ
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