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chapterⅥ 慎文からの熱視線①

「お前、明日で物産展最後だろ?明後日どっか行きたいところないのか?」  和幸は最後のお皿の泡を流しきると、水切りラックに立てかけて水道の蛇口を止める。  櫂との一件後の今朝、慎文は心なしか上機嫌だった。奴の上機嫌は今に始まったことではないが、顔を真っ赤にしながら飯を食うにしてもどこか落ち着きない。 スマホでニュースを眺めながら珈琲の入ったマグカップに触れようとしたとき、慎文の手に触れてしまい、和幸が「ごめん」と謝ったものの、心なしか奴の頬が綻んでいるのに違和感が拭えなかった。 それだけではなく、和幸が出かける直前の玄関先で靴を履いて振り向こうとしたとき、慎文の顔が近くにあったことに驚いた。   約束をしてから距離感を守ってきていた慎文の中で何かが崩れ始めているような気がして、けれど慎文から触れてくるわけではないので咎めることも出来ない。 もしかしたら前日の抱擁を拒絶しなかったことが、慎文に期待を与えてしまったのかもしれない気がした。 ここではっきり言ってしまうことも考えたが、奴も奴で今の恋人期間を楽しんでいることだし滞在中に水を差すようなこともできなかった。 あの時、奴との抱擁に嫌悪感はなかったものの何度考え直したところで慎文への気持ちは変わらなかった。慎文に対しては弟のように可愛い幼馴染止まりでそれ以上はない。その先もきっと、覆ることはないだろう。 どうしたら慎文が傷つかないような方法で諦めてもらうことができるだろうか。 考えた結果、最後くらいは奴と一日中過ごしてやることで慎文の心の中で整理をつける後押しができればと思った。 あの様子だと好きな人とデートすらしたことないのだろう。デートのひとつでもしてやれば満足して諦めてくれるかもしれない。その為にも今ここでちゃんと話す必要があった。 「うーん。カズくんと行きたいところ……。カズくんと一緒ならどこでもいいよ」  慎文はお皿を拭いていた手を止めると首を傾げて考え始める。  自らとなるとあんなに連れ回す癖に、いざ問い掛けて返ってきた言葉に愕然とした。 「どこでもいいって……。どこかないのかよ」 「うーん……」  慎文の要望に応えてやるつもりでいたが、なんの要望もないのでは埒があかない。和幸自身も今までの恋人とは相手の意向に合わせて出かけることが多かったのでデートプランを組むことがあまりなかった。  でもよくよく考えれば慎文だって地元の人間ではないし、何処に何があるなんて知らなくて当然だ。ここは年上の自分が慎文の楽しめるところを案内してやるべきなのかもしれない。 「分かった。土曜日はお前が行ったことがないようなところに案内してやるよ」 「ホント?それってデートだよね?俺、カズくんとデートできるの⁉」  再びお皿を拭き始めた慎文は嬉しさのあまりか、布巾をスライドする手が早くなる。 「ああ、まあそうだけど。慎文、あのさ。俺はお前のことやっぱり……」 「やったあー……。カズくんとデート楽しみだなあ」  これ以上は期待を抱かせてはいけない。最後だと理解させた上でするデートに意味がある。慎文の想いには応えることができないと告げようと口に出したところで、想像以上に奴が喜んでいたことで、喉元まで出かけた言葉を吞み込んでしまった。  お皿を抱いて身体をくねくねと揺らす慎文を見てこれ以上、告げる気にはなれなかった。

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